誰もがソワソワドキドキと、きたるその時間を待ち続け

そしてついに、その時がやってきた





「皆様方、お久し振りでございます。このたびはお時間を頂戴頂き、誠に感謝致します」





リーグ協会シンオウ支部のエントランスホールに、サーナイトのテレポートで現われた渦中の存在

ゼル達の来訪を待っていた、今回会議に出席する者達の出迎えを前に、ガイルは悠然と頭を下げる



予定の時間ピッタリに現われた、総監であるゼルとその執事のガイルとゼルの手持ちであるサーナイト。ガイルの姿はいつも通りの紅い軍服姿は変わらないが、ゼルの方は普段着ていたスーツ姿ではなく、重厚感な軍服姿で現われた

漆黒の色を身に纏い、藍色のラインが入っている、装飾品も豪華な漆黒の軍服。全体的に黒色なので彼の白銀色の髪がより一層煌めいている。この服が本来総監が着る服なのかは分からないが、誰が見ても今のゼルはまさに総監と言わしめる存在感を出していた

ゼルとガイルとサーナイトの後ろに控えるのは四人の女性。彼女達もまた、二人同様に軍服を着ていた。ゼルの黒色とガイルの赤色とは違い、簡素な鼠色の軍服を着用し、ただただ静かに控えている。やはり軍服が本部の正装なのだろうか。全員が揃って着る軍服姿は圧巻の一言でしかない






「こちらこそ、ご足労頂き誠に感謝致します」

「ようこそお越し下さいました。…彼女は?」

「ミリ様の御場は、会場に入った時に」

「……畏まりました。お話の通り、人払いは出来ております。さっそく案内致します。こちらへ」

「あぁ」






今回の会議は極僅かの人数で執行う。当然他部長達及び他の従業員達は今回の会議の全容は知らず、通称【ドキドキ☆総監による幹部長と副幹部長&名指しで呼ばれた者達の呼び出し事件〜一体何言われちゃうのー!?〜】である。とても不名誉な名前を付けられてしまっているが、噂が噂を呼んでしまった結果だった。ちなみに名前をつけたのはリョウであり、名前を知ったオーバに頭ぐりぐりされゴウキに頭にチョップを受けゴヨウにでこピンを食らいシロナに頬を抓られている

知らない人からすると講堂を幹部長自ら名前を使って長時間使用するとし、しかも高性能のモニターを何台も設置し、挙げ句には厳重な人払いなどしている。気にするなというのが無理な話である。勿論噂好きな者達があれよあれよと噂を作り憶測を立て、こうして不名誉な名前が完成した。全員して「解せん」と顔をしかめた

とはいえしっかりと命令は伝わっているので、エントランスから会場までのルートに人もポケモンもいない。コウダイとジンの案内の元、でゼル達は会場である大講堂へと中に入る






「「ようこそお越し下さいました」」





出迎えたのはシロナとダイゴだった

北と南の、副幹部長の次に地位のある二人がゼルに頭を下げる

そしてコウダイとジンと交代してゼル達を大講堂内へ。シンオウ支部の大講堂は上から下へ降りていく映画館スタイルなので、ゼル達が座る席は自ずとスクリーンが見やすい前列の席になる

一番したにある講演者ステージには、既にナズナがパソコンを操作しながら誰かと話しているのが見える。少し離れた席には突入チーム達の姿―――頭を下げているゴヨウとオーバ、そしてそのオーバに頭を下げさせられているデンジと居所が悪そうにしているゲンの姿が。まぁゲンからするとリーグの人間ではないので、前回の突入前会議同様どういう風にすればいいか分からない、といった様子だから気にしないとして

反対側にはゴウキとレンの姿があった。二人は眉を顰めた様子で、降りてくるゼル達を見つめていた。特にゼルを見るレンの目は「テメェなんだその格好は軍服とか誰得だよゴテゴテギラギラにしてきやがってそんなに権力振りかざしたいのかヤメロ恥かしい」と言っていた。そりゃいつものコート姿で来るものだと思っていたら、軍服姿で現れたのだ。しかもデザインがゴテゴテで高そうな宝石がギラギラと。これは双子のレンが引くのも無理もない

対するゼルは「ハッ!俺が何故わざわざこの軍服を着てきたのか…その意味が分からねぇのは気付いてんだよ今はそうやって精々指咥えて眺めてるんだな」と鼻で笑い返していた。一瞬しか目が合わなかったのに二人はこの会話を眼で繰り広げていたから流石は双子である


階段を降りるゼルは、とある人物を見つけて足を止めた






「――――アスランか」

「ゼル君、数日振りだ。今回の会議、私達の参加を許可してくれてありがとう」

「「ブイブイ!」」
「………」






ミリの養父、アスラン

そしてあの日別れたっきりだった、白亜と黒恋。そして、闇夜の姿があった

本来アスランは、突入チームにいたゲンとは違い、ここに居てはならない人間である。元ホウエン幹部長とはいえそれは六年前の話で、完全な部外者だ。しかしゼルの一存で、彼はこうしてこの場に特別に参加する権利が与えられた

久し振りのゼルを前にニコニコする白亜の身体を撫でながら、アスランは言う






「立場は弁えている。……この子達が無事にミリ君の元へ戻れるまでが私の使命だ。今日という日を、見届けさせてほしい」

「…ミリ様の養父だ、多少は目を瞑るつもりでいる。今のうちに別れの挨拶でもしておくといい」

「!……ありがとう、ゼル君…いや、総監」






権利が与えられ、アスランはコウダイからこの会議の内容を聞いた上で、強い意思を持って参加を決意した


そうしてゼルが案内された席に座った事で、立って待っていた彼等も着席をする事になる。ゼルが座る席の右隣りにはガイルが立ち、またその後ろの列には四人の女性が並ぶ

ガイルから資料を受け取ったゼルがページを捲る前に、シロナが彼に声を掛ける






「――――総監、発言しても?」

「許可する」

「………あの子は、何処に?」







この会議にとって一番の主役であり、ここに居る全員が一番会いたい存在である―――ミリの姿が、無い

ミリがこちらに来る事は確認している。だからこそこの会議が存在している。それにミリの事だからオンラインで会議を聞くよりは現地に来て会議に出たい、と言うのは目にみえている

それがなくても全員、ミリの元気な姿が見たいというのに―――こいつ本格的に囲い出したのか、と疑惑が全員の頭を過ぎる


しかし、ゼルは案外すんなりとシロナの問いに答える事になる。「…お前達、少しは待つ事を知らねぇのかよ」と肩を竦めながら、ゼルはガイルに目配せをする。頷いたガイルが後ろを振り返り、スッと片腕を上げ、口を開いた






「―――お前達、ミリ様をお呼びしなさい(スッ…」



パチン―――



「「「「承知致しました」」」」

「「「「「ッ!?」」」」」





ガイルが言い、指を鳴らしてすぐだった。今まで静かに控えていた、四人の女性達が急に動き始めた

ただの付き添いだと思っていた為、しかも声を揃えた上に動き始めた彼女達に回りは驚くしかなく

彼等の様子などお構いなく四人は席から離れ、ゼルに同時に一礼をした上で、スムーズ且つ素早い動きで演説ステージへと移動する。既にステージにいたダイゴとシロナとナズナには「ダイゴ様、どうぞこちらへお待ち下さい」「シロナもこちらへ」「ナズナ様はそのまま座ってお待ち下さい」と三人がたじたじになる様子構わずテキパキと案内していく。先にナズナの手で中継を繋げ映っていたカツラとマツバとミナキにも「少しお時間頂きます」と頭を下げるのも忘れずに、彼女達は演説ステージを陣取った

横一列に並んだ彼女達は、講堂内にいる全員に向けて頭を下げた






「お初にお目にかかります。私達はポケモンリーグ協会本部に在籍する者で御座います。」

「名前を名乗る程では御座いません。どうぞ私達の事は右手からモブ1、モブ2、モブ3、モブ4と認識して頂けたら幸いです」

「私達は主にミリ様の生活を支える為に総監の采配で結成されました。チーム名は名付けて、【ミリ様の生活を健やかにさせ隊】で御座います。以後よろしくお願い致します」

「前座はここまでにしてさっそく開始致しましょう」






呆気に取られている全員を置き去りにして、洗礼された動きで彼女達はステージを踊る

ここからは彼女達の独壇場だった






「こちら、ただのフラフープが一つ。種も仕掛けも御座いません。その証拠に、」

「はい、普通のフラフープです。いつもより多くフラフープを回しております。腕、腰、足、特に全く何も起きません。ポケモン達にも遊んでもらいましょう。アママイコ、」

「アーママーイ♪」

「はい次はこちら。オレンジ色の、大きな布でございます。こちらも全く種も仕掛けも御座いません。ポケモン達に長さを教えて貰いましょう。ココガラ、マメパト」

「ココッ」
「パト!」

「はい、何もありませんでしたね。どんどん行きます」


「お、おぅ……」
「いやキャラ濃いなおい」
「(見た事ないポケモンがいるのに頭に入ってこない…)」
「何が始まるのかしら…」
「さぁ…?」


「そしてこのフラフープに布をくくり付けます。このように、ドデカイ鯉のぼりみたいになりました。比較しましょう。ミニリュウ、」

「りゅ〜」

「そしてここに敷いた絨毯の上に置きます。ちょっと凝ってみましょう。ではモノスゥ、氷の花を咲かせなさい」

「スゥー」

「次のポケモンの登場です。ゴチミルとユニランで御座います。ゴチミル、ユニラン、ねんりきでこれを浮かせなさい」

「ゴチゴチ!」
「ランラン!」

「そしてここにドラムを鳴らします。自前で失礼致します」


「「『ドラム…!?』」」
「あれ何処から取り出したんだ…?」
「いつの間に……」






ドルルルルルルルッ…






「ドラムが何処から出てきたのかそこが気になり過ぎる」
「いやそこかよ」
「ドラム自分で叩くんですね…」
「びっくりするのは彼女達全員真顔なんだよね…」
「真顔が怖い」
「波動がずっと一定してて逆に怖い」
「ポケモン達が笑顔だからまだいいけど…」
「彼女達は本部が用意したアンドロイドなのか?」
「それはそれですごく気になる」






ドルルルルルルルッ…



ジャン!






「降ろします。するとなーんとあら不思議!」

「――――はろはろろ〜ん!呼ばれて飛び出てジャジャジャーン!みんな大好きミリちゃんでーす!私・参上!(キラーン!)いえーい!みんな元気ぃー?ぴーすぴーすダブルピース!!」

「はい、というわけで我等がポケモンマスター、ミリ様のご登場になります。皆さん拍手の方をお願いします。拍手!(パチパチパチ」

「キャー!ミリ様ー!(法螺貝ブォオオッ!」
「こっちむいてー!(ペンライトぶん回す」
「ウインクしてー!(クラッカーパァアアンッ!」


「「「『まてまてまてまて』」」」







あまりにも濃い展開なのにやっていた事はベタなマジックを披露してきた彼女達

そんなマジックで現れたのは、全員が一番会いたかった存在―――そう、ミリの姿が

ミリはそれはとても元気な姿で現われた。四人の女性達の、ツッコミ所しかない歓迎を受けながらミリはぴーすぴーすとキメポーズをキメていた。残念ながら視線とポーズが違う方を向いていたが。しかもさり気なく彼女達のポケモンの手によって立ち位置や視線を調整されていた。手厚かった



呆気に取られていた者達はハッと我に返り、座っていた席から立ち上がってステージの回りに駆け出した





「ちょいこらミリ!なにやるのかと思ったら!この状況でやるか普通!?めちゃくちゃびっくりしたじゃねーか!」

「この声は、オーバーだね!へへーん、スゴいでしょ〜!皆にお願いしたんだ!掴みは上々ってね!」

「ミリ様足元お気をつけを。氷に引っ掛かって転んでしまわれます」
「あ、ごめん」

「いや尊敬するよこの状況でこんなベタ……つか、お前こういうの好きだったのか。意外過ぎる」

「あ、デンジ!へっへーん、私も中々やるんだよねぇこれが!」

「ミリ様、ねんりきで浮かせますのでご注意を。ユニラン、」
「ユニ〜」
「はーい」

「あまりこちらをひやひやさせないでくれよ…元気そうで良かった。波動も変わりなくて安心した」

「ゲン!私は元気だよーん!てか話に聞いていたけど本当にゲンがいる!オーバーとデンジも該当するんだけど!会えて嬉しいけどね!」

「ミリ様、帽子にクラッカーの紙が」
「ありがと〜」

「ゲンさんも重要な役を任されたのでこちらに来て頂いています。…やはりミリさんがいると雰囲気が明るくなりますね。元気そうで良かった」

「ゴヨウ!あらー雰囲気明るくなった?ふっふっふっー少しでも笑ってくれたら私の作戦大勝利よー!」

「ミリ様の笑顔が眩しい」
「ごめんなんて?」

「君は本当に…全く、僕達の想像をいつも超えていく。ミリ、体調は大丈夫かい?…本当に、よかった」

「あ!ダイゴ!よかったまだダイゴいた!もーなんでダイゴがこっちに私より先に来ているのか絶対に教えてもらうんだからね!」

「拗ねたミリ様可愛い」
「ごめんなんて?」


『ちょいちょい彼女達の存在がとてもシュール過ぎるんだよね…』
『さっきの法螺貝のインパクトが抜けないんだが』
『本部…ミリちゃんの影響受け過ぎてない?面白過ぎるんだけど』






テーブルに上がったオーバ達の手堅い歓迎を受けながら、ミリは楽しそうに笑う

あの日から数日振りの再会。びしょ濡れで冷えていたのも助けようと電流を浴びた傷もすっかり癒えた身体。記憶喪失だと正式に診断されても、全くそう思わせない明るさでミリはいた

嗚呼、よかった

本当に、よかった






「ミリ………」

「―――あ、この声はシロナだね!シロナちゃん会いたかったよ〜!」

「…色々言う前に、これだけ言わせてちょうだい。皆、」

「「あぁ」」
「おう!」
「えぇ」






ミリ、会いたかった

本当に、会いたかった






「……おかえりなさい、ミリ。あなたの帰りを、このシンオウの土地でずっと待っていたわ」

「「「「おかえり、ミリ(さん)」」」」





「―――皆、ただいま!」






嗚呼、やっと言えた

この言葉を、ずっと言いたかった


シロナは込み上げる涙と共に、嬉しそうに笑うミリに抱き着いたのだった

















「僕も仲間に入りたかったけどちょっと自重したよ。僕、ホウエン組だし」

「ハハッ、分かるともダイゴ君。彼等が羨ましいよ」

「…若さが眩しいな」

「私達は見守っていましょう」

「ここで記念に法螺貝を吹きます」
「ドラムも叩きましょう」
「トランペットも吹きましょう」
「ドータクンを鳴らします」

「お前達、そこまでで宜しい。持ち場に戻りなさい」

「「「「承知しました」」」」

『やっぱりミリちゃんの影響強過ぎ』













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