ミリのペースに巻き込まれる前に情報を一気に叩き付けた方がいいだろう。先程の【氷の女王】は、とても恐ろしかった。命を握られた様な恐怖をまさか人から、ミリから出てくるとは。やはりミリは心を痛め、憤慨した。しかしまさかあそこで【氷の女王】の側面が出てくるとは思わなかったから、【氷の女王】の側面を知らないダイゴ達は内心心臓がバクバクと激しく動き、冷汗をかくばかり。闇夜を通して知っていたレン達も、やはり体感して分かるミリの闇の側面―――これは野放しにしてはいけないと、本能が全身に警戒を鳴らしていた

【氷の女王】の再来を防ぐ為にも、事態を飲み込めないミリの気持ちを置き去りにしてでも伝えないと。(ハッと我に返った)ゼルがミリの身体を支えている今しかない

ダイゴとシロナは互いに頷き合った。この後の結末に心を痛めながら、二人はミリの親友として―――覚悟を、決める

そして二人は靴底とヒールの音を重々しく鳴らしながらステージから降りてミリと対峙し、

完全に固まってしまったミリを前に、告げた






「改めて自己紹介だ、ポケモンマスター。僕はリーグ協会ホウエン支部のホウエンチャンピオン、ダイゴ。リーグ在籍年数は―――六年。ミリからチャンピオンを受け継いでから、六年が経っているんだよ」

「わたしはリーグ協会シンオウ支部のシンオウチャンピオン、シロナ。リーグ在籍年数は、七年よ。………私達だけじゃないわ。ここにいる皆だってそうよ」






シロナの言葉に従って

一部を残した者以外、席を立った






「俺の名はデンジ。…リーグ協会シンオウ支部ナギサシティのナギサジムリーダー。…お前が丁度ホウエンチャンピオンを辞める時期にトムさんから引き継いで、ジムリーダーになった。在籍年数は六年だ」

「俺の名前はオーバ。リーグ協会シンオウ支部の四天王!びっくりしただろー?ミリがホウエンでリーグ大会を開いた同時期の大会で俺、勝ち抜いたんだぜ!…だからこうみえて、在籍年数は六年なんだぜ」

「私の自己紹介は不要な気もしますが…ゴヨウです。リーグ協会シンオウ支部の四天王、在籍年数はシロナさんと同じ七年です」

「………えっ、私もか?いや、私はリーグの人間じゃないから控えさせても「ゲンも自己紹介!ほら!」…………私はゲン。六年前はただのトレーナーだったが、今は縁があってカンナギタウンのカンナギ博物館に勤務している」

「私達シンオウ幹部組は六年前から変わってないので、自己紹介は控えさせて頂こう」

「他にも貴女の知り合いだったトウガンさんの息子のヒョウタさんはクロガネジムリーダー、スズカさんの娘のスズナさんはキッサキジムリーダー、そして弟子と話を伺っているスモモさんはトバリジムリーダーになっています。メリッサさんとトウガンさんとマキシさんは継続してジムリーダーを就任しています」






六年という歳月は長いようであっという間だ。六年前、まだ小さな子供だったスモモも、スズナも、今は立派なジムリーダー。ミリの足元をテトテトくっついていた子供達が、今は自分の意思でジムリーダーとなってトレーナーの前に立ちはだかる。まだまだ十代前半なのによくやってくれているとは誰が言ったか

子供の成長こそ、時の流れを一番に教えてくれる

―――記憶の無いミリにとって、それは一番残酷な話でしかない



話は容赦無くミリを突き刺す







「…先程、俺達の父親の話が出たな。サラツキ・ツバキ…父は、約二ヶ月前に亡くなった。心筋梗塞だった。とある恩人を期に父の後を継いだのが、俺だ」

「……ぁ…」

「…その話で言えば、俺もミリ様にお伝えする話があります







―――俺の前任リチャード・R・セバスティアーノは、五年前に亡くなりました。死因は膵臓癌でした」

「!!!!!」






ミリの顔が真っ青になった

それもそうだ。数ヵ月前に再会を約束した未来の上司であり、義父の友人であり、自分の友人になるであろう存在が―――まさか、もう、亡くなってしまっていただなんて



約束していた

必ず会おう、待っている、と

楽しそうに言ってくれていたのに




身近な人の死が、一番ミリの心を容赦無く貫く。六年の歳月は人間にとって瞬きの間だと理解しているからこそ、ミリは愕然とするしかない






「ア、スランさん……」






掠れた声で、ミリは言う

この場で一番に、信頼を寄せている大切な養父の名前を呼ぶ

小さな声だった。嘘だと言って欲しいと、藁にも縋る思いで言った言葉だと誰もが気付くくらいで

ミリはゼルと握っていた手をスルリと離し、目の前に対峙するダイゴとシロナからスルリと離れる。よろよろと足取りは悪くも、目が見えないはずなのにまっすぐにアスランの座る席へと、ゆっくりと歩みを進める

手を伸ばしたミリの手を、アスランは受け入れた。華奢で細い手をしっかりと握ってあげた。ホッと破顔するミリに、アスランは微笑みを浮かべる





――――現実は残酷である








「私はここだよ、ミリ君」

「あ、アスランさん…六年…六年も経って……リチャさん………リチャさんが……ッほんとう、なんですか…?」






――――現実はミリの心に牙を向ける






「……あぁ、そうだとも。彼等の話には嘘は無い。私はミリ君が行方不明になった後、リーグを辞めホウエンを去った。そして今はシンオウ地方のコトブキシティに身を置いている。…リチャードは、君の安否を最期まで気にかけていたよ」







―――現実は、容赦無く








「――――ッ、 ア ア ァ   」







ミリの心を




壊  し  た
















「―――…ねえ、約束しましょうよ」

「約束?」

「そう、約束よ。あなたがこっちに戻って来る約束。私はこっちで頑張るから、あなたがあっちで頑張る約束。再会したら、またバトルをする約束よ」







約束をしていた







「フフッ、約束が三つあるじゃないの。守る方も大変だよ?」

「いいのよ。それくらいの約束しないと私の気が済まないんだからね!絶対の絶対の絶対の、約束よ。いいね?」









とても大切な約束を







「しょうがない、大切な親友の願いだからね。分かった、ちゃんと戻って来るしあっちでも頑張って、戻って来たらバトルをしよう」

「えぇ、絶対よ。それじゃ、指切りしましょう?」








約束が守れない自分だから、

そう思わせてくれた人達との交わす約束を、大切にしたくて








「皆に会うの、楽しみだね」

「…」
《はい!》
《そうだな》








『―――――!ミリちゃんの心が…!』

「ッ、舞姫の気が…!」

「ミリの波動が…!」






また、

まただ



守れなかった



大切な約束を、また



いつも、そう


いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも


わたしは、ばかだ


いつもそうだ

守れないのを分かっているのに、懲りずに同じ事を繰り返す






「?……ミリ君、あっ………」

「……………?ミリ、何処に行くの…?」

「ミリ…?」

「お、おいおい大丈夫か…?」






嗚呼、だから嫌なんだ

約束は嫌いだ


約束を守れない自分が、本当に――――だいっきらいだ












「闇夜」

《…あぁ、》

「私を…"    "へ」

《了解した》

「ミリ様お待ち下さい!一体なにをされようと…!?」

「おいミリ!?」






ミリの一声に闇夜はミリの華奢な身体を片腕で抱き上げ、空中を浮遊する。制止の声を上げるゼルとレンの声なんて一切聞こえている様子はなく、ミリは闇夜の手によって―――ステージの上に降り立った

ステージの上にある席に立っていたナズナは驚き、モニターに映る三人も驚いた様子でミリを見ていた

闇夜の補助を受けつつ、ステージの上に立ったミリは―――








「―――この度は、皆様には多大なるご迷惑とご心配を掛けさせてしまった事を、深く、深く、深く御詫び申し上げます」

「「「「「「ッ!!!!????」」」」」」












この場にいる全員に向けて


ミリは頭を下げた







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