テレビ電話を掛ければ、すぐに相手は出てくれた






『――――カツラさん、』

「遂に今日になったんだね」

『あぁ。少ししたら俺達もアスランさんと合流してリーグに行く予定だ』

「そうか。彼等はもう現地にいてマツバ君とミナキ君が楽しそうにバトルの話をしている。若いっていいねぇ〜隣りの部屋から楽しげな声が聞こえてくるよ」

『フッ、そうか。…首領は?』

「サカキなら息子のシルバー君と電話をしている。長く話すつもりは無いらしいから時間には間に合うはずだ」

『分かった』





ナズナはこの会議で重要な役割を持っている。かつて「彼岸花」をそのハッカーの腕で壊滅させ、さらに記憶が無くなる前である【聖燐の舞姫】が残した手掛かりをしっかり活用してくれた経緯がある。さらには彼岸花と手を組んだロケット団との縁があったりと、なんだかんだ中々に濃い立ちポジションにいる

今回ナズナはダイゴとシロナを補佐をしつつ、共に進行役に入る予定である。彼が進行役に入るのも仕方の無い事だ。それだけナズナは重要な存在であり、突入チームの年長者でもあり、渦中の存在として一番にプレッシャーを抱えている

場合によってはナズナは敵側、つまりロケット団側だと思われる可能性だってある。何故ならナズナは元ロケット団、敵側に着いたロケット団団員とかつて密接に関わりがあった。今更無関係だとは言えない。首の皮一枚辛うじて繋がっている状況、とでも言えよう

まぁ流石にゼルにその罪を見過ごされ、会場にいる全員が目を瞑っているし何かあれば擁護するつもりではいるが、果たしてミリはどう判断を下すのか。【聖燐の舞姫】ならまだしも、相手は【盲目の聖蝶姫】―――向こうにしたら【氷の女王】を作らせた元凶でもある

願わくば、慈悲深い判断を

何ごとも無い事を、切に祈るしかない






「………レンの様子はどうだい?」

『…いつもと変わらず、だ。ゴウキ曰く、気の流れも安定しているそうだ。ただ静かに時が来るのを待っている、そんな様子だ』

「そうか…」






そして二人の次に気になるのは、レンの存在

あの決戦の日以降、当然だが二人は全く会えていない。健康診断と精神的状態の結果を聞いただけでそれ以上の情報など、待てど暮らせど入ってこなかった。互いの使命、そして今回の会議の件でミリの情報は置いておくとして。今日までのレンは―――不気味な…否、不思議なくらい凪いでいて

嵐の前の静けさ、という事はまさにこの事だろう。ナズナはそう言って小さくため息を吐いた






『…今日はどうなるか分からない。暴走しなければいいが……』

「そこはレンを信じよう。不安要素は別にして、己を律してきたレンのミリ君を想う気持ちを尊重させよう。それにきっとレンにはレンの思う事でもあるに違いない…私達は静かに見守っていよう」

『いや、まぁ…それはそうなんだが…』

「?」






歯切れの悪いナズナの様子に、意図が読めないカツラは頭を傾げる

ハァ、とまたナズナは今度は大きなため息を吐く。自然とそのポーズはゲンドウポーズに近いものになっていた

ちょっとした沈黙。といっても違和感の感じさせない程度の短い時間だった。何が言いたいんだろうか、カツラは静かに画面に映る親友の声を待つ


そして、ナズナは口を開いた





『…………あの双子の事だ……確実にミリさんを奪い合ってはリアルファイトに入る事間違いないし、百歩譲って妥協するとして目の前で平気で甘い空気にさせてこちらに砂糖吐かせる結果にさせると思うと………シロナさん達に顔向けが出来ない……彼女達は知らないからな…どうしてこうなるまで放置していたんだと…年長者、いや長男の責任を問われそうだ……』

「(………マツバ君に毒されてるなぁ…自分の事を長男……面白いから何も言わないでおこう)」







自分の未来の末路を心配するのではなく、妹と恋人とその兄のあれやそれやの心配をする長男の姿

いや一周回って自分の心配になっているのだが、内容が内容なのでカツラは悩むナズナを前に隠す事せず遠慮なく笑うのだった






* * * * * *









ミオシティの外れにある麓

海の潮の香りがフワリと風に流され鼻を霞む。此所から見渡せる景色はとても綺麗で、ミオシティを一望出来るくらいに

空はまだ晴天だ。時刻はまだ昼にもなっていない。地平線の向こうの海は太陽の光に反射され、とても眩しく見える。今日はずっとミオシティは天気がよい日で終わるだろう






「――――父さん、母さん。来るのが遅くなって悪かった」






もうじき会議があるというのに、

レンは一人、ミオシティの麓にある、共同墓地の霊園内にいた


この霊園はミオシティに暮らすの人達が主に骨を埋める場所であった。たくさんの形様々な墓の中には勿論―――レンの両親が眠る墓があった

墓石にはしっかりとした字で「アルフォンス=イルミール、ここに眠る。享年45歳」「ユリ=イルミール、ここに眠る。享年47歳」と書かれている。花壇にはレンが持参したユリの花―――父が好きだった花であり、また母の名前である花が風に揺られていた。フワリと燻る線香の香りが、レンの鼻をくすぐった


レンは墓石に書かれている名前に触れながら、言葉を続ける






「二人があの日、何があったのか…もうじき答えが見つかりそうだ。だからもう少しだけ待っていてくれ。…安心しろ、無茶な事はしない。必ず、生きて帰ってくる」







レンにとって、シンオウに来て二度目の墓参りとなる。一度目はゴウキによってシンオウに強制送還された後に、「あいつマジふざけんないつか絶対ブっとばす」と愚痴を吐露したあの日。そして二度目の今日は、墓石の前で両親に改めて報告をする事となる

敵の居場所はまだ分からないが、きっと仲間が見つけてくれる。勿論自分でも見つけてみせる。絶対に帰ってくる、そんな決意表明と、心配すんなという両親への言伝

上で見ているかは知らないが、きっと両親なら「完封亡きまで叩き潰してやりなさいッ!めっためたのボッコボコよッ!」「社会的にも抹消させてやりなさい。俺が許す」とサムズアップをしている事だろう。我が両親ながら血の気が多い事だ






「次はミリと一緒に墓参りに行く。俺の大切な人だ………楽しみに、待っていてくれ」






きっと母さんなら喜ぶはずさ、とレンは小さく笑う

自分の母が聖蝶姫とどういう繋がりかは分からないが、聖蝶姫を気に入ったのなら絶対に聖燐の舞姫のミリを気に入るはずだから。今は聖蝶姫になってしまっているが、そんなこと関係なく、絶対に―――



最後に改めてユリの名前をなぞった後、レンは二人の眠る墓から、そして霊園から立ち去った

振り返る事は無かった。レンのピジョンブラットの瞳はまっすぐに空を見上げ、手持ちのプテラを繰り出しすぐに飛び立って行った

大切な人に、会う為に―――
























『――――――今のままでは、お前は奴等の場所に辿り着く事も…聖蝶姫の隣りにすら立てれないぞ、レンガルス』







形のないナニカが、レンを見送っていた






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