「六年…六年かぁ……」

「ミリ………」

「…六年は、かなり大きいね……そりゃみんなもこんなに大きくもなるよね……」

「「「「「…………」」」」」

「六年……六年かぁ、そっかぁ…









つまり"みんなのドキドキ☆秘蔵メモリアル〜あんなことからこんなことまで〜"の大切な六年間が見れてないって……こと!?」

「「「「……………、は?」」」」

「六年の年月は大きいよ…流行も一年単位で変わるし情勢もガラって変わるしで着いていけなくなるのに……ハッ、みんなの活躍とかみんなが彼女or彼氏出来たおめでとう報告とかその他諸々のイベントが……見れてないって……こと!?……さいあくだ……私の楽しみが…私の密かな楽しみが…おわった……呆気なくおわった…………(ゴン!」

「「『(さらに絶望してる……)』」」

「ミリ、ミリー!?今ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたのだけど!?」

「もう流行が分からない……やっと若者言葉に慣れてきたと思ったのに……この気持ちを一言で言うと……かなしみ。かなしみ〜」

「ミリ、ちょっと前まではな…かなしみをもっと可愛く言って"ぴえん"ってのがあったんだぜ」

「ぴえん…」

「ぴえん通り越してぱおん」

「ぴえん通り越してぱおん……(虚無顔」

「やめろやめろ何言わせてんだ」






ぴえん通り越してぱおん



――――――――
――――
――









盲目の聖蝶姫は名前の通り盲目である。しかし盲目なのに盲目とは思わせない行動をする、のはおおよそ周知の事実である

故に聖蝶姫の七不思議の一つとして取り上げられたり、またそれが刺激的で魅力的だと誰かは言った。七不思議に関しては他にも色々取り上げられているが、やはり聖蝶姫と出会い対峙した者達が口を揃えて言う言葉は決まって「本当に盲目?」であった

その吸い込まれるくらいの美しい漆黒の瞳には光は無い。光は無いし、視線は合わない。それだけで本来彼女を盲目とたらしめるに十分なのに、彼女の行動の一つ一つが健常者の動きとさほど変わらなかったから

視覚障害者が必須とする白杖を使わず、物の位置を的確に把握し、食事も介助無しでこなす。遠目で彼女を見れば普通の健常者としか見れない出で立ちが多く目撃されていた

傍には常に三匹のポケモン達が寄り添っていた。水色のスイクン、紅色のセレビィ、緑色のミュウツー。内二匹はエスパータイプでもあるから有事の際は補助を受けれる頼もしさ。ミリも安心して堂々と行動が出来るのだろう―――そう誰もが自己完結をしたし、敢えて深堀はしなかった


だって無粋な事だと思っていた。追及はよくないと不思議とそう思っていたから


これら全て彼女の実力であり、魅力の一つだ。解き明かすのは野暮な事。他人は簡単におもしろオカシク考察したり深堀したり勝手に解釈したりと、ミリの事を知らずに好き放題に言う。彼女の努力を、苦しみを何も知らずに―――そんな最低な人間になりたくなかったから、今までずっと、何も聞いてこなかった



――――そして、ついにその謎が明かされる日がやってきた







「簡単に言ったら、心の中にモニター画面…テレビ画面があって…それを見ている状態」

「…モニター画面…中継画面を見ている感じなのかい?もしくは監視カメラを見ている様な…」

「そう。テレビでよくある中継を繋いでいる様な、リアルタイムの映像を―――主に蒼華と時杜と刹那の三匹の眼を借りていたの」






――――"心夢眼"

他人の眼を借りて世界を視る事の出来る、不思議な力


ミリが認め、相手も承諾し、心を繋いでシンクロを交わす

そうして初めてミリの眼には世界が広がる






「心夢眼は眼の神経を結構使うの。時には三匹で交互に視たり、また繋げないでいたりずっと繋いでもらったりと臨機応変に使い分けていた。けど……あの子達には苦労ばかり掛けさせてしまっているから……誰よりも疲労感は多かったはず」

「…その三匹と闇夜の違いは?その口振りからだと、使い分けているみたいだが…」

「そうね、闇夜は三匹と比べたら心夢眼の回数は少ないかもね…三匹以外の子達は、バトルだったりコンテストだったり家事だったりと…そっちの方を優先してもらっていたんだ。それに…一部の子は長い時間の心夢眼は難しい事が分かってね……そこは適材適所でお願いしていたの」






勿論バトルの時も心夢眼を繋いで戦っていたんだ、とミリは簡単に言いのける

後ろでただ指示を出すよりも実際に自分自身がリアルな映像で視た方が、より鮮度の高いバトルを繰り広げられるからとさらにミリは言う


普通の人間なら到底理解出来ない能力だというのに、さらにその能力で人々の上を軽々と超えていく才能。日常的な補助は理解してもバトル中も繋いで、まるで自分も共に戦っていたと言わんばかりの台詞。気が遠くなりそうだ。痛感がないだけまだいいかもしれないが、普通だったら怖気ついてもおかしくない。ポケモンバトル形式だから人は安心して後ろで指示を出せるのを、自ら共にバトルに立っていただなんて

流石はポケモンマスター、その才能と度胸が末恐ろしいと話を聞いた全員は戦慄した




しかしまた一つ、謎が解けた事もあった




盲目の聖蝶姫のポケモン達は―――敵からの攻撃をまるで背中に眼があるんじゃないかと思わせるくらい、簡単に避けていた。攻撃を食らうであろう三秒前には攻撃を易々と避けていて、ミリとのバトルを経験した者達は苦渋を飲まされ続けていたが

これで理解した。武術に長けたミリとシンクロしていれば、ミリ視点、且つミリの指示で敵の攻撃も軽々避けれるのだから


経験を積んだトレーナーとパートナーがお互いに信頼し合えば可能とする"指示無し"も―――きっと、同じ事だろう



この子の才能が、恐ろしい


なんてことのない風に言ってのけるミリの才能―――不思議な力を持っている事も合わせて、これが頂点に立つ存在なのかと思わせるばかり







「私はこの時点で嘘を言っていた。何も世界が視えないっていう、嘘を」







ミリは言う


覚悟をした顔つきだった。その瞳は絶望の光をちらつかせながら、まるで死刑台の前に立つ面持ちのままに口を開く







「…皆の優しさに…私は、甘えていたの」








眼が視えないからと、ナギサシティでデンジとオーバには色んな雑誌を取り寄せて貰っていっぱい朗読してもらった

ゲンには旅の中で身の回りのお世話を率先してやってくれてこうてつじまでは楽しく過ごす事が出来た

ゴヨウにはミオシティの図書館で気になる本を解りやすい様に朗読したり解説してくれたりした

シロナには様々な場所でバトルをした先で色々な楽しいものを教えてくれた

ダイゴには不便な自分を気遣って色々気に掛けてくれておかげで仕事の励みになってくれた

コウダイさんとジンさんには眼が視えない自分を鼓舞して新たな道を示してくれた

アスランさんには最初から最後まで自分を気遣い、家族として自分を認め迎えてくれた


皆の優しさを、

自分は判っていて―――利用していた






「……幻滅、してもしょうがないよね。分かってる、お前のした事は卑怯な事だって……言及されてもおかしくないからね……」















「「「「ないないそれはありえない」」」」

「心外ですね」

「傷つきました」

「責任取ってもらわないと」


「あれ!?」






全員して「何言ってんだコイツ」とミリを見た。本当に何いってんだこいつしか言葉に出てこない。なにいってんだこいつ

予想と反した答えが返ってきて流石にミリはあわあわし始めた






「ちょ…ちょっとみんな…無理しなくていいんだよ!」

「無理もなにも…特にそこに関しては何も思わないっつーか…純粋にすげーとしか思わないっつーか……」

「だな。俺達のミリはいつも予想外な事ばかりだから今更驚…くがそんなに驚いてないというか…」

「色々納得のいく事だらけではあります。貴女の振る舞いは、本当に盲目なのかと疑いたくなるくらい、健常者と変わらなかったから」

「確かにポケモン達の眼を借りていれば、不可能を可能にしてくれる。…考えたね、ミリ」

「てっきり私はミリは波動の力で回りを把握していたとずっと思っていた。しかし心夢眼…世界はまだまだ知らない事ばかりだ」

「…ミリは初めから、私達を見てくれていたのね…色々驚く事があるけど、なによりも嬉しい気持ちが大きいわ……打ち明けてくれてありがとう、ミリ」

「シロナ…皆……」






本当にその気持ちしかないのだ。彼等の胸の内は純粋な驚きと、ミリの才能の恐怖―――しかしそれを上回る歓喜が胸を熱くさせてくれた

ミリは世界を視てくれた。自分達の見える世界を、ポケモンの視界を通して視てくれた。世界を共有してくれていたんだと

本音を言えば、もっと早く言ってくれればよかったのにと思わなくもない。それは仕方のない事だから構わない。それでも秘密主義者なミリがこうして言ってくれたんだ―――信じて待ち続けて本当に良かったと、その気持ちでいっぱいだった



しかしミリの反応が少々頂けない。まるで自分達がミリを突き放す様な物言いなんて。「ちなみにどう言葉を返すと思ったのですか?」とのゴヨウの言葉にミリは一瞬固まった後「こう……"嘘つき!そうやって自分達を騙して甘い蜜を吸っていたんでしょう!?さいっってい!もう知らないんかんな!絶交だコンチクショー!"……みたいなインパクトがくるのかと」と中指立てながら言ってきた



全員の頭にコスモが広がった


…ない

それはない

自分自身の評価が低過ぎるだろこの小娘


流石にそれは全員ででこピンしてやった。しかも無言で。でこピンで許してやった。小さな悲鳴なんてかわいいものだ。あと中指立てるのは止めなさい






「私達は何もしていない。七年前のリーグ終了時の事を言っているのだったら…そう想ってくれていた事に、感謝したい」

「コウダイさん…」

「私達は嬉しいんです。…あの時ミリさんにホウエンを進めて…本当によかった」

「ジンさん…」

「ミリ君」

「アスランさん…私、」

「そこから先は言わなくていい。…私はね、シロナ君と同じ気持ちだよ。純粋に嬉しいんだ。ミリ君と過ごしたあの一年間、君はしっかりとポケモン達を通して私を…ホウエン支部を視てくれた。…それだけで十分だ」

「アスランさん……」






三人はそれぞれミリの頭を撫でて言った

秘密を抱える子だとは思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった三人。だからこそ秘密を抱えてしまうのは道理で、打ち明けるのにも相当の覚悟があったのだろう。自分達にもそうだが、やはり一番は友人達の反応を怖がった。そこは年相応で逆に安心したのはここだけの話


アスランは自分の養娘を暖かいまなざしで「今度また一緒にホウエンのフラワーロードに行こうか。あれから六年、未だに花は綺麗に咲いているからね」と笑い、その言葉にダイゴは「勿論、しっかりと手入れしているから自慢のフラワーロードさ」と頷き「今度全員で行きましょう!」とシロナが笑った










ミリはぎこちなく笑うだけで頷く事はなかった







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