「覚えてなさい、ゼル!後でリベンジするからね!指洗って待っていなさい!」 「いつでもお待ちしていますよ」 「指洗って待ってなさい」 「新しい言語だ」 「初めて聞く捨てセリフ」 「草だな」 「ン゛ンッ!―――皆様、取り乱してしまい申し訳ありません。……次の話を進めましょう」 「いえ、ミリ様。少し休憩致しましょう」 「はい?」 「ガイル、お前達」 「承知しました」 「「「「承りました」」」」 仕切り直しの声を上げるミリに待ったを掛けたゼルは、控えていた自分の部下達に声を掛ける 明確な内容のないゼルの声だったが、ガイルとお世話係はすぐに行動に移した。なんだなんだまた何が起こるんだと回りが動揺する中、またしてもお世話係の四人が全員の前に出た ステージの前のテーブルの上、手際良く四人は―――コーヒーカップや紅茶のカップをテーブルの上に並べ始め、お湯がすぐに沸く給湯機(テ〇ファール)、高級そうな茶葉や豆が入った缶を同様に並べ始めた 「さて皆様、お茶の時間です」 「本部が世界各所から取り寄せました紅茶になります。一番のオススメはカロス産のアールグレーでございます」 「コーヒーをご希望の方はこちらへ。ガラル産のコーヒー豆をご用意しております」 「緑茶をご希望の方はこちらへ。カントー産の茶葉を使っております」 『えっっっいいな』 『私達も飲みたいんだが!』 『ガラル産のコーヒーって取り寄せ凄く高いんだよね……』 「マジ?!どうしよっかな〜…んじゃ俺はコー…」 「是非とも私はカロス産の紅茶を!!!!」 「うおっ!副幹部長!?」 「…お前本当に紅茶になると目の色が変わるな……私は緑茶を頂こう」 「この前頂いた紅茶は本当に美味しかった。今日はそうだね…私も趣旨を変えて緑茶を頂こうかね」 「流石は本部…手際がいいというか、いつの間に大掛かりなものを……」 「この手の高級なものは取り寄せるのにも時間がかかるのに、それを振る舞ってくれるなんて…僕は紅茶頂こうかな。砂糖たっぷりで」 「わたしも紅茶を頂くわ〜砂糖たっぷりで!」 「んじゃ、俺はコーヒー」 「カロス産の紅茶が凄く気になりますが…私もコーヒーを頂きます」 「ほう、俺もコーヒーを貰おうか」 「俺も同じものを」 「俺も頼む」 「白亜様と黒恋様にはきのみのミックスジュースを今お作りしますね」 「「ブイブイ!」」 『ぐぎぎぎッ……ゼル!頼む後でで構わないから私達にも紅茶を所望する!』 『そうだよ僕達にもカロス産の高級紅茶を飲ませてほしいよ!』 「モニター越しでギャーギャー騒ぐな。後でサーナイトに運ばせてやるから静かにしていろ」 『『ッシァッ!!!!』』 『すまないね』 手際良く且つテンポ良く交わされていく会話に、唯一着いていけないのはミリただ一人 ぽかんとしているミリをガイルは何食わぬ顔で席に座らせ、慣れた手付きで紅茶を入れていく。勿論いつの日か見せた、紅茶を高々とカップに入れるパフォーマンスを魅せながら。見た事のあるアスランはともかく、殆ど初見なのでガイルの紅茶の入れ方に「あの執事ヤベェ…!」と戦慄したりギョッとしたり様々な反応を示していた 「ミリ様、こちらをどうぞ。カロス産のアールグレーで御座います。ミリ様のお好みに仕上げてあります」 「あっ、ありがとうガイル」 「こちらもお茶受けにクッキーを用意しました。ゼル様と一緒にどうぞ」 「あぁ。…ミリ様、」 「あー」 完全に置いてけぼりになってしまったミリは与えられるままに紅茶を口に含み、ゼルに介助―――という名の"あーん"をされながらクッキーを食べる うん、相変わらず美味しい ガイルの入れる紅茶は風味がよく茶葉も計算されて蒸されている。お菓子も何度食べても飽きない美味しさだ 明らかおかしな行動が挟まれているが、あまりに自然な行動だった為誰も気付いていない。勿論ミリ自身も刷り込まれてしまった為、ゼルからの"あーん(※介助)"に何も疑問を浮かばせずに口を開けてしまっていた。ちなみに他のお世話係達はあくまでも視覚障害者専用の介助だけなので、口に食べ物を持っていく行為をしでかしているのはゼルだけである もし今の瞬間をブレイクタイムをしている全員に気付かれていたら、大変な事になっていた事を追記しておこう 「社会人にとって休憩は一番大切な事ですよね」 「………?そう、だね?」 「そう、休憩は大切な事。…ミリ様に辛い思いをさせるくらいなら、重責など無くしてしまいたい。そうは言ってもそれは難しい話……しかし今はちょっとした休憩時間。それくらい、俺達は自由であるべきだと常々思っています」 「――――!!」 状況がいまいち読めずされるがままになっていたミリだったが―――ゼルの意図に気付き、その見えない瞳を大きく開かせた 「…ゼル、」 「はい」 「――――ありがとう」 ふわりとミリは微笑を浮かべる ゼルの好きな微笑を、感謝の言葉と共に伝える。ゼルも嬉しそうに目尻を緩めてミリを見返した そしてすぐにミリは足でコンコンと床を叩いた。すると影が不自然に伸び、闇夜がその姿を現せた 頭部だけ姿を見せた闇夜は静かにミリを見つめていた 「闇夜、お願い」 《…いいのか?》 「構わない。皆になら…知ってもらっても、いい」 その言葉に闇夜は頷いた後―――静かに影から身体を出し、大講堂の宙に浮く キラリと光るのは闇夜の金色の瞳 その瞳の奥には何か不思議な色彩を放っていて 闇夜はゆっくりと大講堂内を滑らせる様に飛んだ。突然闇夜が影から現れ大講堂の宙を活歩する姿に驚く彼等を余所に―――闇夜は、あるところへ降り立った そこは―――ミリの友人達の元 「――――確かにみんな…大きくなっているんだね………みんなも立派な…おとな、だねぇ………」 ミリは囁く 嬉しそうに、面白そうに 闇夜の眼を借りて―――ここで初めて、否、六年越しで改めて大切な友人達の姿を知覚する事になる ミリの言葉はここにいる全員を驚かせた 「ミリ…君、もしかして…」 「やはり…世界が見えているのか…?」 「あは………分かっていたけど、皆イケメンでカッコいいね…さては皆モテモテだなぁ…?罪な男達め………シロナちゃんも美しさが極まって………なるほど…なるほどねぇ……シロナちゃんも罪な女の子ね……んふふ……みんな…大きく、なったんだねぇ…………」 闇夜の眼がダイゴを映した 闇夜の眼がゲンを映した 闇夜の眼がゴヨウを映した 闇夜の眼がオーバを映した 闇夜の眼がデンジを映した 闇夜の眼がシロナを映した 闇夜の眼がコウダイと、ジンと、アスランを映した 六年の歳月は無慈悲にも人を成長させる。若い者なら尚更成長スピードを実感させられる 彼等は大人になっていた 立派な、責任を抱える立派な大人になっていた 「みんな………」 嬉しそうに、面白そうに 愛しそうに笑っていたミリの笑顔が ――――ここで初めて、決壊した 「………ごめん、なさい」 「!ミリさん……」 「ごめんね、」 「ッ謝らないでくれ」 「…………みんな…本当に……ごめんね………」 「何も言わないでくれ…!」 「ミリ、お前は何も悪くないんだ…!」 「約束、守れなくて……本当に…ごめんね……」 「いいのよ、そんなこと…!あなたが無事だったら私達はそれだけで十分なのよ…!」 「ミリ、ミリ、こっちを見てくれ。お願いだ、思い詰めないでくれ、頼むから、そんな波動を、出さないでくれ…!」 表情を歪ませて、 己を悔いる様に強く自身の拳を握られる ギチギチと強い力で細い手が握っている様子は彼女が己を責めているのと同意儀で ミリは涙は流さなかった しかし分かる人には分かってしまった ――――ミリが自分に絶望してしまっている事を 「ごめんね………ッみんな本当に……ごめんね………」 約束がなによりも大切だった それが呆気なく崩壊させた反動は 彼女を絶望へと簡単に叩き落とすには十分な威力だった (嗚呼、結局私は)(何も学ばない) |