さて、ちょっと遅い…否だいぶ遅いティータイムを楽しんだ面々。「ねえゼル、僕もミリちゃんにあーんしてあげたい。なんてったっておにいちゃんだからね!」「駄目だ」「なら私も従兄だからあーんしても問題ないな!」「駄目だ」「ゼル、私闇夜がいるからもう大丈夫だよ?自分のケーキ食べて?美味しいよ」「嫌です」「嫌かぁ」という戯れの会話があったのはまぁ置いといて

紅茶を嗜んで、ケーキも食べて

改めて"ハジメマシテ会"を終わらせたら―――やる事は、ただ一つ





「さて、まずミリ君に蒼華達の元へ案内する前に―――少し話をしたい」






先に口を開いたのはカツラだった






「手短にいこう、時間も遅くなってはいけない。闇夜もいてくれる事だ、色々と説明がしやすい。……会場の皆は知らない情報だが、私達は【聖燐の舞姫】のミリ君が…【聖燐の舞姫】が行方不明になる"前の出来事"を闇夜視点で知っている」

「!!……闇夜の、視点で?」

「あぁ、【聖燐の舞姫】は私達を信用してくれていた。自分の身がどうなるか分からないのに、私達にあの子達を託し、敵の居所をも知るキッカケをも与えてくれた」






そして改めてカツラの口から語られる

【聖燐の舞姫】がロケット団のアポロとランスと対峙した事、凶暴走化したポケモン達を前に勇敢にも手持ち総出で戦うが―――蒼華と時杜と刹那の三匹が、白亜と黒恋の二匹を庇い戦闘不能になってしまった事。白亜と黒恋に三匹のボールを託し、二匹と闇夜をジョウト地方のシロガネヤマに飛ばし―――彼女は一人、敵の陣中に取り残される事になる

闇夜が居なければ判明されなかった真実。カツラの言う通り、この話は今まで公にされてはいない。何故ならば、この話には"ミリが不思議な力を使った"事が判明されてしまうからだ。先程会議で実際にミリは不思議な力を使ったが、それは"相手を守護する加護の力"である為、棚上げするとして―――ミリの尊厳を守る為にも、暗黙の了解で全員この件は他言せずにいたのだ






「蒼華達が、あの子達を庇って………けれどあの三匹を簡単に倒すだなんて、正直な気持ち…信じられません」

「そう思うのは無理もない。私達もそれには同感だ。三匹を戦闘不能にさせたそのポケモンは―――この突入の時点で判明している。レンによって倒され捕獲されたポケモンの名は、ゾロアーク」

「ゾロ、アーク………ゾロアーク!?」

「!…何か気付いた事が?」

「あ、ごめんなさい、つい……ゾロアークは化け狐ポケモン、主にカロス地方に生息しているポケモンだと……、………」

「「………」」

「ミリちゃん?」
「ミリ姫?」

「……いえ、大丈夫です。続けて下さい」

「…分かった、続けよう」






何かに気付き、悲痛な表情を浮かべるも―――沈黙を決めたミリに、レンとゼルはただ黙ってミリの横顔を見つめるだけ






「闇夜は【聖燐の舞姫】がリゾートエリアにいる間に合流したらしい。闇夜が合流してくれた事で【聖燐の舞姫】は別荘の襲撃から脱出し、あの小島で蒼華達と再会出来たそうだ」

「…そうなの?」

《あぁ。影の中に潜み、機会を伺っていた》

「……【聖燐の舞姫】さんと合流するまで、闇夜は今まで六年間…何処にいたの?」

《具体的な年月は知らんが、気付いたらしんげつじまにいた。主の気配を察知し、遠い土地から馳せ参じた次第だ》

「……そっか………だからあんなに………ごめんね、寂しい思いをさせてしまったね」

《…構わない。主が無事だったら、それだけでいい》






話は進む


【聖燐の舞姫】が行方不明になってから一週間。無事なのか、生きているのかも分からない、捜査も行き詰まり、手掛かりも何もない―――絶望的な時だったのは間違ない

しかし、そんな絶望的な状況に一つの光が舞い込んだ

キッカケは、マツバだった。マツバが得意とする千里眼でシンオウを見尽くして、相当疲弊しているのも構わずに、彼は視界をジョウト地方に移した。何故ジョウト地方にしたのかは本人のみぞ知る

しかし、そのお陰で彼は見つけ出す事が出来たのだ

己のプライドにかけて、

千里眼の修行者として―――







「マツバ君は本当によくやってくれたよ。そしてさらに、この話をするには一番重要な人を君に紹介したい。【聖燐の舞姫】の事を娘として慕い、娘の無事を願い、『彼岸花』のアジトを見つけるキッカケを作ってくれた人だ」

「呼んでこよう、ちょっと待っててくれ」






ミナキが席を立ち、部屋を後にする

部屋から出るミナキの足音を見送ったミリは、こてりと首を傾げた






「………もしかして、先程話題に出た人です?」

「そうだね。ここにいる全員の父親的存在になるのかな?」

「……ここに居なかったのと、モニターにはいらっしゃらなかったのは…何か理由が…?」

「彼はリーグの人間じゃないからと辞退しててね。…嗚呼、君に会いたくないだとかそんな感情は全くないから安心してくれ。気を楽にしてくるのを待ってあげて欲しい」

「……分かりました」

「それにここに居ないのは…アレだよ、彼ああ見えて、シャイだから」

「「「「シャイ」」」」

「恥ずかしがり屋だから気にしないでくれ」

「「「「恥ずかしがり屋」」」」

「皆さんすっごくツボってません?」

《カツラにしか言えない台詞だからな…》






どこぞの首領(かつてのボス)を前にシャイだとか恥ずかしがり屋だとか、ハハハと笑って言えるのはカツラだけ

レンとゴウキとナズナとマツバは宇宙猫ならぬ宇宙ニャースを脳裏に過ぎらせた後、マナーモード状態になった。特にナズナが。プルプルブルブルと爆笑を噛み殺す声が響くばかり。あの顔面つよつよ雰囲気の大の大人がシャイで恥ずかしがり屋…控え目に言ってネタでしかない

なにやってんだか、とゼルは呆れた目で全員を見つめていた






「ハハッ、そんなシャイで恥ずかしがり屋な父親だが、どうかよろしく頼むよ。父親が加わって大家族が揃うんだ、楽しくなりそうだよ」

「フフッ、はい、分かりました」

「家族が溢れて大混雑だな…」

「収拾が着かなくなっても俺は知らないぞ…」

「僕としたらナズナさんが見事にこっち側に来てくれたから掴みは上々って気分だよ。……ミリちゃんミリちゃん、」

「?はい」

「ナズナさんに向けて"おにいちゃん"って言ってあげて。絶対に喜ぶから」

「え」

「は?????」







ペカーと笑顔を浮かべたマツバが場の空気を読まずに言う

始まったか…、と肩を竦めるレンとゴウキに、一人面白そうに笑うのはカツラだけ

当然ナズナはギョッした顔でマツバを見ている。「お前この状況で何言っているんだ」である。それはそう。不意打ちにボディーブローを食らった様なもの。矛先が他の人ではなくまさか自分だから余計にインパクトが強い

ニヤニヤとマツバは話を続ける






「いやぁ〜僕だけミリちゃんのおにいちゃん発言貰うのはずるいかもじゃん?長男として日々ストレスフルで頑張るナズナさんにご褒美があってもいいと思うんだよね。可愛い可愛い妹からのおにいちゃん呼びは、疲れた兄心にテキメンさ!」

「あらー」

「ちなみに僕は感動のあまり目の潤いがしっかり行き届いて乾燥しらず。ドライアイが克服した気分だよ!」

「泣いてんじゃねーか」

「違うよ、感涙とも言う」

「そこは冷静に言うんだね」

「まあまあそんなわけでミリちゃんもレッツ☆チャレンジ!あらん限りのかわいさをつめこんであげて!ちなみにナズナさんへの姿勢はもうちょい…そうそうその辺ね」

「おいマツバ…お前いい加減に、」

「えっと……サラツキ博士、失礼を承知で……んん。







 ナズナおにいちゃん?(きゅるりん」

「ン゛ン゛ッ゛!!!!」







ミリのつぶらなひとみ!(盲目Ver.)

ナズナは強い衝撃を受けた!

攻撃力がダウンした!

防御力がダウンした!

こうかはバチクソばつぐんだ!!


ナズナは胸をギュッと抑えてその場に崩れた!







「(死んだか)」

「(死んだな)」

「(死んだね)」

「(ミリ様も酷な事をする…)」

「グッッ………俺には…ゴウキだけじゃなく…妹が、いた…、だと…!?…………なるほど、





そ う い え ば そ ん な き が し て き た」

「混乱してるねぇ」

「そんなわけないだろ落ち着け」

「確かに黒髪で武道の達人なら……母さんの隠し子の可能性が……!?いやあの母さんの事だから流石にそれは………しかし、顔は似てなくてもそういう事もある。ゴウキとも似てなくてもそういう事もある。なるほど、問題ないな」

「だいぶ混乱してるね??」







ナズナはこんらんしている!

ナズナはじこあんじをした!

ナズナは妹(※概念)を作り上げた



ナズナはイマジナリーシスター(妹の姿)を手に入れた!(テッテレー






「ミリちゃんとってもいいよ!僕の目論見通り、長男は妹のかわいい仕草に一等弱いのが証明されたよ!」

「あらー」

「なんでこいつこんなにテンション高いんだよ…」
「ミリがいるからだろうな…」

「このまま矛先を変えてみよう。次の標的はゴウキさんだ!」

「遠慮するが?」

「絶対ゴウキさんもナズナさんみたいになるって。ミリちゃんの妹力でもれなくゴウキさんも完全におにいちゃんさ!そしてミリちゃん今度はこっちを向いてもらって…そうそうそっちそっち」

「容赦無く巻き込もうとするな。舞h…ミリ、マツバがああ言っているが無理にやらなくていいk…」

「んー……






 ゴウキおにいちゃん?(うるうる」

「…………………」

「…?ゴウキ?…あれ反応がない…涙が足りなかったかな………ゴウキおにいちゃん?(うるうる」

「……………、………







 ングフッ………」

「時差で死んだぞコイツ」

「兄弟揃って戦闘不能だね」







ミリのうるんだひとみ!(盲目Ver.)

ゴウキはこらえるを使った!

攻撃力がダウンした!

防御力がダウンした!

回避力がダウンした!

こらえるはうまくいかなかった!!



ゴウキは口から血を流して(※概念)天を仰いだ






「喜んでくれているって事でいいんでしょうか…?」

「喜んでる喜んでる。安心してくれ、十分過ぎるくらい喜んでいる。あの二人にしたら中々見れない反応だよ。凄く喜んでくれているから積極的にやってあげるといい。多分なんでも言う事聞いてくれるはずさ」

「カツラさん余計な事を……!」

「俺じゃなければ耐えられなかったぞ……」

「ゴウキさんゴウキさん、安心して。耐えてなかったから。ミリちゃんのかわいさにやられかけてたの僕はしっかり視ていたから」

「人の記憶を消すにはやはり暴力が正義だな」

「待ってちょっとゴウキさんらしからぬ発言が!!…待って待ってその手はどういうつもりなのかな…!?」

「俺の分まで頼んだゴウキ」

「任せろ」

「アーーーーーー!!!!」






可愛い可愛い妹(長女)を前に、ちょっとおいたが過ぎた弟(三男)に制裁する弟(次男)と正気に戻り便乗する兄(長男)。ゴウキの剛腕からくる握力により、マツバは頭をギチギチされ悲鳴を上げる

本来であればどこにでもありそうなありふれた家庭の一つの様子。しかしやっているのは大の大人三人組だから端から見たら阿呆でしかない。この場にもしまだミナキがいたら、余計に混沌を極めていただろう。阿呆でしかない

そんな三人の様子を面白そうにカツラは笑い、レンとゼルは呆れた様子で眺めていた






「……阿呆しかいないのかここは」

「阿呆しかいねぇんだよなぁ…」

「皆仲良くていいね〜」

「お前はお前で相変わらずノリがいいな…」

「あはー」

「……しかしミリ様、お優しいのは素敵な事ですが…無理にこいつらのノリに合わせなくてもいいんですよ?一度調子に乗らせるとろくな事になりません。図々しさが増すだけです」

「フフッ、大丈夫だよ。こういう面白いノリは結構好きだよ?見ている方も聞いている方も、自分がはっちゃける方もね〜」

「いえ俺が言いたいのはそういう事ではなく、」

「それにここにいる人達はゼルのお友達だもんね。所謂立場を超えたお友達、ていうのなんでしょ?だったら尚更楽しく要望に応えなきゃじゃん?」

「ともっ…!?」






"立場を弁えない物言いでミリ様を不快な気持ちにさせるかもしれない"という総監としての意見と、"そのめちゃめちゃ可愛い姿を自分以外の奴等に見せたくねぇ"という己の不純な感情をオブラートに包んで言った言葉だったが―――自分の言いたい事の一つも伝わる事なく、ミリからまさかのボディーブローを顔面から食らう事になろうとは



ゼルは絶句した

まさかミリからそんな言葉を頂いてしまうとは


レンは噴出した

まさかミリから直接「マツバとミナキはゼルの友達」という言葉をゼルに突き付けた事を






「ミリ様?ミリ様何か勘違いしていませんか?俺は別にこいつらなんかと友人関係にになった覚えは…」

「そうさ僕達は友達さ!立場を超えた友達さ!」

「おい!!」

「なんてったって同じ釜の飯を食べた仲!それはもはや友と呼べずになんて呼ぼう!…という感じだから、僕達はもれなくお友達。つまりミリちゃんとも友達だから、遠慮しなくていいんだからね!」

「上手い具合にオチを作ったね」

「仕方のない奴だな」

「マツバお前頭無事か?」

「正直めっっちゃ痛い」

「いや頭の中」

「それどういう意味かな?」

「やっぱりね!だったら尚更、ゼル、あまりお友達を邪険にしちゃダメだよ?ゼルにとって貴重なお友達なんだから」






ミリがそう思うのも無理はない。会議中やら先程再会した時のマツバとミナキの言動も、それに対応するゼルの態度も、立場を無くせばそれ即ち「友人」と言ってもなんらおかしくない

三人が再会した辺りまでミリは「本当この二人面白いね…?なんだかんだゼルも容認しているみたいだし、どういう関係なんだろう。友達かな?」と疑問を浮かべていたが、いざ実際に接してみると「なるほどやっぱり友達だったからか〜」と一人納得していたりした

それにミリは気付いていた。ゼルは"総監"として立場を主張し嫌がる素振りを見せていたが―――個人的な気持ちとしては、二人を友人として見ている事を



まぁそれをゼルは認めるつもりもなく、むしろ自分が二人を友人として見ている事にすら気付いていないからミリの言葉とて反論したい気持ちでしかない







「ミリ様ちょっと俺とお話しましょうか。俺達は少々認識のすれ違いを起こしていると思うのですが」

「そのまますれ違ってもいいと思うがな」

「あ゛?何か言ったか愚弟」

「別に」

「やっぱりミリちゃんはそう言ってくれると思っていたよ!ゼルの立場は重々承知しているからこそ、友は増やしておくべきだと僕は思っているしね」

「……………、まぁ……そうだな、友は………大切にすべきだな?(顔を逸らすも肩が笑っている」

「……………、総監とお友達なんて恐れ多いけど……まぁ、悪くはないね?(笑いを噛み殺す」

「いや、俺は遠慮する。お前と友人になってしまったらもれなくアイツも着いてくるから絶対に俺は遠慮する」

「いやそこは友になってあげなよナズナさん!」





なんせゼルは総監だ

立場が本人の意思関係なく彼を孤独にさせている


ゼルの心を見抜いていたマツバは、それこそミリが居る事を大いに利用し「ミリちゃんもゼルの友達作りを手伝ってあげて」と面白そうに言う。絶対にミリの善意には逆らえないのを見抜いての台詞は、しっかりとゼルの怒りのボルテージを上げていく

しかし残念な事にミリは隣の存在を完全にスルーして「いいとも〜」と呑気に笑っている

さらにその隣に座るレンはマナーモードで震えていた。先程の会議で大爆笑していたツケが返ってきた様なレベルだった






「テメェ等ミリ様がいるからって好き放題言いやがって!!調子に乗ってんじゃねーよぶっとばすぞ!!!」

「ゼル、お口が悪いよ。めっ」

「しかしミリ様俺は…!」

「ゼル、ダメ。めっ」

「はい、ミリ様」

「(爆笑)」
「(爆笑)」
「(爆笑)」
「(爆笑)」
「(爆笑)」

「お前等本当に後で覚えてろよ…!」

「ゼル、めっ」

「はい」

《コントか?》






ガチャ







「連れてきたぞ!……む、私を差し置いて楽しくしているのはずるいぞ!仲間に入れるんだ!」

「お前達は何をやっているんだ…」














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