さて、シロナ達の再会をそこそこに

今のミリの格好を説明しよう



今のミリが着ている服は、今まで着ていたオレンジ色のコート――――ではなく、ゼル達同様の軍服を着用していた

ゼルの漆黒の軍服とは違い、ミリは純白の軍服だった。何者にも染まらない純白の軍服にはオレンジ色のラインが入り、和服モチーフの袖口はミリらしく、そして何処か【聖燐の舞姫】を思い出させてくれるデザインとなっている。ロングスカートの下にはオレンジ色のタイツを履き、太腿には黒と藍色のベルトが巻かれ、足首にも藍色の紐が巻かれている。彼女の長い髪は器用にヘアアップがされ、髪を留めているとんぼ玉の簪がこなれた印象を与え、白いリボンがふわりと風に踊る。腰ベルトにはポケモンマスターの象徴たるブローチが存在感を示していた

ゼルの着る軍服が重厚感のある漆黒で洋風なデザインだとしたら、ミリの軍服は蝶のようにふわりと軽く純白で和風なデザイン。ゼルとは対比に作られたミリの軍服は一際皆の視線を集めるほどで

これが今後ミリがポケモンマスターとして着用していく服である。「この服とっても動きやすい!流石本部仕様は違うね〜。…似合うかな?」とてれてれ笑うミリにゼルは「えぇ、とてもお似合いですよ」と己の動悸を抑える為に胸をギュッとしていたのは置いといて

この軍服はゼルがデザインしたものだ。ゼルがデザインして、お世話係の四人が逃げるミリを取っ捕まえてサイズを測り、工場に受注発注して出来た一級品である。当然春夏秋冬着れるようにそれぞれの季節専用に用意もしてある。そう、ゼルがデザインした軍服。そしてゼル自身も軍服を着て、ミリと共に馳せ参じた―――






『(うわぁ、すごい誇らしげな顔をしているなぁ…)』

『(流石双子…レンと同じで分かりやすいね色々と…若いなぁ…)』

『(結構金かけている…ミリ姫の装飾品もゼルの装飾品もすごい金額だろうな…)』

「(白皇がやらかすかもしれない未来を、まさかこんなところで見てしまうとは……)」

「(権力と盲目をいいように利用しているのが丸分かりだぞあれは。麗皇よりタチが悪い)」

「(アイツ……自分好みに染めようとしてやがる…ッ!!!!)」






気付く人には気付くその意味。ゼルを知る者達は一部はジト目で、一部は苦笑、一部は呆れ、一部はキレ気味でゼルを見つめていた

ちなみに本部が軍服仕様なのは事実で、ゼルが着ている軍服は先代リチャードがデザインしたものである。断じてゼルの趣味ではないし実際貰った時は「うわなんだこのゴテゴテのギラギラなデザインは俺マジこれ着るのかよ権利の主張がヤベェ恥かしいだろ誰得だ」と悪態を吐いていたくらいだ。慣れとは恐ろしい。当然大きな行事でしか使う事はなく、今までタンスの肥やしになっていた。ミリの軍服をデザインする事で「クソ前任もこんな気持ちだったんかな…」とリチャードの気持ちを知る事になるのだがそれはさておいて

自分の漆黒の軍服と対になる、純白の軍服。愛しき存在と(デザインは違えど)お揃いの軍服を着る。非公式とはいえ、ポケモンマスターとして現場に出るミリのデビューを飾る日でもある。着ないわけ、ないだろう?とゼルは後に言った





―――さて、話を戻そう






シロナ達との再会を喜び合い、その流れでこの場にいる者達とミリの再会の場として許された一行達

シロナ、ダイゴ、ゲン、デンジ、オーバ、ゴヨウとわちゃわちゃと再会を喜び、コウダイとジンと挨拶を交わし、そして養父であるアスランとも再会が叶ったミリ。「会いたかったよ、ミリ君」とアスランは元気になったミリの頭を嬉しそうに撫で、「また君と会えて嬉しいよ。この会議が終わったら少し話をしよう」と言葉を続けた







《主、会いたかった》

「闇夜!会いたかったよー!」






そしてミリは無事に闇夜と再会を果たす事になる

アスランの影から現われた闇夜を、ミリは嬉しそうに抱き着いた。闇夜も金色の瞳を緩ませ、抱き着いてきた己の大切な主を抱き締め返した

闇夜はこれでミリの手持ちへと戻る。ボールは行方不明だが、三強達の事例があるから問題はない。色々とミリに伝えなければいけない話はたくさんあるが、その役目は自分ではない。闇夜はアスランに一礼をした後、自身の定ポジションであったミリの影の中に入っていくのだった

そしてミリの再会を待っていたのは闇夜だけではない





「「ブイブイ!」」

「あ、この子達はあの時の。よしよし、君達も元気そうでよかったよかった。…おぉ、もふもふして気持ちがいいね〜アスランさんにいっぱい美味しいものを食べさせてもらったなー?」

「この子達も今回の話の重要なポジションになっていくからね。…この子達は、君にとても会いたがっていたよ」

「そうですか。…よろしくね、君達」

「……、ブイブイ…」
「…ブィ…」

「?」





アスランの腕の中でミリを見上げる白亜と黒恋だったが、やはりミリは未だに二匹の事を忘れていた。当然二匹の名前は分からないので、"誰かのポケモン"として二匹の頭を撫でていて

聡い二匹はその事に気付くと、シュン…と耳と尻尾を垂らした。ずっと会いたがっていた自分の主の、他人(ポケモン)にする様な対応。やはりあれは悪夢なんかじゃなく現実だったんだ、と。その姿を見たアスランは沈痛な面持ちで二匹を見下ろしていた






『……初めまして、と言うべきか。私の名前はカツラ。カントー地方のグレンジムリーダーを勤めている。今回は皆の補佐として参加させて頂く。よろしく頼むよ、…聖蝶姫君』

『……僕はマツバ、ジョウト地方のエンジュジムリーダーだ。僕は今回の件に関わっていたから同席を認められている。一緒に話を聞かせてもらうから、よろしくね』

『……私の名はミナキ、リーグの人間ではないが縁あってこの件に関わっていた。よろしく頼む。…こちらにもう一人いるが、会話には参加しないつもりらしいから気にしないでくれ』

「…………」

「…ミリ様、」

「…あっ、ごめんなさい。まさかカントーとジョウトから参加するとは思わなかったから………失礼しました。本日はよろしくお願いします」

『『『………』』』






ここでミリはモニターにずっとスタンバイしていたカツラとマツバとミナキとの再会を果たす事になる。三人の願っていた再会とは、程遠いものだったが

モニターに映るミリは本当に目が視えない様子で、お世話係りの補助を受けながら三人を視返している。マツバは言葉をつまらせ、ミナキは拳を握った。何処か驚いている様子を見ると自分達の参加はミリは知らされていなく、カントージョウト組が参加していた事は予想外だったと見る

自分達と対峙するミリは、自分達の知る【聖燐の舞姫】と変わらないのに、どうしてこんなにも心の距離を、壁を感じるのか。マツバが小声でカツラとミナキに「ミリちゃんの心、反射されて何も視えない。…本当に、何も視えないんだ」と沈痛な様子で言っていたので、間違いではなかったらしい。自分達の知る笑顔を向けてこないミリを見て―――嗚呼、確かにこれはレン達が暗い顔をするのも納得だと、カツラは一人思うのだった







「―――改めて、自己紹介をしよう。俺の名前はサラツキ・ナズナ。考古学の博士をしている。……改めて、よろしく頼む。こっちは俺の弟の、」

「名は、改めてゴウキだ。臨時だが四天王と、シホウイン道場の副師範長をしている。……よろしく頼む、聖蝶姫よ」

「えっっ」

「…どうした?」

「……………サラツキ博士と言えば、私をポケモンマスター出場にお力添えをして頂いたお方と認識しています。しかしお名前はツバキ博士と伺っていたので…ツバキ博士に会う前に息子さんに会えるなんて…二人して博士号を持つなんて凄い事なのに…フフッ、いつかお会いした時の話のネタに出来そうです」

「ッ………」
「…………」

「理解しました。貴方の事は敬意を評し、サラツキ博士と呼ばせて頂きます。私の事は気軽にミリ、とお呼び下さい」

「………あぁ、構わない。では言葉に甘えて…こちらも貴女の事はミリさん、と呼ばせてもらおう」

「はい。弟さんの方も、ちょっと縁があって貴方の事を存じています。信頼のある頼もしくてカッコいい、確か警察学校の師範長をも勤めていると伺っています。私と歳も近いと聞いています、親しみを込めて貴方の事はゴウキ、と呼ばせて頂きます。貴方も私の事は聖蝶姫ではなく、気軽にミリと呼んで下さい」

「………好、きに…呼ぶといい」

「(戸惑ってんぞ)」
「(あのゴウキさんが…)」
「(珍しいわ。流石ミリ)」
『(さん付けで呼ばれていて急に親しみ込めて呼び捨てされたらそりゃびっくりするよね…)』
『(ミリ姫を呼び捨てするゴウキさんの印象が湧かんが、どうするんだ…?)』

「…私のポケモンにも貴方と同じ名の子がいます。機会があれば是非、会って下さいね」

「…あぁ、よろしく頼む」






ナズナとゴウキは驚いていた。自分達の亡くなった父が、聖蝶姫であるミリとの繋がりがあった事を。本人達は会った事が無いにしても、息子達には関係ない話。亡くなってから気付く、父の友好の広さ。つくづく自分達の父は侮れないなと思うばかり

ツバキ博士の息子さん達に会えてよかったとミリは笑う。既に父は数ヵ月前に亡くなった事を、知らずに

ミリは何も知らず、ナズナの事は敬意を込めて「サラツキ博士」と、ゴウキを"自分より二つ上の年齢"と認識し、同じリーグの人間として「ゴウキ」と呼んだ。ナズナはさらに余計に心の距離を感じ、ゴウキは友好的な姿に内心戸惑いまくった。【聖燐の舞姫】のミリを知っているからこそ、まるで反対の行動をする目の前の【盲目の聖蝶姫】に、動揺を隠すのに精一杯だった

特にゴウキにしたら【聖燐の舞姫】は共に旅をする際、すごく警戒心という名の遠慮が凄く、「ゴウキさん」と笑うミリの心に壁があると嫌でも理解していたから―――やはり、セキの存在が大きかったのだろうか。そのセキも、今はこの世にはいない

そしてゴウキは果たしてミリの求める要望に応える事が出来るのだろうか。女性の名前を直接呼ぶのを避けてきたゴウキが、親しげにミリの名を呼べるのか―――もはや回りはゴウキを好奇な目で眺めていた



そして――――







「よお、ミリ。元気そうで安心したぜ」

「…御機嫌よう、レンガルスさん」

「………会いたかった」

「………はわわ」






最後に残るのは、レンの姿

ミリと対峙したレンはさっそく本音を隠さず囁き、さらりとした動作でミリの頬を一撫でした

カッと赤くなるミリを愛しそうに、流れるままにミリの手を優しく握った。語彙力が行方不明になりつつあるミリの情緒は知らず、そのままミリの華奢な手に口付けを落とした。「あー!?」『あーあ』「アイツもやりやがった!」「双子ってこうも行動が似るんでしょうか…」『やると思ったぜ』『青春だねぇ』「アルフォンスも嫁にあんな感じだったな…」「血の繋がりって怖いですね…」など声が上がるが、レンの耳には届かなかった。ただひたすらに、ミリを想う。ずっとずっと会いたかった、愛しい人。やっと会えた、自分の一番大切な人


憎き兄の趣味に巻き込まれたのは解せない気持ちでしかないし、また軍服も似合っているのがとても、むちゃくちゃ、癪でしかないが、それはまぁ百歩譲って置いといて


離れた時間が長かったからか、触れれた事に安堵し、さらに愛しい気持ちが湧いてくるばかり。手から気持ちを読み取れる事を知っていたレンは、まさに愛の気持ちの暴力をミリに与えまくっていた。ちなみにミリからは教えてもらってなく、レンが自分で気付いた事だと言っておこう

自覚ありの、愛の気持ちを込めた感情の気功砲。一体どこまでミリはレンの気持ちを読み取れたのかは分からないが―――顔は真っ赤に染め上げ、出てくる言葉は「はわわ」「あわわ」「ピェ」等と、完全に語彙力が溶けた可哀相な状態になってしまっていた

最初に言っておくが、レンは手を握っているだけである。手を握って、ただミリを見つめているだけ。時間としたら数分程度でしかないのにこの威力。そのままレンは愛しい気持ちを隠さずに、空いている手を伸ばしてミリを抱き締めようとした




―――が、


そう問屋が許すわけもなく






「(ヌッ)お邪魔致します」

「甘い雰囲気断ち切り隊・参上!」

「とうっ!」

「うおっ」

「ATフィールド展開!からの、ミリ様を総監へバケツリレー式でパス!」

「はわ」

「パス!」

「はわわ」

「パス!」

「はわわわわわ」

「パアアアッッス!」

「「「「(えええええ)」」」」






流れる様な連携で、甘い雰囲気になりつつあったレンとミリの間を断ち切った彼女達

ミリはバケツリレー式でパスされまくり、くるくると回され、そのまま(レンにブチ切れ寸前だった)ゼルの腕の中へ収まる事になる。赤い頬をそのままにキョトーンとするミリを、ゼルは「おかえりなさい、ミリ様。さっそくですがお手を除菌しましょう、キレイキレイ致しましょうね。…おいデンジ、ミリ様のお手を綺麗にして差し上げろ」「任せろ、しっかり除菌してやる」とある意味仲良くしていて、シロナに「やっぱり双子ね〜」と言われていた

レンは片眉を吊り上げて、眼前にいる彼女達を睨み付けた






「………、何するんだよ」

「申し訳ありません、レンガルス様。ミリ様への過度な接触はここではお控え下さい。これからこの場は厳粛な場になりますので、それ相応の対応をして頂く事になるかと」

「ミリ様の格好をご覧下さい。今あの姿をしているミリ様は、ポケモンマスターとしてこの場に立たれています」

「…立場を弁えろ、とでも?」

「この会場にいる間は、そう言わざるおえません。ご理解を」

「……………」

「個人的な気持ちとしたら会場を出たら好きに動いて構いません。それこそ先程みたいな薄い本が量産されそうなうめぇ展開が繰り広げられるならその姿を遠くで眺めていたいというk(ゴスッ!!!)…失礼しました邪心が働きました故聞き流して下さい」

「いや無理だろ」

「「「「(無理だな)」」」」
『「(無理だね)」』
『(キャラ濃いな…)』
『(やっぱり面白過ぎるんだよね)』















「ゼル、私…一通り皆と挨拶出来たかな」

「えぇ、この場にいる皆とは全員顔合わせが終わりました」

「……そっか。うん、よかった」

「……ミリ様、ご満足頂けましたか?」

「うん。…時間を作ってくれて、ありがとう」






******










「それでは会議を始めます」





演説ステージにダイゴが立ち、マイクを持って司会を進行する

他にもステージにはシロナが立ち、ダイゴと交代しながら進行役を務める。ナズナもまたパソコンを操作しながら進行を進める予定である

既にステージには大中小のモニターが数々設置してあり、内一つのモニターにはカツラとマツバとミナキの姿が、もう一つには不自然な真っ黒い画面があった

ダイゴは続ける





「今回の会議は、「シンオウに起こった出来事の全て」を話させて頂きます。議題は【犯罪組織・彼岸花の被害報告及びシンオウ全土の現在の脅威】について。ポケモンマスターには是非ともこのシンオウに起こっていた出来事を聞いて頂きたい」






ステージの正面の席には総監であるゼルと執事のガイル、その後ろにはミリの世話係りの四人が

そしてミリはゼルの左隣に腰を落ち着かせ、眼前にいるダイゴ達を視ていた。視線は当然合っていないが、ダイゴ達にはミリがこっちをしっかり視てくれていると感じていた


それが何よりも頼もしくて、

これから伝えるであろう真実に、心を痛めるばかりである






「――――このたびは、無知な私の為に時間を割いて頂き、しかもこんな大掛かりの会議を開いて頂き、誠に感謝致します。今日この日を待ち望んでいました。今回の件…一体このシンオウに何が起こっていたのか、やっと知る事が出来る。愚純な自分では御座いますが、このシンオウの脅威である原因を絶つ為にも……詳しい経緯をお願いしたい」






ミリは言う

ポケモンマスターとしての顔で、一人の権力者として発言をする

ポケモンマスターとして自分に出来る事があればなんでもしよう。漆黒の、光のない瞳は真摯にそう言っていて




嗚呼、願わくば

これから伝える真実に、


どうか、どうか―――







「それでは皆さん、よろしくお願いします」

「……では、さっそく始めさせて頂きます。手元に資料がある方はそちらを、ミリさんには俺が説明させて頂こう」







自分で自分を


追い詰めない事を願って








(さぁ、始まった)



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