衝撃はホウエンに止どまらず、シンオウにまで大きく響いた。アイツと関わりがあり、アイツを知っていた人間はショックを受け、その情報は嘘だと否定した。それは勿論俺やオーバも含まれていて、テレビで放送された情報を見て俺は唖然とした。嘘だ、そんな事があってたまるかと、俺は否定した。否定し続けた。――…しかし、アイツが本当に行方不明だと実感されたのは、ジムリーダーの会合でチャンピオンが告げた言葉で、俺は信じざるおえなかった







「ホウエンのチャンピオンと色々話を聞いてきたけど、あの子は本当に…行方不明だって言っていた。実際に私もあの子が渡った経路を辿っても…何一つ、見つけられなかった。何も残さずに、忽然と姿を消したらしいの。……あの子は一体、何処に行ってしまったのよ…っ!」

「シロナさん…」

「あの子にホウエンを進めたのが、いけなかったのかしら…ホウエンに行かなかったら、あの子は…!!」







悲しいのは、俺だけじゃない

集まった全員が全員、アイツが居なくなった事に、途方に暮れた。しかし悲しんでいる時間が勿体ない、だったらこの時間でアイツを探し出そう、という声が上がり、俺達全員はアイツを探し出そうと決意した。チャンピオンや四天王やジムリーダーの奴等全員以外にも――ホウエンのチャンピオンや四天王にジムリーダーなどが、互いに手を組んでアイツの捜索に乗り出した



全員が全員、アイツを探した

全員が、アイツの無事を願った




しかし―――…







「……っ…おい、どうしてだよ







何で回りの奴等…アイツの事忘れてんだよ…!?」



















「あんなに色んな奴等がアイツを騒ぎたててアイツを探し回っていたのに、飛び交っていた情報も嘘の様に止まっちまった…全員が、俺達含むアイツと親しみあった奴等以外のシンオウとホウエンの全員が…アイツの存在を忘れちまいやがった。そう…まるでアイツの存在そのものが、無かった様に」

「………逆に俺達が世間に訴えても鼻で笑われちまうくらいだったからな…。ひとまず俺達は捜査を中断して、それぞれの専業に集中しようと職場に戻った、が…」

「俺達も…アイツの存在を、忘れちまったんだよ」







夕焼けの空に飛び交うキャモメやペリッパーの群れに反射されるオレンジの海

さざ波の音が響き渡る以外、とても静かなナギサの西海岸







「…何で、忘れちまったんだろうな、俺達」

「さぁな…わかんねぇ」

「六年経っても、一向に見つからねぇし…。皆少しずつ思い出してきて、改めて捜索に乗り出したっていうのに…アイツは、アイツは…!」

「……デンジ」






オレンジの海を見つめ、静かに呟くデンジの横顔をオーバはチラリと見る。スカイブルーの瞳はどんよりと暗く、回りを写さないその瞳はずっとオレンジ色を追いかけ続けている

オーバは知っていた。いや、ずっと知っていた。目の前の男が、デンジが、ずっと盲目の聖蝶姫の事が好きだったのを。好きだったから、ホウエンに行った彼女を、止めれなかった事も――オーバはずっと、知っていた。そして、彼女が消えた事でデンジの心がポッカリと空き、バトルでも埋めれない程に追い込まれている事を

デンジは燈の蝶に魅入られ今もなお、消えた蝶を追い求めている。暗い瞳は蝶を見つけない限り、光りを差す事は無い







「―――……アイツは見つかるさ。俺達がアイツの無事を信じなきゃな。アイツは絶対に生きている、元気にしている、そして…いつか絶対に帰って来る!」







信憑性の無い言葉、仮初の言葉を言わないとデンジもオーバもポッカリと空いてしまった虚無を埋める事は出来なくて

無理矢理繋いだ言葉と無理矢理出した笑顔でオーバはデンジに笑いかけた。いつもと同じ台詞と、同じ笑顔で。笑わないとオーバ自身もやってられないのを、デンジは知っていた。知っていてもチラリと視線を向けるだけで、後はもう目の前に広がる海に視線を向けるだけだった







「………なぁ、オーバ…」







しかし口に出るのは嘆きの言葉

暗く澱んだ瞳は、悲しみに歪む








「何で…何で!…俺達、アイツの名前…今でも思い出せていないんだよ……!!」












「デンジ、オーバー」











呼びたくても、忘れた名前



名前を叫びたいのに、

あの時みたいに呼びたいのに、

何で名前だけ思い出せないのか







「何でだよ、―――……」










君の名前を、教えてくれ


想い続けた、君の名前を







(燈の蝶よ)(お前は一体、何処にいる)


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