『あらあら。やっぱりね』

『すみませんフレイリ、わたしは…』

『フフッ。いいのよ、これは大丈夫。実際にあのままだったらあの子達……そのまま植物状態、もしくは死んでいたかもだし。"貴女だからこそ"関与出来る領域に、"あの子達の魂"が落ちてきてよかったわ』

『…………無事に目覚めてくれるといいんですが……』

『そうね。…無事に何も欠ける事なく、目覚めてくれるといいわね』









そう、何も欠ける事なく、ね



――――――――
―――――










あれだけぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいと幼稚な口論を繰り広げていた四人(と巻き込まれた一人とポケモン達)は、サーナイトのテレポートによってあっという間にカントーの土地を踏む事になる

五人が降り立った場所はカントー地方にある、レンとゴウキとナズナにとってお馴染みなふたごじま。ふたごじまの空は地平線の彼方まで綺麗な夕焼け色に染まっていた。シンオウと比べたらまだまだ日没までは時間が長い。ふたごじまの山には遠くにキャモメの群れが飛んでいるのが見えていた


闇夜の眼を借りて回りを見渡していたミリは「あれ?」と首を傾げた






「………もしかして此処…グレン島じゃない?」

「カントー地方にあるふたごじまになります。元々カツラはグレンタウンのジムリーダーでしたがグレン島が火山噴火を起こした事で拠点を移し、現在このふたごじまでジムリーダーを勤めています」

「噴火!?………そっか。民間は無事だった?」

「えぇ、ミリ様が懸念する事態にはなっていません」

「…そっか。それはよかった…」





ミリが驚くのも無理はない。グレン島は今から三年程前に大噴火を起こし、島は火山岩を山積みにした状態で静かに鎮座している

ミリは当然グレンタウンを知っていた。ポケモンマスター認定試験で一通りカントー地方の街の特色を確認していたので、存在だけは知っていた。まぁ元々ゲーム上での知識もあったのは置いておくとして

時の流れは勿論、自然災害はどうする事も出来ない無情なもの。どの世界でも自然災害で受ける心のダメージは計り知れない。せめてもの、グレンタウンに暮らしていた人達が、健やかに暮らせている事を願うばかりである






「……此処が、ふたごじま……」

「……何か思い出したか?」

「…………?いえ、なんだか寒そうな場所だなって……」

「……………、そうか…」







レンの問いにミリは首を傾げる

レンとゴウキとナズナにとってふたごじまは馴染みのある島であり、また【聖燐の舞姫】のミリにとっても馴染みのあった島だった。何週間か一緒に泊まらせてもらえば、彼女の中でふたごじまの研究所は第二の帰る場所だと言えよう。ちなみに同列にマツバの家が該当する。一緒に暮らしたスパンで言ったら第一位がマツバ、第二が研究所、第三がマサラタウンの家というトリッパーあるあるな状態である

当然そんな事を知らない【盲目の聖蝶姫】のミリは首を傾げるだけ。故に月並みの感想でしかレンの問いを返す事が出来なかった






「確かにカントーの中で此処が一番寒い土地だな」

「ミリさん、寒くはないか?」

「はい、大丈夫です」

「実際にこの地はフリーザーが住み着いていたのであながち間違いではないです」

「!フリーザー!…それはとても気になる!やっぱり洞窟ってあるの?気になっていたんだ〜。ねえねえ、フリーザーに会えるチャンスとかは、」

「「「駄目だ」」」

「ぴえん」

「「ブイブイ!」」

《……主、ゼルジース、二匹が遊びに行きたいと言っているが……》

「少しの間なら構わない。サーナイト、二匹のお守りをしてやれ」

「サー」
「「ブーイ!」」

「!…ちょっとだけ私も、」

「「「駄目だ」」」
「駄目です」

「ぴえん通り越してぱおん」






ゼルから発せられたフリーザーの言葉にテンションを上げるミリだったが、さっそく先手を打たれて撃沈。ぴぇん通り越してぱおん。楽しそうに山の方に走って行く二匹(と後を追う一匹)を羨ましそうに見つめていた

ちなみに件のフリーザーは残念ながらブルーが既に捕獲しているので探したところで会えなかったりする。サンダーとファイヤーもブルーが捕獲しているので仮に探しても永遠見つかる事はない




さて、そんな会話をしていた時だった

遠くから三つの影がこちらに走ってくるのが見えた






「――――ミリちゃん!皆!」

「待っていたぞミリ姫!」

「さっそく来てくれて嬉しいよ」






その三人は言わずとしれた、

マツバとミナキとカツラの三人だった






「よぉ、さっき振りだな」

「邪魔をする」

「またこちらにこれてよかった」

「よく全員来てくれた。しばらく会えないと思っていたから…君達も来てくれてこちらは嬉しいよ」

「こいつら総監を足に使いやがって…」

「まあまあいいじゃないか!そのおかげで全員集合出来たのだからこちらは感謝しているぞ!しっかしお前の軍服やはりキラッキラのゴテゴテだな!疲れないのか?」

「いやぁゼルの存在は大きいよ。流石は総監!ありがたい!次は僕達をシンオウによろしく。それはともかくその軍服すっごいね?キラッキラのゴテッゴテ、肩凝らない?」

「だからテメェ等ちったァ立場の違いを考えろ!気安過ぎるだろ!」





カツラはレンとゴウキとナズナに歓迎の握手を、ミナキとマツバはゼルの背中をバシバシと叩きながら歓迎する

カツラとレンとゴウキとナズナの再会の様子はまぁいいとして。完全にマツバとミナキは友人に対するソレだし、容赦なくゼルの着ている軍服を興味津々と眺めてはバシバシ叩く。容赦ねぇし立場の事を考えたら確実にヤベェ事をしている。此処にシンオウ組がいたら顔を真っ青にさせたし、仮にセキエイ支部幹部組がいたら発狂から土下座モードである。カツラもカツラで年長者として二人を止めればいいのに、彼の中では可愛い戯れモードにしか見えないらしく放置されている

まぁゼルもゼルで怒鳴りながら「肩凝るし疲れるに決まってんだろ!脱ぎてぇわ!」と律義に返事を返しているから、根はそんなに嫌ってないのかもしれない。…ツンデレか?



そして三人の眼はミリの方へ向けられる






「ミリ君、改めてだね。ようこそ、ふたごじまへ。君の来訪を歓迎する」

「闇夜もよく来てくれた。心夢眼とやらは続けているが疲れてないか?安心してくれ、私達がバトンタッチしよう!」

「そうそう、目の神経は大事だからさ。白亜と黒恋も無事でよかったよ。…あれ、白亜と黒恋は?」

「あの二匹は今遊びに行っている。…きっと空気を読んでの事だろうぜ。ゼルジースのサーナイトがいるから大丈夫だろ」

「そうか。察しのよい子達だ」

《あぁ。主共々、また世話になる》

「……貴方達も闇夜の声が分かるんですね。…改めて、よろしくお願いします。言葉に甘えて心夢眼は解かせて頂きます」







歓迎の声を受けるミリだったが、心の中では一人驚いていた

あの闇夜が、影の中にずっといた闇夜が、テレパシーを一切他人に向けなかったあの闇夜が、普通に会話をしている。会議ではレン達四人と軽口叩けるくらい気安くしていたのにも驚いていたのに、こっちに来たらさらに三人が追加されただなんて。正直心が追いついていけてないのは無理もなかった

当然そのミリの心境に気付いていたマツバはミリに声を掛けた






「……色々と、感情が追いつかない事ばかりだったね。本当だったら一人で気持ちの整理も着きたいところかもしれないけど………もう少し、頑張ってほしい」

「はい、それは勿論」

「今も感情を押し殺しているね?」

「ッ」

「何も視えないからこそ、君の心は閉ざされた氷の中………敢えてそうして冷静になろうと頑張っている様にも僕は視える。…律している姿は、本当に偉いとしか言えないよ」

「………」

「君の養父のアスランさんが言っていたみたいに、無理に笑わなくていい。あの場ではシロナさん達がいたのもあって、色々と気を使っていただろうしね」






マツバは千里眼の修行者。千里の先を視る力を持つのと同時に、相手の心をも見抜く力を持つ。それ故に、対面したからこそ―――ミリが自分の心を押し殺し続けているのにも気付けた

ミリ本人が無意識で行っていた事とはいえ、面と向かって指摘を受けた事にミリは内心大きく驚いていた

エンジュジムリーダーのマツバの実績は正直確認していなかったから、今この瞬間はマツバの能力には気付けていない。なんせゲーム寄りなのかポケスペ寄りなのかまたはゲーム寄りかだなんて知るわけないし

しかも無理に笑わなくていいときた。キリッとしたマツバの様子を前に、嘘を繕ってもさらに見抜いてやるという意思を感じさせられる。それはレンもそうだしゴウキもナズナも同じ気持ちでいる。少なくともこの場にいる全員は容赦なくミリの誤魔化しを見抜いていくだろう。ミリはこの一瞬でこの考えに至り、遠い眼をした。こっちに来たのは間違いだったかもしれない

さて、遠い目をしたところで現在袋小路、囚われた宇宙人状態。きっとさらに取り繕っても無駄なんだと、この男はどこまで見抜いているのかと、少々警戒する気持ちが湧いてくるが―――






「といっても悲しい事に僕達は初対面、悲しいけどミリちゃんがそう身構えてしまうのはしょうがないよね。悲しいけど」

「マツバ君本音本音、隠されてないよ」






まぁそんな雰囲気も

呆気なく崩れるわけで






「だって分かってはいたけど一目で分かるこの一歩引いた感!初めて会った時とはまた違ったよそよそしさ!分かっていたけど!分かっていたけど!おにいちゃんは悲しいよォッッ!!」

「えっっっと……?」

「マツバは千里眼の修行者でな、相手の心の状態を見抜く力を持っているんだ。驚くだろう?」

「千里眼、ですか……それは凄いですね」






先程の真剣な雰囲気が一変して駄々をこね始めるマツバ。そんな展開になるだろうと予知していたレンは溜め息を、ゴウキは首を振り、ナズナはこめかみを抑える。呑気に解説をしてくれるミナキの言葉を聞きつつ、ミリは戸惑いしつつ思考を巡らす

千里眼、それは千里の先など遠隔地の出来事を感知出来る能力。肉眼で見えないような遠く離れた地にいる人々や物を見通せる力―――ミリ自身、"万里眼"という千里眼の上位互換の能力を持っていたが、視力を失った手前その能力は封じられている。もし可能としていたら簡単に敵の居所を見つけ出していたのかもしれない。まぁ、それはイフの話でしかないが

数多の世界の中で、千里眼を持つ能力者は当然いた。かなりレアだったが、彼等もまた優れた使い手で、中々に厄介だったのを記憶している。色々あり過ぎてそこら辺の記憶は今は濁したいところなので詳細は省くとして―――このマツバもまた、その厄介な人の一人だろうとミリは思う。千里眼、心を見抜く力すら持つ彼の実力は、本心を隠したい今のミリにとって厄介極まりないのだ

ていうか心を見抜く力って普通の人間がたどり着ける境地じゃないし、千里眼だけでも凄いのに心まで読めるとか普通に凄い。彼は本当に一般人か?一体どんな風に相手の心を見抜けるかは分からないが、頼むからプライバシーは守ってあげてねと思うしかない


何事にも節度は大切である







「気を付けて下さいミリ様、こいつの前ではプライバシーの欠片もクソもありませんから。安易に近付かない事をオススメします」

「ちょっとゼル!余計な事を言わないでくれないか!?ミリちゃんが警戒しちゃったらどうするのさ!」

「知らねーな。自分の行動を省みる事だ。つーかお前等はちったぁ立場の差を理解した上でミリ様に接しろ。初手から馴々し過ぎるだろふざけんな。会議始めの仰々しさはどこいった。カツラもカツラでこいつらに何か一言言ってやれよ、年長者だろ」

「僕はおにいちゃんだから知らないなぁ!」

「私はリーグの身じゃないから知らんな!」

「いやぁ、ハハハ」

「こいつら…!」







特殊能力を持つ者は必ず、彼にしか分からない悩みがあり、苦しみがある。世の中を生き抜く為にもその悩みや苦しみを隠しながら生きている

目の前のマツバもその内の一人だと、ミリは気付いていた。具体的な話は"今の自分"は聞かないとしても、彼の苦しみは痛いほどよくわかるから




―――とりあえず、







「……会議でも思っていましたが、マツバさんとミナキさん…………面白い人達ですね?」

「まぁな。あの二人が揃ったらだいぶ愉快になるぜ」

「その愉快な二人にこちらもかなり影響を受けている。特にナズナが」

「…………その話は止めてくれ……」









面白いのはそうなんだけど、

あのゼル(総監の姿)を前に、あのテンションのまま接する事が出来るのは普通にすごいと思うんだよね


と、一人思うミリだった












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