ミリの掌から現れた暖色の淡い光。ポゥ……ポゥ……と小さな光がたくさん現れ、やがては一つへと収集していく。集まった光はゆっくりと光の形を膨らませ、少しずつ大きくなっていく 暖かい光だった。けして眩しくもなく、目にも痛くない、優しい光。心の暖かさを示しているかの様に、光はふわりふわりと発光していく ポケモンがやるならまだしも、まさか人間が―――しかもミリがこの場で力を発揮させるとは。実際に目撃した突入チームは勿論、初めて見たアスランとコウダイとジンはそれはそれは驚いてミリの手元を凝視していた 「おまっ……!」 「ええええええ」 「これが…ミリさんの力…!」 「不思議…暖かい光だわ……」 「嗚呼…やはり君の力は……!」 「まさかここで見れるなんて……!」 「ミリ君……!」 「これは不思議な…!」 「美しい光ですね……!」 ミリは不思議な力を使える。それは突入時に発覚した事であり、今日の会議でも実際に話題にあった。ミリは秘密主義者、話題に出たとしても彼女の事だからそう簡単に手の内を明かす事はしないと思っていた なのに、だ。まさか予想外なところで―――力の一端とはいえ、簡単に見せてくれるとは誰が思うか 「ミリさん…一体何を…!」 「このような場で簡単に…!」 「………おい、愚兄」 「黙ってろ。ミリ様の挙動一手全てに集中させろ」 元々ミリに不思議な力があるのを知っていたナズナとゴウキは、ミリの行動に焦るしかなく レンもジロリとゼルの方に説明を求める目線を向けるも、ピシャリとゼルに遮られる ゼルはレンの方は見ることはなく、その目はミリを見ていた。淡い光を出すミリの姿を、吐息を、動きを、けして見落とすのを許さないとばかりに。しかしカシミヤブルーの瞳の奥にちらつくのは、狂気の色と強い嫉妬の色。ギリリと握られる拳は、誰に対するモノだろうか。ガイルはただ静かにミリの後ろ姿を、お世話係の四人も静かにミリの後ろ姿を見つめていた ちなみにモニター組の三人は『なんだなんだ?』『何してるんだろうね?』『全く見えない』という声を漏らしていた 「――― 、 」 ミリの唇が、何かを囁く その声はあまりにも小さく、 言葉として全員の耳に届く事はなかった ミリの掌にある淡い光は、ミリの言葉に反応するかの様に光を強める。暖色の淡い光は、ある一定の光を強めた後に―――パァッ!!と光が弾けた 弾けた光は光線となり、全員が差し出した私物へと一直線に走り出す。光線は各々の私物に衝突した後、またパァッ!と弾けた。弾けた光は淡い粒子に変化し、粒子は吸い込まれる様に各々の私物の中へと吸収されていった 仰天する暇もなかった。全員が全員、一体何が起こったんだと茫然とするばかり。慌てて手持ちの私物に目を向けれるが、何も変わらない私物だけ―――いや、何処か淡い暖色の光がポゥ…、と纏っている様な気がして ミリは一体、何をした? 全員の目が自分の私物から―――ミリの方に向けられる ミリは相変わらずニコニコしていた 「わたしはちょっと不思議なミリちゃん。皆の持ち物にちょっと細工をしたよ!」 「何をしてくれたんだ…?」 「わたしはちょっと不思議なミリちゃん。皆の持ち物にちょっと細工をしたよ!」 「「「「いやいやいやいや」」」」 「流石に無理がありますって…」 「わたしはちょっと不思議なミリちゃん。皆の持ち物にちょっと細工をしたよ!」 「Botじゃないんだから…」 「言いたくないのね…」 あはー、と笑うミリに全員はやれやれと頭を振るう。この状態のミリは絶対に理由を話さないのは分かっている そして ミリの纏うほわほわした雰囲気が―――スッ…、と鋭くなった 「―――貴方達は敵に、顔を知られている。彼等はきっと、容赦無く様々な形で貴方達に牙を向けるでしょう」 先程のほわほわした雰囲気は嘘の様に消え、 そこに座るは、ポケモンマスター ポケモンマスターの凛とした姿も当然ある中、有無を言わせない重厚のある圧を発しながら ミリは言う 「何が起こるか分からない、何時狙われるかわからない。少しの油断が彼等の思う壺。どんなに屈強なポケモン達を従えていようが、人間生身を相手した方が彼等にしたら容易い話 ―――そんな事、絶対にさせない」 この私がいる限り、 絶対に、貴方達の血を流させない 絶対に、辛い目に遭わせない 「………効果の件は、どうか聞かないで。囁かな私のお守りだと思っておいて。ただただ、私が安心したいの。皆が私の無事を願ってくれたのと同じ様に、私も皆の無事を願いたいから」 重厚のある雰囲気は呆気なく解かれ、嘘の様にミリはニコニコと笑みを浮かべる 本当だったら力を見せる必要性は無い。こっそりひっそり皆に力を分け与えればいい話。けれどミリにはその選択肢は封じられ、全て報連相しろと言われている 今の事も結局自分の自己満足でしかない。無茶をするな、自分をないがしろにするなとアスランから指摘を受けたばかりで、ゼルもあまり良い返事をしなかった。皆にとって、この力は余計なモノだと思われてもおかしくない。皆だってプライドはある。余計なモノで、自分の事は自分で守れると言われても不思議じゃない けれど自分が安心したいから、無理言って我儘を通してもらった 取り繕うとして、気付くとニコニコと笑みが浮かべてしまう。これはもはや、癖だ。元々の本質とはいえ、取り繕う時にやってしまう仮面。まぁ、流石に【氷の女王】の時に隠していた仮面とは種類が違っているけど だって、これくらいしておかないと いつもいつも、自分の知らないところで 簡単に、人の子は―――― 「ありがとう、ミリ君」 「!」 「ハハッ、なんだか特別感があっていいじゃないか。しかも自分が少なからず気に入っている私物におまじないをかけてくれるなんて。君達もそう思わないかい?」 「えぇ!分かりますアスランさん、おそろいとはいかないけれど、ミリが傍に居てくれると思うととても嬉しいですもの!」 「そうだね、僕もそう思うよ。いつか御礼としておそろいになるものをプレゼントするのもアリだよね」 「繋がりを感じられるのはとてもいい事ですからね。大事にしますね、ミリさん」 「ミリ、サンキューな。絶対毎日着けるから」 「なぁミリ、俺リストバンド洗うんだがおまじない消えない?大丈夫か?」 「私も帽子を洗う際に気をつけなければならないな……しかし、やはり私の読みは間違なかったと誇らしい気持ちだ。君の力はやはり、善なる力だったと」 「ミリ君のおまじない、なるべく発動させない様に努めよう」 「シロナさん達だけではなく、私達にも……身が引き締まる思いですね」 「皆さん……」 ポン、とミリの頭に誰かの手が置かれた 目線を動かさなくても心夢眼は全てを映してくれる ミリの頭に手を置いたのは、レンだった 大丈夫だ、心配するなと ミリの頭を置く手からはそう言っているのを感じて 何故か、 不思議と、 安心、し て 「お前達、この件は当然他言無用だ。当然これは総監による命令だと重々理解する様に」 「「「「はい」」」」 「それではミリ様、キリのいいところです。会議も終わりになります。最後の締めをお願いしても宜しいでしょうか?」 「!」 ゼルの言葉にミリはハッと正気に戻る。どうやらぼーっとし過ぎていたらしい 本当につくづく理解出来ない。レンに触れられると心臓がバクバク激しいのに、何故か傍にいると安心するという矛盾な現象。今もなお自分の身体に起こっているから油断も隙もない。理由は理解しても、やはり心がそれを受け入れられない。身体と心が一致しない苦しみは、きっと誰も理解してくれないだろう だから今だけ、レンの気持ちには気付かない振りをする それがどれだけレンを傷付けているのか―――触れる手から感じるオーラに、瞳を閉じて、耳を塞ぐ ミリは前を向く 自分の言葉を待つ全員に、最後の締めとして口を開く 「では、これで会議を終了します。…色々と教えてくれて、ありがとね」 そう言って、ミリは綺麗に微笑うのだった → |