勿論この男もミリの言葉に黙ってはいなかった






「御自身の事を嘘を言った、とおっしゃいましたが…貴女は紛れもない盲目です。診断に嘘はありません。貴女が本部にいる間は"噂"と違い、誰が見ても貴女は盲目でした。…そこはお間違いなきように。その程度の嘘で関係が簡単に壊れるほど、関係性は脆くないでしょう」

「ゼル…」

「本部にいる間でもポケモン達が心夢眼を使う必要のない様に、環境は整えてあります。…そうだろう?」

「えぇ、ミリ様」
「どうか我等をお頼り下さい」
「むしろ仕事を取り上げないでくれると助かります」
「供給が…我等の供給が…!」

「「「(切実な訴え…)」」」

「(供給ってなんだ)…こいつらもやる気です。貴女がどれだけの手段を持っているかは今後教えてもらうにしても、気を追う必要はありません」

「……ありがとう、皆」







ゼル達本部組にとっても、この情報は驚くものだったのは間違ない

六年前にあったポケモンマスター認定試験にて、盲目の聖蝶姫の人物調査を行った記録には『ポケモンの助力を得て世界を見ている可能性アリ。方法は不明。盲目なのは事実である』と記されていた。ここまできたらさらに深堀しとけよ、と呆れ気味に調書を読んでいたがミリの話を聞いて、無理もないと肩を竦めるしかなく

ミリはポケモン達の疲労の事ばかり主張しているが、ミリ本人の疲労も凄い事だろうと推察する。心夢眼は大方、身の危険を守る為に発動している様なもの。危険が無い本部にはその必要はない。ポケモン達共々安息に暮らしてほしいものだ

あとお世話係の四人にとっても今の仕事を不要だからと取り上げられては困るのも事実。半年前からミリの為に勉強をしてきたわけだし、なによりミリとゼルによる『イチャイチャ寸劇(一人は無自覚・一人は確信犯)〜はよくっつけお前ら〜』を見たいが為にこの役割を離れるわけにはいかない。薄い本が大変捗るしネタに困らないしなにより心が潤う。美女とイケメンの絡みは最高に美味しい。なので四人は切実にミリに本音を交えながら懇願する。まさか自分のアプローチが全員にバレてるとは思っていないゼルからの「お前ら何言ってんだ」という視線は今だけスルーである







「……ミリ、今その心夢眼は繋いでいるのか?」

「………いえ、」

「なら繋げて俺達を映せ」

「!」






今まで黙って事を見守っていたレンが、ついに口を出す



レンの言葉にミリは小さく驚いた姿を見せた




一見レンの言葉にただ小さく驚いたと見えるが―――レンには気付いていた


ミリの身体が、強張った瞬間を






「こいつらを映して俺達を映さないのは…フェアじゃないだろ?」

「……それは、」

「それとも何か?俺達を見たくない理由でもあるのか?」

「!……」

「…ほう。それが本当なら尚更見てもらいたいものだ。せっかく仲良くなるんだ、互いに顔合わせは大事だろう?」

「そうだな。先程の流れで自分達を見てもらえないのは…取り残された感があって、どうにも気分はよくない」

「特に何もなければ…問題ないはずだ。そうだろう?」

「………」






畳み掛ける様にレンは言う

ミリの性格を把握した上で、絶対に逃げられない様に言葉を続ける

そしてそれに乗っかる様にゴウキとナズナも続けて言葉を繋げた。そうするとミリにとって囲われたと同然で、返事は「はい」か「イエス」か「分かりました」しか無くなる

容赦の無い連携に普通の人ならお手上げだっただろう。三人の雰囲気に回りは「こわ…」「必死だね」「言い方が尋問のソレ」と若干引いていた







「……………」

「……………」

「……………」

「……………」







ナズナはミリを見る

―――自分達の姿を視て、少しでも思い出して欲しいと願う


ゴウキはミリを見る

―――不公平はいけない、視るならしっかりと自分達を認知しろと訴える


レンはミリを見る

―――思い出して欲しいのは当然。しかしゼルとミリが初対面した日、ミリは極度にゼルを恐れた。あの日闇夜の心夢眼を使っていた、つまり同じ顔の自分を視たら、もしかしたら………







ミリはため息を吐いた






「………私が視たところで、貴方が欲する答えを言えるとは限りませんが………それでも?」

「あぁ。…それでもだ」

「………」

「ミリ様………別に無理してこいつらを見なくてもいいと思いますが?」

「うるせぇ部外者は黙ってろ」

「あ゛?」

「あ゛?」

「………テメェはつくづく自分の立場が分かってないらしいな……そんな無礼な行いをし続けてミリ様に嫌われてしまえばいい」

「ハッ、そもそも俺はリーグの身じゃないんだ、自分の立場もテメェの立場なんぞ知るか。威張り散らかしてミリに幻滅されてしまえ」

「…あんだと…」

「…やんのか…」

「お前達……流石にミリさんの前では止めておいた方がいいんじゃないか?」

「呆れられても俺は知らんぞ」






バチバチバチ…と相変わらず火花を散らす双子に、ゴウキとナズナは呆れた様子でため息を吐いた

この双子は共闘する時は共闘するがミリの事になるとてんで決裂するから困ったものだ。ミリが目の前にいるから多少成りは潜めているが、頼むからサバイバルエリアみたいな乱闘(※未遂)は止めてほしいばかり




彼等の様子を静かに待っていたミリ。伏せるその漆黒の瞳の奥は何を思っているかは分からない。彼女は何故三人を視るのを、否、レンを視るのを抵抗しているのか―――


ふぅ、とミリは小さく息を吐いた






「……このままだんまりを決め込んだところで、貴方達は流してはくれないみたいですね」

「フッ、当たり前だ」

「仕事柄それが取り柄みたいなものだからな」

「申し訳ないがミリさん…諦めてくれ」

「………」

《………主、この者達にだんまりは逆に逆手な事を伝えておこう。私から見ても、しつこい男達だとつくづく思う》

「「「おい」」」

「ハッ、ザマァないな」

《そこの総監もつくづくしつこい男だから主は本当に気をつけた方がいい》

「おい闇夜テメェ余計な事を言うな心外だ撤回しろ」

「え、なになになに」
「やっぱり四人は闇夜の言っている事が分かるのかい…?」
「なにか四人にとってあまりよくない言葉をもらったみたいですね…」
「ウケる」

「……闇夜がそこまで言うのは珍しい。しかも闇夜が会話まで許すとは……分かりました。私のだんまりで時間をロスするのは忍びないですし……………闇夜、お願い。レンガルスさんとゴウキとサラツキ博士、モニターに映るカツラさんとマツバさんとミナキさんを…私に視せて」

《了解した》






レンとゴウキとナズナの三人による粘りによって無事に勝利を収める事に成功する。ちょっと闇夜が解せない事を言ったのはとても気に食わないところだが、そこは置いといて

闇夜の金色の瞳の奥に、また不思議な色彩が走った。この光がミリとシンクロしたんだと気付いたのはすぐだった

そのまま闇夜はその金色の瞳をジッと―――三人を、下から上へと視線を上げていく




心夢眼とシンクロしているという事は、自ずとミリと視線を交わす事になる。盲目になってしまったミリと、唯一交わせられる貴重な一手

ナズナは、ゴウキは、レンは

ただただまっすぐに―――闇夜を、ミリを見つめていて




カチリ、と


闇夜の視線と三人の視線が絡み合って、


そして、






「―――――…ッ!!!!」








ミリが驚愕した表情を浮かべ、


ビクリと身体を強張らせた






…………が、






「おぶっ!!」

「ミリ!?」






運がいいのか悪いのか

たまたま、運良く、手に持っていた紅茶を口に含んでいたミリが誤飲して噴き出したのも同時だった






「………ミリ様、」

「ッケホ……!」

「ミリ!?大丈夫!?」

「ごめっ……大丈夫……、コホッ……あちゃー…やっちゃった。服は無事?」

「服の事はお気にになさらず。…これは下げておきましょう。お前達、」

「「承知致しました」」








「麗皇、」

「クロだな。何か隠してやがる」

「ゴウキ、」

「…気が先程よりも大きく揺れた。かなり動揺したのは間違ない…誤魔化すのには無理がある………しかし、」

「…しかし?」

「………………、後で話す」

「「………」」







気の視えるゴウキの眼に、何が視えたのか―――レンとナズナがその答えを聞くのは、まだ先の話である



ミリの背中をゼルは擦り、自分のハンカチでミリの口から零れた紅茶を拭ってあげる。少し零したカップはそのまま後ろに控えていたミナミとヒガシに回収されていく

ゼルによる一切の乱れのない介助に回りはそのまま見過ごしてしまうが、後になって「あの時スルーしたんですが、総監…距離が近いし介助のレベルをこえてません?」「「「あ」」」と今更正気になるのはそれこそ後の話である







《主、無事か》

「大丈夫……このまま続けて」

《分かった》

「ミリ様、あまり無理をなさらず」

「ありがとう、ゼル」






「………ミリ、答えを聞こうか」

「…………………声色で予想はしていましたが……やはり視界があると違ってきますね……」

「…………」
「「…………」」

「レンガルスさん、ゴウキ、サラツキ博士…









おにーさん達めちゃくちゃカッコいいですね」

「「「………は?」」」








ミリはキリッとした顔でグッと親指を立てた







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