「(あーーーー、てえてえ。とってもてえてえ空間のおかげで私のライフがぐんぐん上がっていくぅぅぅ)」 「(なんて薄い本が捗る展開なのでしょうか。しかもリアルタイムの視聴とか最高過ぎる。お金を納めたいクオリティ。お布施をミリ様の太股のベルトにねじ込みたい)」 「(愛する二人に最高権力者による妨害で二人の仲を引き離される展開とか、恋愛ドラマ過ぎてとても胸が苦しい。この場合だいたい報われないから本当につらたにえん。でも薄い本的には胸アツ展開。純愛でも略奪愛でもどっちも最高。どちらももぐもぐうまうまと頂ける)」 「(推しと推しと推しの泥沼サンドイッチを合法的な壁で眺められるの本当に最高な仕事……!)」 《四人揃って安らかな死に顔なんだが……本当にこの人間達は大丈夫なのか?》 「「ブーイ?」」 ――――――― ―――― ― 「――――えー、ごほん。ちょっと色々とありましたが…色々とあり過ぎましたが……はい。この会議の議題を踏まえて、改めて私の方から幾つかお話をさせて頂きます」 色々とあったが、時間も迫っている事もあり会議の締めとして最後はポケモンマスターのミリの言葉で飾る事となる 長い長い会議だった。長く、とても濃く、そして辛い会議だった。皆が懸念していた心配事のオンパレードだったし、脱線が多かった会議でもあった。会議が始まり費やした時間は(ミリが化粧室に行ったのも含めて)四時間、シンオウの空は綺麗なオレンジ色が地平線の先を染めていた 「まずは【聖燐の舞姫】さんの件ですが、先程にも言った通り今の私には彼女を受け入れる余裕はありません。まず先に一刻も早く解決させたいのは犯罪組織『彼岸花』の件です。彼等の存在は、このシンオウ支部の皆さんの宿敵になりえる存在です。当然、シンオウを故郷と思う私も気持ちは一緒です。彼等の暴挙は、けして許してはならない。その宿敵を壊滅させる為にも―――微力ながら、この私も是非力になりたいと思っています」 「それは、とても心強い。今もなおシンオウは奴等の脅威の中にいる。…是非とも、君の導きの手を頂きたい。ポケモンマスターよ」 「えぇ、貴方達の期待に応えましょう」 ミリは【盲目の聖蝶姫】として、ポケモンマスターとして、【聖燐の舞姫】の件を棚上げする選択肢を取った。流石に先程のいざこざがあった手前、誰もミリの発言に意を唱える者はいなかった 【聖燐の舞姫】は、犯罪組織『彼岸花』と比べたら確実に緊急性はない。【盲目の聖蝶姫】が戻って来た以上、頼りになるのはポケモンマスターのミリ。この事件が終わって落ち着いた頃に【聖燐の舞姫】の件に触れればいい。【聖燐の舞姫】を知る者達の心の悲鳴を、取り残したまま そんな日が訪れる日を、願うばかりである さて、そうと決まればミリはポケモンマスターとしてでもあり【盲目の聖蝶姫】としてもシンオウの脅威に立ち向かう意欲を高める。【盲目の聖蝶姫】の記憶がこのシンオウかつナギサシティからとなったら断然シンオウへの思い入れは強い。故郷でもあるシンオウを救うには、彼女の存在は必要不可欠 ミリの言葉に、コウダイは是が非でもとミリの救いの手を欲した 「………と、言いたいところですが、どこまで自由に動けるかがいまいち分かっていないのもあるんですよねぇ………ゼル、私はどこまで動いて大丈夫なの?」 「けして無茶無謀をせず必ず俺に一言報告していただければ、総監としてミリ様の活動を許可しましょう。活動範囲はその都度になります」 「Oh…ほうれんそう…」 「大前提としてポケモンマスターは我々本部の庇護下にあります。地方支部とは切り離され、本来でしたら地方支部内の事件に駆り出す事は滅多にありません。勿論、その逆も。地方支部がポケモンマスターの力を借りる為には何十にも渡る申請の壁を突破しなければなりません。…今回は異例中の異例だと、重々承知して頂きたい。勿論、それはお前達にも言えた話だ」 ミリの前に誕生したポケモンマスターは、約100年前が最後だ。ポケモンマスター認定試験の前々回で誕生したとはいえ、文献ではそのトレーナーは高齢だったのもあって―――故に前任ポケモンマスターがどのように本部に保護されていたかまでは、不明である しかし、しかしだ。リーグ本部の規則にも総監の仕事としても必ず「ポケモンマスターを守る事」を宿命にしているのは間違いなく、どんな脅威からも確実に守れる様にとポケモンマスターを地方支部から切り離され本部預かりにさせる。とても合理的だし、実際にそうしている時代もあったのも確か。総監としても自分の代でポケモンマスターが生まれたらそれはそれは大事にしまいこむだろう―――特に、歴代ポケモンマスターの中で随一の実力と絶対的な能力を兼ね備えたミリが相手なら、尚更 実際にリーグ本部内の全体会議では満了一致でミリを本部預かりにさせ、強固な守りの中にいてもらう事が決まっている。簡単に本部の島から出れる事はないだろう 今回は異例中の異例だと、ミリが希望したから叶う事なんだと総監としてゼルは全員に釘をさした 言われた全員は―――特に友人組は暗い表情を浮かべた。理解をしているとはいえ、やはり総監自ら決定的な言葉を受けるとなると衝撃が違う。本来なら同じ空間ですら息を吸う事が叶わない尊い存在。それがミリであり、身の程を弁えろと言われているのと同じだった この事件が終わったら、きっと本当のお別れの時。果たして自分達は、笑顔で彼女を見送る事が出来るのだろうか 闇夜の眼で全体を視たミリは「あらー」と困った様に苦笑を漏らしていた さて、話の続きをしよう 「まずはあの子達に会わせてほしい。蒼華と時杜と刹那を。目が覚めないのは…何か理由があるはず。あの子達は手持ちの中でも随一の実力、よほどの事がない限り……負けるなんて考えられない」 「では会議が終わり次第、カツラ達がいるカントーに行きましょう。……カツラ、ミリ様の歓迎の準備をしておけ」 『!―――承知した。君達の来訪を待っている』 『あ、ならガラル産のコーヒーお願いするよ。ミリちゃんをおもてなしするなら絶対ガラル産のコーヒー"も"必要だと思うんだ。ガラル産で作る甘い甘いカフェオレとかさ』 『いや、やはりカロス地方の茶葉だろう。ミリ姫はコーヒーよりも紅茶だ。カロス地方の茶葉"も"頼むぞ!』 「お前ら本当にいい度胸してるじゃねーか…!ふてぶてしいにも程があるだろ…!」 「「「(ノリがもはや友達に対するソレ)」」」 「(セキエイリーグは本当に自由だな…)」 「(畏れ知らずというか無謀というか、向こうの幹部長が許しているのか…?)」 「(いつか痛い目みない事を祈るばかりだな…)」 「手土産用としてご用意しておきましょう」 「あ、ガイル。貴方の作ってくれたクッキーもお願い!」 「えぇ、喜んで入れておきますね」 三匹は相変わらず目覚めていない。『彼岸花』の襲撃からかれこれ一ヶ月近くが経とうとしているのに、ミリがシンオウに戻って来てもなお目覚める兆候が見られない それだけ奴等の攻撃の傷が深かったのだろう。実際に三匹は重傷だった。しかし、しかしだ。液体回復器の中で傷を癒し、本部所属のポケモンドクターやジョーイの診断で「後は目覚めるだけ」と言われているのに―――まるで、"身体"だけ取り残されているみたいで ミリが早く三匹に会いたいのも無理はない。きっとミリなら三匹を目覚めさせる奇跡を起こしてくれるに違いないのだから ―――それはいいのだが、相変わらずセキエイリーグ組の二人はゼルに気安過ぎる。相手は総監だし、特にマツバは同じリーグ側の人間だから本来ゼルにそんな態度は厳禁なはずなのに。まさに友人に対するそれである。あの二人のノリだったら対面しててもフレンドリーに突撃しそうだ。いつゼルの地雷を踏んで怒らせて、しかもとばっちりがくるんじゃないかとひやひやするシンオウ組だったりした。残念ながらもう既に突撃しているし一緒にピザ食べた仲である 「それから警察署…まだ送検されていないなら、留置場へ。あのロケット団の四人から、少し話を聞きたい」 「「「「!!?」」」」 「!―――何故でしょう?」 「…少し懸念している事があって。私の気宇で終わればいいんだけど…その確認も踏まえて。あ、尋問はしないよ?それはゴウキ達警察の方々の仕事だって理解しているからさ。対面させてくれたら有り難いけど……」 「…分かりました。ゴウキ、この件をそっちの担当刑事部長に伝えろ。当然、内密としてな。日時は追って連絡する」 「分かった。必ず伝えよう」 「それと私のポケモン達が無事だった場合、あの子達をシンオウの大地に解き放ちます。闇夜も含め、あの子達には私の眼となってもらいます」 「「「「!!!」」」」 「!?………それは心強い話だと思いますがしかし、それだとミリ様の負担が懸念されます」 「大丈夫だよ、慣れてるし。流石に私自身が本部から心夢眼をやったら大変だと思うけど、現地からやる分には問題はないよ?」 「……………護衛付きの前提でしたら許可しましょう。ダイゴ、シロナ。その役目はお前達だ、しっかり守って差し上げろ」 「!!――ッあぁ!任せて下さい」 「必ず、ミリを守ります…!」 「二人ともよろしく〜」 「!――ブイブイ!」 「ブイ!」 《主、白亜と黒恋も》 「お、頼もしいね〜。その時はよろしくね?」 「「イブブイ!」」 一体何故、ミリはあの四人に会いたいと言うのだろう。気宇で終わってほしいとは、彼女は何を懸念しているのか。きっと理由を知るのは当日にならないと分からない そしてさらにミリは手持ちの三匹が目覚めたのを前提に、本格的に捜索に乗り出す意思を示した。【聖燐の舞姫】が軟禁中にも関わらず『彼岸花』の情報を仕入れたのも彼等三匹の賜物だ。当時三匹がどこまで奴等の事を知っていたかは分からないが―――確実に、事件の進展が見込める 心夢眼の酷使が懸念されるとはいえ、ミリの一手は大きな一歩なのは間違いないだろう 「あと………、…………」 「…………ミリ様?」 「「「「「??」」」」」 「……………、皆さんちょっとタイム。ゼル、ちょっと耳を貸して」 「!…分かりました」 何かを考え出し少し停止したミリ。全員が首を傾げる中、呼ばれたのはゼルだった。まぁ当然といえば当然なのだが。闇夜の眼があるおかげか多少動きやすくなっているらしく、難なくゼルの耳元に口を寄せる 呼ばれたゼルもミリの名指しに少々驚くも、抵抗も無くむしろ喜んで耳を差し出した。浮かべる表情は真剣な風を装っているが、分かる人には分かっていた。ゼルの心の中は今―――大歓喜に溢れている事を 「………………」 その姿を、ハイライトを無くした目で見つめる男が一人 『(………レンの奴…色々と大丈夫か…?映像から見えるくらい寒気を感じさせるんだが…)』 『(ハイライトが消えた顔って、実際に目にすると怖いものがあるね……)』 「(舞姫の恋愛関連になるとこの調子だろうな…いや、ゼルジースが絡んだ場合も含まれるか……まだ苛々されていた方がマシだったな)」 『(ミリちゃん気付いて気付いて隣に気付いて!ミリちゃんの隣の人今とても怖い事になってるから!)』 「(……復讐に手を染める可能性よりミリさんに危害を加える可能性を視野に入れるべきか……?)」 ピジョンブラットの瞳にあったハイライトが消える姿はもはや恐怖でしかない 戻ってこい、ハイライト 帰ってこい、目の光 このままヤンデレルート解放レベルの危うさ。一番あっちゃいけねぇルートで下手したらヤベェ結果になりかねない。家族枠組は頭を抱えるレベルだし、当然友人枠組もレンの様子はバッチリ目撃されているので「こっっっわッッ…」「全てを削げ落とした顔をしている…」「ハイライト戻ってこい」「レンさんの心中思うと心が痛いですね…」「やだちょっと、ずっとあの調子でいくの?こわすぎでしょ」と小声でドン引いていた 闇夜は心夢眼を繋げながら思った 本当に、我が主が申し訳ないと そして対する二人はというと――― 「……は、それは…」 「だめ?」 「だめも何も……それは些か過保護気味かと。そこまで貴女様が気を掛ける必要性は無いと思いますが」 「………おねがい、ゼル」 「…………、ミリ様の思うままに致しましょう。しかし、」 「うん、分かってる」 何を話しているかは分からない 分かるのは、ゼルにとって驚く話だった事。そして少し機嫌を損ねる内容だという事を 過保護気味とは、一体何の事だろう ミリは何かをしたいのか? 意外にその答えは早く知る事になる 「皆お待たせ。ちゃんとゼルに相談したので……みんなちょっと集合!はよはよ!私の目の前に全員集合ね!あ、本部の皆はそのままで大丈夫ですよ〜」 「「「「「?」」」」」 「?なんだなんだ?」 「おー?」 「どうしたんだい…?」 ゼルに許可を貰ったミリはニコニコと嬉しそうに笑みを浮かべ、手をパチパチ叩きながら全員を自分の目の前に号令の声を上げる。隣にいるゼルは静かにしているも不服そうにしているが今はスルーするとして なんだなんだと疑問を浮かべる全員だったが、素直に集まった。ステージに立っていたダイゴとシロナとナズナも、席に座っていたゴウキとゴヨウとデンジとオーバも、アスランとコウダイとジンも、そしてミリの左隣に座っていたレンも、全員ミリの前に立つ事となる ミリはニコニコと笑っていた 「今の私はただのミリです」 「うん?」 「ちょっと不思議なミリちゃんです」 「えーっと、ミリ?」 「とりあえず皆、これは必ず身に着けて外さなかったりよく持ち歩いている持ち物ってある?ポケギア以外で!」 「「「「いや突然」」」」 ミリは相変わらずニコニコしている。楽しそうな顔だ。その顔は流石に仮面云々の雰囲気は感じられなかったからまだいいとしてもだ とりあえず全員言われた通りに各々身に着けて外さないモノを取り出した ダイゴはラペルピンを、シロナはリップを、ゴヨウはネクタイピンを、ゲンは帽子を、オーバはリストバンドを、デンジはメンズチェーンネックレスを アスランはシステム手帳を、コウダイは小銭入れを、ジンは名刺入れを ナズナは眼帯を、ゴウキはグローブを、レンは腕輪を 一体これを取り出して彼女は何がしたいのだろうか。本人はニコニコしたまま「ふむふむ、みんな良い物だね〜」とほわほわした口調で言ってくる。とても呑気である そろそろ理由を教えてもらおうと、ダイゴが口を開こうとした時だった 「私は、ちょっと不思議なミリちゃん あなたの、心と身体を守ります」 ポゥ……と、 暖色色の光が現れた → |