此処の生活にも随分馴染んだんじゃないかな、とミリは一人思っていた。送別会を終わらせた辺りから、やけに物事の流れが早過ぎるし状況が飲み込めていない事がありすぎてよく分かっていない事だらけではあるが。有り難い事に、この生活にはなに不自由なく過ごさせてもらっている

今までミリの生活には必ずといっていいほどポケモン達がいて、ポケモン達の補助があって生活出来ていた。勿論自分の能力で事足りるのはあっても、ポケモン達の補助はミリにとってとても有り難い事であり、欠かせないものとなっている。心夢眼が特にいい例である。彼等が居なければ、この盲目の世界に全く光が入ってこなかったのだから



あれよあれよと本部に連れられ、あれよあれよとここに住居を構える事になってからというものの―――ミリの回りには、今度は此処の職員達が必ず居る事になった。盲目の自分が何不自由なく生活出来る様に、と彼女達はミリの手足となり、眼となってくれた。それはそれで助かるのだが、逆に申し訳なさ過ぎて気を遣う。まぁ彼女達もそれが仕事でしっかり別途で給与も支払われると聞いてしまえば、仕事を奪わない為にも有り難く享受するかと思い直す。そうしてミリは彼女達の手を借りつつ、この生活に馴染みつつあった。唯一心夢眼が使えず、光が視えないのはとっっても残念で仕方ないが、まあいいとして

やはりポケモン協会リーグ本部なだけあって、自分の知らない知識が豊富にあり、ミリのテンションをぶち上げた。自分の得た知識はまだまだこれっぽっちでしかなく、世界の広さを痛感した。よく自分これでいてポケモンマスターになれたよねぇ、と若干恥かしい気持ちになりつつも、この魅力的な知識の倉庫の前にミリはすぐに本の虫になった。振り回した職員の人には本当に申し訳ない気持ちでしかない。許して



なんてったって余所の地方には「メガシンカ」とか「Zクリスタル」とか「キョダイマックス」だとか、胸を熱くさせるものがあるわけだから、ミリのテンションはぶち上がるばかりである



ポケモンマスター認定試験ではカロスやアローラ、ガラル地方から来たトレーナーはいて、当然知らないポケモン達もいたけどそんな単語すらなにも出てきていなかった。もし彼等がこの手段を講じていたら、私達もどうなるか分からなかった。何故だろう、とゼルに聞いてみたら「そういうチートを使った勝利など、真のポケモンマスターを求めるこちら側にしたらそんなモノ、意味がありません」とバッサリ否定。清々しいほどのバッサリだった。しかしそれは確かにそうかもしれないとミリはすんなり納得した

ちなみに何故こちらにチート達(メガシンカ・Zパワー・キョダイマックス)の情報が流通されていなかったのかとも聞いてみたら「Zパワーとキョダイマックスはその土地ならではの力で、特別な事が無い限り、そこの地方以外での使用を禁止しています。メガシンカはその限りではありませんが、地方のパワーバランスが崩れるのを阻止する為です」と。これにも納得でしかない。まぁ自分は使う事はないだろう、とミリは頭を切り換えるのだった




―――とまぁそんな感じにミリは本部での生活を有意義に過ごしていた訳だが、






「…皆に、会えるの?」

「はい」






今日も一日中勉強に励み、

仕事を終えたゼルがミリの元へ顔を出し、

職員が立ち去った姿を見たゼルが、開口すぐに言う






「今までお話出来なかった、シンオウでの騒動を含めた話をミリ様にお伝え出来る段取りが出来ました。つきましてその進行役を、彼等に託す事にしました。俺自身が説明出来たらよかったのですが…ご期待に添えず、申し訳ありません」

「ううん、いいの。ゼルの立場だってあるんだし、こちらは問題ないよ」

「………慈悲深きお心、ありがとう御座います。俺がミリ様に説明出来る事は当日に補足しつつ、全て説明させて頂きます」






ゼルの説明を聞きつつ、ミリは静かに驚いていた

皆に、会える

急に降ってきた展開に少々飲み込みにくく、それでも皆に会えるかもしれない話にミリの口元が笑みで緩み始める

数日前に別れたきりで音沙汰が無かった、シロナとダイゴとゴヨウとゲンとデンジとオーバ。勿論あの場所にはアスランもいて、コウダイとジンもいた。確認出来ていないけど―――アルフォンスもきっと違う場所に居るに違いない。そして置いてきてしまった闇夜や、違う場所にいると言っていた蒼華達にも会える。勿論自分が知る他の友人達にも会えるかもしれないと、ミリは嬉しそうに破顔した

目的は今まで触れてこなかったシンオウで起こった事件の話を聞きに行くだけだが、それでも皆に会えるのは一番嬉しい話である

皆に会ったらなにをしようかなぁ〜皆で交わした約束を果たさないとねぇ、とミリは一人くふくふと笑う


しかし、それにゼルは待ったをかける






「…ご友人の再会を望むお気持ちはとても理解出来るところですが……当日は、ポケモンマスターとして彼等の前に立って頂きたい」

「!」

「彼等もそのつもりでミリ様の前に立つ予定です。友人としての顔は、再会の時に。それ以降はポケモンマスターとして、彼等の話を聞いて頂きたい」





そこに立つのは、ポケモン協会リーグ本部の総監の顔で

厳格な雰囲気と重いプレッシャー、ゼルのカシミヤブルーの瞳は鋭い眼光でミリを見つめていて


初めて見せたゼルの総監の一面に驚くミリであったが―――すぐに背筋を正し、雰囲気も厳粛なものへと変えた






「―――いつか、いつかそういう日が来ると、この立場が彼等との壁を作ると…薄々感じていました」

「ミリ様、」

「リチャさんから話を聞いた時から……実際にアスランさんの上としてリーグ大会を開いた時から、覚悟は決めていました」





ミリは座っていたソファーから立ち、眼が視えないなんて嘘の様に滑らかな動きでゼルの前に対峙する






「総監、その話…承知致しました。ポケモンマスターを象徴するブローチを着ける以上、私は私の責務を全うします」






ポケモンマスター

総監の直属の部下であり、全ての地方リーグのトップを超える存在


ポケモンマスターがいる以上、これからはポケモンマスターがリーグ本部の"顔"になる

少しの失態も、けして赦されない

だから――――






「よろしくお願い致します、ミリ様





―――いえ、ポケモンマスターよ」

「御任せを。総監の御心のままに従いましょう」





貴方が求め、

リーグが求めるのなら、

私は私の責務を全うしましょう


ミリは眼前に立つ総監に跪き、胸に手を当て恭しく頭を下げるのだった
















「ちなみにこんな感じにポケモンマスターとして総監の意に従う際に、ホウエン四天王風アレンジをしてみたんだけど…こんな感じでどうかな?」

「全く必要性を感じませんし解釈違いの為、断固拒否致します。
というわけでミリ様、お立ち下さい。そして席に座って下さい」

「あれ!?……うーん、ダメ?ウチ(ホウエン)ではこれが通常だったんだけど……あ、跪く事まではしなかったよ?」

「駄目ですし、嫌です。ホウエンだけですそれしているのは(今は知らんが)。なので先程の行動はこれっきりにして下さい。俺がミリ様に行う事には喜んでやりますが、ミリ様は駄目です。これは譲りません、決定事項です」

「そんなー」

「同じ事をしたらそれこそ貴女の唇を塞ぎます」

「ねえゼルくんそれ職権乱用って言うし脅しとも言えるのはご存じかなぁ!?……………ハッ!」

「…………、へぇ?」

「ヒェ………」

「良いですね、それ。ゼルくん……フッ、良い響きです。貴女様に呼ばれると………ククッ。嗚呼、不思議と、とても心地が良い」

「ひぇ……ノリで返してしまった…あかん…ゼルのスイッチ入っちゃう……!」

「フッ、ミリ様と距離が縮まった感じがしてとても嬉しく思います。他にも俺に、色々な名前でお呼び下さい




…―――さぁ、遠慮なさらずに」

「ほらぁ!!これだから自覚のあるイケメンはッ!きっとイケメンな顔で不敵に笑って私の反応楽しんでいるやつぅ!さっきの総監モード帰ってきてえええ!!!!」

「そこになければないですね」

「そんなぁ!!!!」








(立場が違っても)(皆に会うのは、本当に楽しみだから)



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