「いつかミリちゃんに、私達の息子達を会わせてあげたいわ。あの子達の事だから…ふふ!きっとミリちゃんの事を気に入って二人して取り合ってそうだけど!」 「おいおいそれなんて泥沼。予想着くから笑えないんだよなぁ……しかし、いつかは四人全員で揃った時に、君に息子達を紹介しよう。きっと君も…アイツ等の事を、気に入ってくれるはずさ」 「あの二人はあなたに似てきっと愛情表現過激だろうからあの二人にもしロックオンされたらミリちゃん気をつけるのよ〜」 「おいおい過激ってなんだよそういう表現は押せる時にどんどん押してなんぼってやつなんだぞ。今時の草食系男子?ロールキャベツ男子?……ハッ!男は黙って赤い薔薇を抱えて好きな子に直行するべきだ」 「時と場所を選ばないのと落とすまで諦めないのは絶対にそっくりだと思うのよ私は。嫌だったらはっきり嫌って言うのよ?一人だけでも大変なのに二人もいたら手に負えないから……気をつけるのよ?本当に」 「今の会話でアルさんがユリさんに猛烈アピールして実った恋だって分かっちゃった。んふふー、ロマンチックですね!」 「ミリちゃん?私の忠告聞こえてる?ねえねえミリちゃん???」 《………あながち間違いじゃないのかもな。あの二人が言っていた言葉は…そこはやはり母親、というものか…厄介な男につくづく好かれるな、我が主は》 ――――――――― ――――― ― 「ミリ様、改めて確認します。ダイゴとアスランからの質問とはいえ、今し方の話は……俺が隣で聞いているのを理解しての発言だったのでしょうか?」 「えぇ、勿論」 「貴女がチャンピオンだった当時の総監は前任です。俺に権限はありません。…ですが、いくつか発言させてください」 ダイゴとシロナ、そしてアスランからの質問ならぬ尋問から一段落着いたところを見て、 次はゼルが―――否、総監が口を開いた 「まず、『猥褻暴行及び殺人未遂事件』について。………前任は一つの失態でホウエンリーグを責める事はしなかったでしょう。むしろ貴女を擁護し、何かしら手段を講じていた。結果的に世間に公にされなかったとしても、手厚い補助が下り貴女を外敵から守っていたのは間違ないはずです。…とはいえ貴女の精神的考慮し、チャンピオンを辞めさせていた可能性の方が高かったですけどね」 「…でしょうね」 「そもそも18の子供がリーグの事を考えて全てを背負う必要はないんですよ。貴女は全てを背負いすぎた。その役目は本来アスラン達大人の仕事―――貴女はまだ、子供です。今は空白の六年があるので明言は出来ませんが、当時でしたら貴女は、子供です。先程のアスランが言った通り…貴女は成人を迎えていない、子供なのですから」 「こ、ども……か…」 本来ならまだまだ大人の庇護下に居ただろうに、責任感が強く大人顔負けの判断力が生んだ惨事。人間不信が更に拍車を掛けた心の闇は、ミリを袋小路にさせ、逃げ場を無くさせた これはミリの指示に甘んじたアスランの失態であるし、ミリの状況に気付かなかったホウエン支部の失態。更に言うならば―――監視を出していたにも関わらず、全く見抜けず状況を見過ごしてしまった本部の失態でもあるのだ 少しでもミリが誰かに頼っていたら、結末は違っていたのだろうか―――否、否。今の現状でそれを思案するにはすぐに返事が出る話では無い ゼルは更に口を開く 「次に【氷の女王】の件について」 「………」 「総監として、明言は控えさせて頂きます」 「「「「「―――!」」」」」 「―――!」 回りから息を飲む反応が出た ミリ自身もまさかゼルがその返しが来るとは思わなかったらしい。小さく驚いた様子でゼルを視返した ゼルはミリの手を優しく握った 「貴女はただ自分の居場所を守っただけ。養父と共に過ごす帰る場所に危険が及ばない為に、そしてホウエンリーグの者達を守る為に、貴女は奴等を挑戦者として受け入れた。些かやり口が過激でしたが、奴等の狙いは貴女の存在。命を狙う相手に慈悲を与えるなんて無理な話です」 「………」 「もし貴女の立場が俺だったら完封亡きまでにボコします。それこそ生まれてきた事を悔やむく「ゼル様、公然の前です。戯れが過ぎますよ」…………仮に前任がこの話を聞いていても、俺と同じく名言は避けたでしょう」 ―――と言ってもこれが仮にミリ様がポケモンマスターの時に全てが露見した場合に限るが、とゼルは一人思う あながちミリの危惧する内容は概ね当たっていたりした。前任リチャードは各支部に対して平等かつ厳格にそして無慈悲采配を奮う顔を持つ反面、気に入った相手には法とリーグの規則に引っ掛からない絶妙なところをすり抜けて特別贔屓する悪癖があった リチャードはゼルの目から見ても孤独だった。孤独だった故に気に入った相手を大切にし、盲愛していた。晩年友人関係を築いていたアスラン然り、部下だったガイルも、そしてこの―――自分にも 当時ガイルから受けた遺言、そしアスランの口振りからも発覚した様にリチャードはミリをとても気に入っていた。自分に引き合わせたいくらい気に入っていたとなれば―――きっと、"この程度"の不祥事など容易く揉み消していただろう しかし、これが逆だったら話は違う ポケモンマスターじゃなかったミリは、リチャードにとって"友人アスランの養女"程度でしかなく"ホウエン支部最年少チャンピオン"でしかない そんな取るに足らぬ存在に―――果たして当時の総監はどんな采配を揮っていたのだろうか ―――と一人他人事の様に思うゼルだったが、ゼルもリチャード同様ミリに特別贔屓しまくっているのでやっている事は同じなのだが それを指摘してくれる者は、残念ながら誰もいない 「――――この場にいる全員に総監として告げる。『猥褻暴行及び殺人未遂事件』は勿論【氷の女王】の真相にあたる先程の会話を、外部に伝える事を禁ずる」 かつてリチャードが守りたかった儚い存在を、今度は自分が絶対守ってみせよう この立場が孤独にさせようとも、 自分はもう、一人じゃないのだから 「!ゼル……そこまでしなくても、」 「こいつらがミリ様の事をペラペラ話す様な軽率な口をしているとは思いませんが、念の為です」 「……感謝します、総k…」 「――――ですが、」 ミリがゼルに感謝を伝えようとしたところに、待ったをかけた ゼルは握っていたミリの手を優しく引き寄せた。簡単に引っ張られたミリは「あらら?」と呑気な声を上げながらゼルの肩に寄り掛かる事になる。当然反対側にミリの手を握っていたレンも、ゼルの突拍子な行動に握っていた手を離され「おい」と眉間に皺を寄せ睨んできたわけだが、当然そんな視線はスルーである 握っていた手を持ち上げて―――リップ音を鳴らしながら、ゼルはミリの手の甲に口付けを落とす 当然外野は叫び声と野次が飛び、レンの「こいつやりやがった」というブチ切れそうな顔が出てくるわけで。そして肝心なミリはポッと顔を赤らめ「ゼ、ゼル!急にどうしちゃったの…!?」とあわあわし始める。とても愛らしい姿に自然と自分の広角が上がっていくのがよく分かる しかし相変わらず外野はうるさい。お前ら少しは静かに出来ないのか 「最後に、一人の男として言わせて下さい」 「えっっっ、ちょっ…えっ、えっっっっっ、こ、このまま言うの…?」 「フッ、ミリ様… 次もしまた一人で俺の知らないところで勝手にこんな事をしようとするならその愛らしい口をマジで塞がせて頂きますので覚悟して下さいね?」 「ヒョエッ」 「「「「いやお前何言ってんだ!?」」」」 それはそれ、これはこれ 自分の知らないところで大切な存在が脅かされていた?しかも撃退していた?自分に内緒で?その自分は呑気にケーキ食っている状況だったわけだろ? ……………、 ………………、 ハーーーー??? 絶 対 に 許 さ な い ん だ が??? 総監関係なくゼル個人の気持ちだったら全面的にアスラン寄りだった。解るぜアスラン、お前の気持ち。ミリ様に信用信頼されないの本当に地雷。頼られないなんて自分の存在価値皆無過ぎて心が死ぬ そんな結末 断 固 拒 否 今後の事を考えて自分がしっかり釘をさしておかないと そうゼルはしっかりミリに脅し…脅迫…ンンッ。お願いをしておくのだった 『ゼル!突然何を言い出すんだ!』 『そういうのはずるいと思うなー』 『強かだね……若いなぁ…』 「これみよがしに脅迫に交えて自分の願望を叶えさせようとする魂胆が見えてくるな……」 「目 に 余 る 行 動 は 本 当 に ど う か と 思 う」 「いちいち近いんだよ!!!お前が口塞ぐくらいなら俺が先に口塞ぐっつーの!」 「そうだそうだ離れ……っておい!!」 「私達は何を見せられているのだろうか……」 「雰囲気の高低差が激しくて頭が痛いですね…」 「……まぁ、不本意だけどそれでミリの行動が落ち着いてくれたらいいけどね…不本意だけど」 「ならわたしもミリが変な事したらチューしちゃおうかしら!」 「「「「ちょっと待て」」」」 「おいゼルジース、」 「なんだよレンガルス」 「なら俺はもうこいつの口を塞いでもいいだろ?」 「なんでだよふざけんな意味が分からねーよ」 「俺にとってもうこいつのやった事は既に二回目だ。次は、っていう言葉はもう聞き飽きたんでな。…つーわけだから、ほらミリ、口を出しな。今から塞いでやるから」 「おいやめろテメェ気安くミリ様に触んなこの野郎オオオオッッ!!!!!」 ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい…… 「………最近の若者はこうなのか?」 「いや、いやいやいやいや……この場合…アルの息子だからじゃないんですかね…?アイツもスイッチ入った時はよくユリさんに強気でアプローチかけていたから…………そう思うとミリさんってユリさんより大変ですね…アルの二人分……憐れな…」 「……血は争えんな…」 「むしろアスランさん、お父様から見てあの光景はどう思われるのです…?娘が双子に言い寄られていますよ…?」 「ハハッ、仲が良くていいじゃないか。ミリ君が嫌がっていたらそこは止めるにしても、三人が楽しそうにしている姿を他人が介入するのは野暮ってものだよ」 「……アスランさんの目フィルターかかっていません…?楽しそうにしてますかねあれは…その内本当に殴り合いが始まりそうですよ…?」 「完全に子供の戯れでしか見ていないぞこいつは……」 「流石、相も変わらずアスラン様は懐が広くいらっしゃる」 「(とてもよい…!)」 「(良いネタが増えたわ…!)」 「(イケメンと美女のサンドイッチ…!)」 「(てえてえです…!)」 とまぁこんな感じに 場の雰囲気はぐだぐだになるわけで 「ヒェッ……知らない……みんなの言っている意味が分からない……これだからイケメンは……自分達は何言っても許されると思ってるから……ホスト集団め…」 「ブーイ」 「えっ、慰めてくれるの…?ありがとね…?あっ…かわいい…えっ、なにをすればいいの…?…吸う…?なにを…?」 ミリはレンとゼルの間に挟まれながら遠い目をしていた。いや眼は相変わらず視えないのだが。後方に佇む闇夜の心夢眼のお陰で講堂内の状況はなんとか把握出来てはいる、が 自分の左右はぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい楽しそうに(※ガチ喧嘩)しているし遠くにいるシロナ達も仲睦まじく(※全員シロナにツッコんでいる)しているしモニター組達はブーブー言ったり遠い目をしているし幹部長組は微笑ましそうに(※アスランだけ)眺めているし本部組は相変わらず微動だにしないし(※お世話係の心は萌に大歓喜中)で… なんだこれはカオスか?混沌か?何故にこうなった?さっきの雰囲気はどこいっちゃったの?おねーさんもうよくわからないよ…… みんな…元気だねぇ…(遠い目 慰めにきてくれた白亜はそのもふもふの身体をテーブルの上に寝転び、「存分に吸っていいよ!」と身体を差し出す。所謂猫吸いをしろ、と白亜は言う。テレビで放送していたエネコの腹に顔を埋めて吸うと癒されている人間の姿を白亜は記憶していたらしい。なんて健気な子。猫吸いの文化を知らないミリはよくわからないまま闇夜の通訳の中、白い身体に顔を埋める …………… ……… なるほど……これがアニマルセラピー…もふもふ…おひさまのかおり…癒される…… ………ハッ、 いけない。思わぬ癒しで話が脱線するところだった 「………あの、」 ひとしきり白亜のお腹をちゃっかり堪能したミリは 脱線していた場の雰囲気を元に戻す 「これらのお話を伺って、『彼岸花』が脅威なのは理解しました。私の行方不明をきっかけに彼等の都合のいいようにされたのも、理解しました。しかし、何十年と潜伏していた彼等が何故表舞台に出てきたのか―――その理由は明確にされているのですか?」 つくづく彼岸花は脅威でしかない。それは今までの話で痛感した事で、早急に対処せねばならないのをミリはしっかり理解していし、回りの皆が居なければ今からこの場から早急に飛び出して秒で壊滅しに向かっていただろう しかし解せない気持ちもあった。いまさら、何故、奴等は表舞台に出てきたのか。14年も前に解散となった犯罪組織は、爪を隠し続けるにしてはあまりにも目的が無い。理解不明な行動でしかない犯罪組織『彼岸花』は、本当に何故、今なのか――― そのミリの疑問にシロナはキッパリと答えた 「確実に言えるのは―――犯罪組織『彼岸花』の狙いは、ミリ…あなたよ」 「!………何故、」 「理由は分からないわ。ロケット団の団員があなたを捕らえる様に命令されていたというのは実際にこの耳で聞いたわ。だけど、それだけよ。本人達も未だ口を割らずにいるみたいだしね」 「その点については警察に任せてくれ。必ず口を割らせてやろう」 シロナに続いてゴウキも続ける 強い意志を持った言葉だった。絶対に奴等を吐かせるまで帰らせないという確固たる意志を感じさせた。事実ゴウキは存在感だけで尋問を得意とするので、プライドを持ってミリというポケモンマスターにしっかりと伝えた 「それにね、ミリ―――私達が奴等の存在を知れたのも、あるキッカケがあったからなの」 そう、キッカケがあった そのキッカケがあったから、今の自分達は此処にいる 「あなたの存在よ、ミリ」 「私…?」 「あなたの存在があったから、シンオウの脅威に気付き、アルさん達の死にも気付かせてくれたわ。あなたが居なかったら―――私達は何も知らず、ただただわけもわからず奴等の脅威に屈していたわ」 何の事だか分からないと言った様子で戸惑うミリを前に、シロナは優しいまなざしでミリを見る 本当にミリがいなかったら、自分達は奴等の脅威に簡単に屈していた ミリを想い別件で動いていたにしろ、先に動いてくれていたレン達のお陰で敵の存在を知った。ミリがいたから過去を事件を知った。ミリがいたから、真実を知れた 全ての始まりはミリがいて―――全ての道を、ミリが、自分達を導いてくれたおかげなのだから 「『彼岸花』が始めて脅威を振るった同日、一人の女の子が行方不明になった」 だからこの導きを、けして無駄にはしない 「カントージョウトを中心に活躍していたトレーナー、 【聖燐の舞姫】―――彼女の名前は、ミリ」 絶対に守ってみせる 奴等からの脅威から、絶対に このシンオウもそうだけど、自分達の為に辛い想いをし続けた―――大切な存在の為にも 「次はわたしが説明するわ。あなたが行方不明になった後、私達があなたを思い出した後の―――出来事を」 会議は終盤に差し掛かった → |