終止符を打ったのはレンだった レンは膨張する闇の中に一人臆する事なく後を追い、ゼルの横腹に自身の足で蹴り飛ばした 激昂していたゼルはレンの存在に気付かず、されるがままに蹴り飛ばされ、闇の中から勢いよく外に飛ばされステージの上を滑らせた。闇の中から突然ゼルが出てきた事で回りの仰天と動揺する声が聞こえてきた レンはゼルに目もくれず、バランスを崩しかけ倒れそうになっていたミリの身体を支えた 「ミリ、無事か」 「ッ、はい……私は大丈夫ですが……………すごい音がまたしても………」 「あの馬鹿の事は気にすんな。…チッ、アイツ強く握りやがって………赤くなっている。痛むか?」 「……いえ、問題ありません。そんなことよりもゼルの方を……」 「痛むだろ?」 「えっ、あの、私は大丈夫…」 「痛むだろ?」 「ヒェ…圧がつおい…!」 「ミリ!無事!?」 「一体何があったんだい…!?」 「ミリさん!麗皇!」 闇夜が己の力を解いた事で闇のバリアが収束し、シロナとダイゴとナズナはミリの元へやっとたどり着く事になる シロナは早々にミリを(レンから奪い)抱き締めながらよしよしと頭を撫で、ダイゴも安堵した様子でミリの背中を撫でていた。ナズナは小さな安堵の息を吐いた後、闇夜に「もうその能力の使用は勘弁してくれ」と釘をさしていた。ちなみにレンはシロナとダイゴに「こいつら…!」とわなわなしていた その横では――― 「私が入る前にレンガルス様が突入していましたので問題ないと判断しました」 「こいついけしゃあしゃあと…!」 腹を蹴られたゼルの横には、ガイルの姿が 痛みで呻くゼルに手を貸したガイルに「遅ぇよお前職務怠慢過ぎないか」とゼルの小言に先程の台詞をサラリと返したガイル 少し離れた所でわなわなするレンと同様に、わなわなするゼル。行動が似ていてこの場が違う状況ならとてもシュールな光景だっただろう ガイルは冷静に口を開く 「そもそも今のはゼル様の落ち度かと。激情したあまりミリ様に傷を負わせるなど…パワハラそのものかと思いますが?」 「ッ!!!!!」 「当然手当ては労災で処置させて頂きます」 「当たり前だ!!むしろ俺の懐からいくらでも出せ!!」 「承知しました。…ではキタ、ミリ様の怪我の手当てを」 「承知致しました」 ミリに一切の傷を負わせないし傷を与えない―――強い覚悟の内の一つに掲げていた目標が、自分の一時の感情で簡単に破ってしまうとは。 嗚呼、なんたる無様な姿であろうか レンの介入が無かったらそれこそ自分は何をしでかすかは分からなかった。積み上げたものを簡単に壊してしまいそうだった、先程の激情―――気をつけないと。本当に壊してしまったら意味がない しかしアイツの蹴りマジでクソ痛ぇんだがふざけんなクソがッ!とゼルは静かに悪態を吐いていた。己の力でどうにかなるにしても痛いものは痛い。しかしゼルも激情したレンの事をぶん殴っているのである意味おあいこである 「皆様、失礼致します。…ミリ様、お手に触れます。………なるほど、これは…。今から処置を行います。皆様少しお時間を頂戴します」 「いやあのキタさん私は大丈「あ?」ピェッ」 「…黙って手当てを受けねーと、その口全員の前で塞ぐぞ」 「アッスミマセン黙りますお願いします」 「…………レンガルス様、」 「なんだよ」 「…………そのやり取りもっとやってくだ(ゴッッ!)…失礼、隠しきれない本音が…ひとまずこちらはお任せ下さい。この会議が終わったら是非とも続きを(ゴッッ!)…失礼しましたすぐに終わらせます」 「…………、お前の情緒大丈夫か?」 「情緒?いい奴でしたよ」 「「「(なんて澄んだ目を…)」」」 「(あのポケモン容赦無くトレーナーにど突いているわね…)」 『(やっぱミリちゃんの影響強過ぎ)』 『(レンいいゼルといいお前達の中でミリ姫に口塞ぐ発言がブームなのか?)』 いちいち面白い本部の職員に全員は「本部ってこんな感じなのか…?」と疑問がむくむくと湧いてくる。特記するとたまたま今回彼女達四人が抜擢され、ミリの許可の元(適度に)はっちゃけているだけで他の職員は(クソ生)真面目でプライドを持って仕事をしている。とても風評被害であった ちなみにネタ語を言うキタの表情は無表情ながらキリッとしているので、これがこの場所なければ笑いが溢れていただろう。少なくてもミリの目が見えていたら大爆笑していたのは間違ない キタに腕の手当てをされているミリの頭を、ポンとレンは軽く撫でた 「ミリ、お前も少しは落ち着け」 「ッ」 「……責任感の強いのも、困りものだな。さっきのは、こいつらにはキツいものがある。ほどほどにしてやってくれ」 「!……貴方…」 「白亜、黒恋」 「「ブイブイ!」」 「!?君達…は…」 「そら、アニマルセラピーだ。存分にもふられてろ」 「ブーイ!」 「ィブーイ!」 「アニマルセラピーなんてそんな技名な…Σもふ…!」 「おっ、なんだなんだ〜?アニマルセラピーなら俺のブースターも出してやるよ!」 「レンだけいい思いはさせねぇ。俺はサンダースだ」 「あら、ならわたしはトゲキッスね」 「おや、でしたら私はエーフィで」 「わ、わぁ……可愛いの暴力…ぬくい…もふもふ……」 「自慢のポケモンとはいえゴツいポケモンしかいない僕らは何も出来ないね…」 「そうだな…」 キタの手当てが終わったのを見計らい、レン達のポケモンによるアニマルセラピーによって埋もれるミリ 小型と中型(イーブイ系統)そして大型(トゲキッス)に挟まれてもふられているミリは、あわあわとしつつも嬉しそうに顔の表情を緩めている 先程の、失望と絶望していた表情が少し和らいだミリの様子に、回りに集う彼等は小さく安堵の息を吐く この一瞬だけでミリの凄さを改めて垣間見た。あの恐ろしいプレッシャーを、全ての責任を取ろうと主張する心意気、そして総監に対して臆せず言う物言いといい、この細く華奢で儚い存在から放たれた数々に彼等は驚くばかり。自分達は何も知らなかったんだと痛感するしかない 結果的にミリを傷付けた。ゼルの突発的な行動とレンの介入の二つがなければミリはあのままどうなっていたか―――嗚呼、考えるだけで恐ろしい ポケモン達を撫でつつミリのメンタルケアに入るシロナ達を尻目に―――レンはゼルの元へ足を進める 「…おい、愚兄」 「なんだよ愚弟」 「お前……ミリに何か言っただろ?指図め"ポケモンマスターとして前に立て"とか言った口か。……お前、何も分かってねーな。そんな事を言ったらアイツの事だから余計に自分の責務とかで自分を追い込むのが目に見えてるだろーが。闇夜の映像を忘れたか」 「………チッ」 「ゼルジース、」 「…ゴウキか」 「立場の重要性は理解している。しかし、このままいけば舞姫の心が…………この後の話もある。多少は目を瞑ってやってほしい」 「………分かっている」 「しかし先程のは肝が冷えた。中で何があったかは声でしか分からんが…舞姫を怪我させた事に関して、お前は猛省した方がいい」 「言われてしまいましたね、ゼル様」 「こいつら…!」 やれやれと頭を振るゴウキと、馬鹿野郎がと見下すレン。好き放題言う二人にゼルはギリリと拳を握ってひたすら耐える むしろこの二人とナズナ(とアスラン)くらいしかゼルに物言い出来ないから逆に貴重な意見である。ちなみにナズナはゼルに物言いしたい気持ちであったが横にガイルが居る為、己の精神衛生問題の関係敢えて近付いていない。これがガイルがいなかったらねちねち物申ししていたのは余談である 「――――ミリ君、差し出がましい事を言う様だが…言わせてもらおう。仮にリチャードがまだ生きていたら…アイツは、ミリ君に責任を負わせる事はしなかったはずだ」 「アスランさん…」 「そもそもミリ君は今回の事件の一番の被害者なんだ。…本当ならこの事件だって君に言う必要はない話だった。けれどミリ君の立場もあるし、皆ミリ君の性格を把握した上でこの会議を開いた。君は…皆が大変な目にあっているのに自分だけ何も知らなかった事を、けして許さないだろう?実際に先程その姿を見た。こちらが知らせなかった事を、"知らなかった事"として自分を責める。…他人の気持ちを理解出来るところは美点だが、自分を過度に追い込む事に関しては欠点だ」 「…………」 「彼を責めないでやってくれ。…総監として、若い歳なのに彼は今までよくやってくれている。…リチャードが言っていた言葉は覚えているかね?"ポケモンマスターを守る事もまた総監の務めである"、と。…彼も君を守りたかったんだよ。それだけは分かってあげてくれ」 「尚且、ポケモンマスターはいわば人間国宝的存在とも等しい。一体いつ誰にその身を狙われるかは分からない。実力が認められた君のポケモン然り、君自身も。私達本部は君というポケモンマスターを、守る立場にいる、否、守らなければならない。私の目の届くところにいてもらいたいのだよ。しかもポケモンマスターは此処100年は誕生しなかったから、久しく誕生した君の存在はかなり大きい」 「………あ………」 「思い出したかい?」 「……は、い……一番大切なところを…抜けていました」 「…無理もない。同席していたから分かるが、あの時のミリ君は動揺していたからね。リチャードの言葉を飲み込むには…時間が掛かったはず。…それはきっと、今もだろうけどね」 「………」 「さて、お互いのすれ違いも落ち着いたところで……ゼルジース君のした事も少々過剰だったが、それはレンガルス君達が代わりに言ってくれているみたいだから敢えて私からは言わないでおこう」 流石はミリの養父である。アスランの語り口調は静かにミリの心に入っていき、ミリの記憶を掘り起こした かつてリチャードに言われた言葉が脳内にリフレインされる。故人となったリチャードの、総監としての最期の言葉。そしてその代を引き継いだゼルは総監の名の元にポケモンマスターを守ろうとした。その気持ちは本物だったと、手を握った時に感じた感情に嘘はなかった ミリが手を伸ばし、アスランはその手を取る。アスランの手に導かれるままに歩いた先には―――ゼルの元へ 「ゼル……」 「!ミリ様…」 「年寄りのお節介で申し訳ないけど、二人には仲直りでもしてもらおうと思ってね」 苦笑を浮かべながら「はい、ゼルジース君」とアスランはゼルにミリの手を取りやすい様に差し出した ゼルはアスランの行動に少々驚いた様子で見返すが、吸い寄せられる様にアスランの手からミリの手を優しく受け取った 「ミリ様、」 「ゼル、ごめんなさい。…聞かなかったのはこっちなのに…貴方を責めてしまった」 「…こちらこそ、感情に任せてしまいミリ様に怪我を負わせてしまった……申し訳ありません」 「あ、そこは本当に大丈夫だからね?思いつめないでいいからね?こんなの痛くない痛くない。処置が上手かったからね。ほらほらこう、ぶんぶん振っても痛くない!」 「「「「ん?」」」」 「「「「ミリ?」」」」 「「ミリさん?」」 「アッスミマセンなんでもないです静かにしますスミマセン」 「…事実は事実、猛省する所存です」 「うーん…気にしないでって言っても後ろの圧が凄いからなぁ……とりあえずゼル、仲直りしましょうか」 あはは、と苦笑を浮かべるミリ。当然後ろにはジト目で見つめる者と「あ゛ぁん?」とメンチ斬る目で見つめる者と"ゴゴゴゴッ…"と笑顔が怖いまま見つめる者達で分かれている。誰がどれの目で見ているかはお察しだろう。お前らなにやってんだ、とゼルは呆れた様子で彼等の姿を見つめるしかない そんな後ろの様子など全く気にせずミリはゼルの両手を取り、「せっせっせ〜のよいよいよい!」と手遊びを始め、挙げ句「なかなお〜りぃ〜〜…のォ指ずもう!」と勝負を仕掛けていた。大変図太い性格だし空気を全く読めてない。しかも盲目のせいと手の大きさの問題でミリの親指がゼルの親指に全く届いていない。ミリらしいといえばミリらしい行動である。「ぐぬぬぬ…!?」と呻くミリに今度は回りにいる者達が「(なにやってんだ…)」という目を向けていた。ちなみにお世話係の四人は無表情ながら親指をグッと立てていた 立てた親指を動かさずされるがままにしていたゼルだったが―――指相撲を仕掛けているミリの手を、しっかりと包み込んだ 「ミリ様…………もう、あのような事はお止めください。前にも伝えたはずです。ポケモンマスターが簡単に頭を下げるものではないと。…しかしミリ様の事だから御自身の立場関係なく、下げるものは誠意をもって下げる姿勢であると理解しました。理解はしていますが、けれど本当に貴女が下げなくていい頭を下げるのなら…見過ごすわけには参りません。今後も、俺は止める事になるでしょう」 「……そう」 「それになにより―――ポケモンマスターを降りるだなんて発言は……これっきりにして頂きたい」 「!……」 「これはこの場にいる全員の本意とはかなりかけ離れています。…そうだろう?」 「「「「あぁ!」」」」 「そうよ!」 「「当然」」 「皆…」 「…ミリ様…お願いです。どうか、どうか……」 お願いです、後世です 守らせてほしい、貴女の事を 自分は貴女の剣だから だから俺を―――置いていかないで 「………分かりました。さっきの言葉は取り消します。………これでいい?」 「………ありがとう御座います、ミリ様… これで安心しました(ギュッ」 「あたぁ!?」 「あ、ミリが負けた」 「秒殺でしたね」 「いい話だったのになー」 ニヤリと不敵に笑ったゼルはすかさずミリの親指を簡単に制した やはり双子というかなんというか。レンに似て容赦がなかった 「…さっき意気消沈していた気が、嘘の様に元に戻っている。…単純過ぎないか?」 「誰かさんにそっくりだな」 「左様ですね」 「…………俺は別にお前に同意を求めたわけではないんだが」 「おや、つれない事を。友として会話に参加しても問題ないのでは?」 「誰が友だふざけろ仕事しろあっちに行け」 「………、おいなんだよこっち見んなふざけんな似てるわけないだろ」 『いやいやレン、自分の胸に手を当ててよーく考えた方がいいぞ。そっくりだから』 『あの状況で指相撲するミリちゃんって本当に歪みないね…』 「アスラン、礼を言う」 「私は事実を言っただけだ、特別なにもしていない。けど、ハハッ…君達らしい仲直りになってくれた様でなによりだよ」 「あらー!?ちょっと!?親指抜け出せられないんだけど!ピクリとも動かない!痛くないけど動かない!なんで!?」 「ミリ君は察しが良過ぎる子だから説明しなくてもいい、と思われがちだが…かといってそれに甘え過ぎるのはいけない。しっかりお互いに話し合いを重ねて、絆を深めていく事をおススメするよ」 「フッ、そうか…肝に銘じておくぜ」 「ゼルー!?やっぱ貴方絶対根に持ってるんでしょ!動けぬ!だ、だれかおたすけー!」 「(流石アスランさん…ミリさんのあの雰囲気からここまで変えてくれるなんて……アスランが居てくれて本当によかった)」 「(やはりアルフォンスの息子…負けず嫌いなのも似ている)」 『(ゼルが楽しそうだ。若いなぁ……)』 → |