「ひとまずお茶を淹れよう。ゼル、図々しくて申し訳ないが件の物は持ってきてくれたかい?」

「ん、ほらよ」

「「キターーッッ!!!!」」

「うるせぇミリ様の耳にダメージが行くだろうがッッ!」

「あ、ごめんミリちゃん。でも今だけ許して…!これが噂のカロス産高級紅茶とガラル産高級コーヒー…!うっっ缶だけでも一際眩しい…!」

「会議中本っっっ当に羨ましかったからな…!お前達だけずるいと何度地団駄を踏んだか!」

「いやぁ、私達も飲めるのは嬉しいね。感謝するよ。この時間なら全員紅茶の方がいいね」

「あ、私淹れに行きます。闇夜も居ますし、台所さえ教えて頂けたら…」

「それは駄目」

「遠慮するよ」

「危ないから」

「座っていろ」

「何もしなくていい」

「落ち着くんだ」

「魅力的な話ですが駄目です」

「そんなぁ」






再会後の戯れもそこそこに、さっそくカツラの案内で研究所の中に案内されたミリ達

案内された場所はこの研究所にとっては客間であり、レン達にはお馴染みの場所。緊急だった為流石にポケモンマスターを迎える程の大袈裟な歓迎ではなかったが、テーブルには美味しそうなショートケーキが用意されていた。台所に行く者達と所用で席を外す者達と別れ、部屋にはミリとゼルとレンが残される

借りてきた猫の様にピシッと背筋を伸ばしてソファに座るミリ。そんなミリを見兼ねて隣りに座ったゼルが口を開いた






「ミリ様、もうこの場ではポケモンマスターとしての顔は脱いでもらって構いません」

「!えっ………いいの?」

「えぇ。どうせ俺達の肩書きなど関係無くこいつらは接して来るでしょうし、ずっと気を張り続けていたのです………気を楽にしても問題はありません」






アイツ等も居ない事ですし、とゼルは続ける。手はミリに出されたケーキを持ち、食べれるサイズにフォークで切ってミリの口元に持っていく。またしても自然な動作でミリの口に"あーん"をする。本当に自然の流れだし普通に口を開いてケーキを受け入れるミリに闇夜が二度目していたのは置いといて


アイツ等、というのはミリのお世話係の四人である。別に居ても居なくても今更過ぎるのだが、流石に仕事上彼女達の前では"総監"と"ポケモンマスター"の顔でいなくてはならない。ゼルなりのケジメでもあるし、当然ミリへの配慮があれば、これ以上彼女達をこちらに付き合わせるわけにはいかないという気持ちもあった。彼女達はお世話係の仕事以外にも通常の仕事を抱えている。これ以上はオーバーワークになってしまう

それこそ今更だし彼女達はそれすらも美味しく頂くからその配慮はぶっちゃけ意味ないのだが


そもそもここにいるメンツと自分とのやり取りを見せるわけにはいかない。総監の立場とはいえ、ほぼここにいる時は"素"である。素の自分の姿を見せるわけにはいかない。本当立場ってクソめんどくさいばかりだ

自分本意の理由は色々と出てくるが、今もなお気を張るミリへの言葉でもある。自分も素を出すからミリ様も素を出していいんですよ、と。ゼルは口には出さずにそう伝える



ミリの横、ゼルの反対側に丁度座ったレンはゼルの言葉に「へぇ?」と反応した。やはりそこは双子、ゼルの意図が理解したらしい






「ガイル達をリーグに戻したのはそういう理由か。いいのかよ、総監が権力を使って私情を挟むのは」

「別に構いやしねぇよ。ガイルはああ見えて小言が多いんだ…少しくらい自由にしてもいいだろ?」






これは事実。ガイルは小言が多い。ゼルの後ろに静かに控える印象が強いが、彼は言う事は言う。冷静に理論と論理を淡々とぐさぐさに言う物言いは容赦が無い

総監になる前のゼルをビシバシ鍛え上げたのは誰を隠そうガイル本人だし、総監になった後も容赦無くゼルに進言を、否、小言をめちゃめちゃ言いまくる。ゼルに進言出来るのは本部ではガイルだけなので彼の存在はとても貴重でしかないが、言われた側はたまったもんじゃない

まぁこの場にガイルがいなくて正解なのは事実。ゼルは知らないが実際ナズナはガイルの事を嫌悪しているしトラウマを抱えている。カツラにとっても親友を殺めかけた存在なのもあっていい感情は無い。ミリの事、『彼岸花』の事で手を組んでいるだけであって本来は敵同士。今この場にいたら雰囲気は最悪なものだっただろう。そんな中にミリを置くわけにはいかない


当然そんな裏事情を全く知らないミリは、あーんしてもらっているケーキをもぐもぐしながら苦笑を零した






「ゼルも今日の為に色々とお仕事立て込んでいたもんね………私はまだお仕事した事ないからその大変さがまだ分かってあげられないのが申し訳ないよ」

「その慈悲深いお心遣いは嬉しい限りです。が、ミリ様の本格的なお仕事はまだ先ですし、初仕事がこの事件の解決を優先して頂きたいところですね」

「うん、分かった。でも休む時はしっかり休んでね?」

「えぇ、感謝します」

「………実際にミリ、お前は今日まで何していたんだ?こっちにはそっちの様子が全然分からなくってな、元気にしているのかも知らなかったんだぜ(ゼルを睨む」

「(素知らぬ顔)」

「そうなんですか?だから皆あんなに驚いて……簡単に言ったらお勉強していました。私の知らない情報が詰まっていますからね、本部は。帰ったらさらに勉強に励まないと。空白の六年分の知識を取り込まないといけませんから」

「そうか………お前もあまり無理はするなよ。夢中になったらトコトン夢中になるタイプだからな……休む時はしっかり休め、いいな?」

「フフッ、はい、ありがとう御座います。やっぱりバレちゃうものですね……そういうレンガルスさんも、しっかり休んで下さいね?」

「……………あぁ、ありがとな」






本当だったら、関係がリセットされていなかったら―――きっと今の会話は、とても心温まる優しい会話だっただろうに

一人の"友人"としてレンにそう伝えるミリに、レンは小さく笑う。相変わらず、自分を差し置いて相手を気遣う姿勢は変わらないなと。嗚呼、本当、こういう他愛のない会話ですらささくれた自分の心が、癒されていく―――


まぁその穏やかな雰囲気も「はいミリ様、おかわりのケーキです。どうぞ」「むぐっ」という横槍で散ってしまうのだが

レンとゼルの間に見えない火柱がバチバチと弾く。レンも当時【三強】時代にゴウキを前に似た様な事をしていたから本当にこいつらはやる事なす事そっくりである。大人気ない

そんな双子の姿を、影の中から顔を覗かせていた闇夜は《心夢眼を外して正解だったな…》と呆れた眼で見ていた







「…?闇夜、今何か言った?」

《いや、何も言っていない》

「そう?あ、闇夜もケーキ食べる?美味しいよ」

《遠慮する》

「あらー」






やはりどんな姿になっても自分の主は相変わらずというか

左右の双子に挟まれ、バチバチと火花が迸る中平気でケーキを堪能する度胸が凄いと片付けていいものかとか

どうして左右から向けられる激重感情を前に平然としてられるのかとか

色々思う事があるが余計な火種を生ませない為にも賢く沈黙を決める闇夜だった






「うーん、この中で一番大変なのは確実にゼルだよね……」

「いえ、俺はまだまだ、」

「まあまあ。ね?」

「……………もう仕事なんて知らねぇ…俺はミリ様のお傍でずっとミリ様のお世話だけしてぇ……ミリ様に関わらない仕事なんてクソ………全て投げ捨ててぇ……」

「……社畜極まってんのな、お前……」

「あらあら。とりあえず軍服だけでも脱ごっか、ゼル。闇夜、ハンガーを借りてきてあげて」

《あぁ》

「つーか、おい、愚兄。お前何当然の様にミリにあーんしてんだ。介助とはいえそこまでしないはずだぞ」

「えっっっ」

「さて、知らねーな」

「えっっっ」







さて、そんな会話をしている内に台所に行った組と所用で席を外した組が戻って来るわけで

ここで改めて、全員が同じ席に座る事になる

ゼルが持ち寄った手土産の紅茶(カロス産)の香りがふわりと鼻をくすぐる。会場ではコーヒーを嗜んでいたレンとゴウキとナズナは「紅茶も悪くないな」「香りがいい」「流石カロス産、質が違う」と飲み、会場にいなかったマツバとミナキとカツラは「我慢した甲斐があったよ…!」「高級紅茶はやはり違うぜ…!」「うーん、おいしい」と感嘆の声を漏らす。その姿を(特にマツバとミナキ)呆れ気味にゼルは眺めていた






「美味しい紅茶、美味しいケーキ、文句なしのティータイム……そしてついに!華が…この場についに華がきた…!」

「ミリ姫が加わると一気にむさくるしい空間が華やかになるな。空気清浄機のプラズマクラスター並の華やかさだ!」

「いや急にどうした」

「また頓知な事を言い出したぞ」

「君達ずっと言っていたよね、全員揃った時の空間はむさくるしいって。否定はしないけど」

「だって前回皆とここでピザ食べた時そうだったじゃないか。状況が状況とはいえむさくるしいし無言だったし、あの場にミリちゃんがいたら違っていたんだって」

「……それはそうだが、しかし無い物ねだりをしたところで意味はないぞ」

「違うんだよ僕が言いたいのは可愛い可愛い妹のミリちゃんがいて欲しいんだって。せっかく全員集合していたわけだからさあ!やっぱ妹はいて欲しいよね!」

「お前等そのノリどこまで続けるんだよ。阿呆だろ」

「だっておにいちゃん寂しかったしー?」

「従兄も寂しかったぞ!」

「おじいちゃんも寂しかったね」

「カツラさんまで…」






ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい…






「…フフッ、あははっ」





鈴の鳴る声が、全員の耳に入る




ピタリと止まる空間

全員の視線はある一点に集中する



ハッ、とミリは口元を手で隠した






「ご、ごめんなさい……ちょっと面白くて…」

「そんな、謝る必要はないよ。元々僕達、こういうノリだったし。【聖燐の舞姫】のミリちゃんに対してもこんな感じだったんだ」

「といってもそれは私とカツラさんとマツバの三人の時であって、レンとゴウキさんはシンオウだしナズナさんとゼルの二人とはまだ出会えていなかったからな……集まってみるとだいぶカオスだな!」

「カオス過ぎて収拾が付かなくなっているがな」

「本当だぜお前等が余計な事を言わなきゃゴウキに強制送還される必要は無かったんだぞマジふざけんなよ」

「有言実行するゴウキさんには本当にシビれるよね。ビリビリだ。話聞いた時は爆笑させてもらったよ」

「おかげで私達は一ヶ月楽しく過ごせたわけだ!……あ、ミリ姫、語弊がないように言わせてもらうが、シェアハウスはしていないし一ヶ月つきっきりというわけではないぞ。ミリ姫にはミリ姫の用事があるし私達もこうみえて仕事もあるから、都合が合った時に構ってもらっていたんだ」

「私の方もこの研究所の設備の掃除とかしてくれてとても助かったよ」

「お前がいない事で逆に【聖燐の舞姫】のミリ様は自由にのびのび過ごせていたりしてな」

「あ゛?何か言ったか愚兄」

「別に」

「そもそもお前等のノリがキッカケで結果俺達の関係はリセットだ。どう責任取ってくれるんだよ高くつくぞ。あ゛?」

「いや本当、その件は本当にごめんとしか言えないよ…あの時まさかデンジが言ってくるとは思わなかったし……ねぇ?」

「そこは流石デンジ、ビリビリ痺れる一言だったな。電気タイプ使いなだけにな!」

「…………」

「消すな消すな、ハイライトを消すな。普通に怖いぞ迫力あり過ぎだ」

「ミナキ…お前も余計な言葉は慎んでやってくれ。しばらくこうなるぞ」

「ハハハハハ!すまん、善処しよう」

「だからミリちゃんも、」






シロナさん達みたいなフランクで全然構わない

今すぐ、とは当然言わない

ゆっくりでいいから僕達の事を知っていってくれたら嬉しい


そう言ってマツバは小さく笑う






「…ありがとう御座います






 ……マツバおにいちゃん?」

「僕がおにいちゃんだよッッ!!」

「適応力高いな…」

「そう返ってくるとは思わなかったね」

「マツバの笑顔が腹立つな」

「あ、ナズナさん僻んでいる?もしかして僻んでいる?ごめんねー僕がミリちゃんのおにいちゃん発言一番目にもらってしまって!」

「マツバの笑顔が無性に腹立つな」

「まぁ此処にゼルがいたとしても関係なく、僕達の前だけでも無理しなくていいんだからね?」

「おい、待ておい。なんでそこで俺の名前が出るんだよふざけんな」

「だってほら、ミリちゃんにしたら直属の上司なわけでしょ?一番気を張らなくちゃいけないNo.1だし、無理してでも繕わなくちゃいけないじゃないか」

「ふむ、それはそうだな。いくらお前がミリ姫を異常に敬っていても…立場は立場。ミリ姫とて気を遣うに決まっている」

「……その件はミリ様に常々口酸っぱく伝えている。この俺に、不要な気遣いは必要ないと」

「へぇ?そこは抜かりないんだ。それでも回りの眼があるから色々と難しいんじゃない?ゼルとガイルさんやあのお世話係さん達はよくても、他の人達は気分よくないんじゃない?その姿を察知しちゃうのがミリちゃんだよ?そこら辺はちゃんとフォローしてあげられるの?」

「当たり前だろ俺を誰だと思っている。もれなく本部全員は俺の手によってミリ様の優秀さと魅力を伝えてある。抜かりはねぇぜ、全員もれなくミリ様推しだ」

「待って?」

「もれなく布教済み…」

「なにをしているんだ本部は」

「そもそもアイツ等がミリ様に不要な感情を浮かべた時点で俺が直々に制裁を下す」

「待って??」

「恐怖政治かよ」

「職権乱用という言葉は理解しているか?」

「世間はそれを許さないと思うが」

「それこそ下劣な感情だった場合、ナニを言わねぇが徹底的に潰す。子孫を残さねぇレベルで潰す、島流しだ」

「待って!!??」

「「「「それは許す」」」」

「物騒じゃん止めてあげて!?」















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