世間は相変わらずポケモン凶暴化現象に怯えて暮らしている中、平行して調査の方も進められている。数日前に決行された別名「ポケモン催眠怪電波装置の解除及び【盲目の聖蝶姫奪還】」の成功によりハクタイシティの外れにあるポケモン屋敷―――今はたくさんの関係各所の人間とポケモン達で縦横し、今も彼岸花の本アジトの解明と凶暴化現象の手掛かりになるものを調査を続けていた






総監の執事であるガイルに要約して「貴方達の失態は貴方達で払拭しなさい」と宣言されてから、更に数日が経過した本日

此処は、ポケモン協会シンオウ支部

シロナが構えるチャンピオン室に―――撃沈している数人の姿






「…眠いわ……」

「眠いね………」

「眠いですね…」

「キッツ………」

「ツラァ………」






上から―――チャンピオン席に座ってテーブルにうなだれるシロナ、客間のテーブルにゲンドウポーズをするダイゴ、ソファーに深く腰を掛け頭を抱えるゴヨウ、もうなにもかも投げ出したいとそこにはない宇宙を見上げるデンジに、ソファーに脱力するオーバの姿が

彼等はガイルからの命令とコウダイ達の配慮により、自分達の仕事を後回しにし、チャンピオン室にこもりっぱなしで作業を続けていた

勿論別荘組は相変わらずそこで暮らしている為、変わらないメンツで別荘に戻ってただ寝食するだけの(社畜)生活を繰り返していて。ただでさえミリの存在がいない別荘なんて寒々しいだけなのに、彼等は律義に別荘に帰り、簡素な食事とただ寝るだけの生活。当然しっかり休めていないし栄養は取れてない。今回の件のプレッシャーとか諸々のストレスで彼等の心労はゴリゴリと減っていき、悲しき事に現在に至る

対して―――そんな彼等をどん引きして眺める数名の姿






「これは酷い…」

「お前達、その程度で根を上げるとは情けないぞ。コーヒーを飲めエナドリをキメろ。目を閉じたら死ぬと思え」

「言っている事が鬼畜のそれだぞ落ち着けナズナ」

「ナズナ、いい事教えてやる。お前の思考は社畜っていうんだぜ、知ってたか?」

「知らん」






上から―――食事をテイクアウトしてきたはいいが先程よりも撃沈している彼等の波動に苦笑しているゲン、自身の経験を元につい喝を入れてしまうナズナに、若干ナズナに引いたゴウキに、さらに引いた様子でナズナに進言するレンの姿が

彼等四人の内、三人はリーグの人間ではない為、総監からのプレッシャー諸々の心労は比較的薄い事もありわりと元気である。ちなみに片足突っ込んでいるもう一人は数ヶ月前の北東西南地方リーグ集会と同様に平然としている。こいつマジかよ、と数名に戦慄されている事には本人全く気付いていない






―――さて、まずは話を数日前に戻そう



ガイルの宣告を受けたあの日。ダイゴ達はすぐさま突入チーム全員に事の顛末を説明する為に、シロナが構えるチャンピオン室にリーグ関係者関係なく全員を至急集合させた。チャンピオン室にしたのは彼岸花にいつ情報が漏れるか分からない故に、情報漏洩防止の為である。勿論内容が内容の為、徹底的にチャンピオン室近くには人払いがされている。別荘でもよかったが、あそこは既に敵に襲撃されているから選択肢にはなかった

突然チャンピオン室に呼ばれたデンジとオーバとゴウキ、そして外部の人間であるナズナとレンとゲン。なんだなんだと連れてこられ、全員揃った所でダイゴから事の顛末を聞くことなる。反応は、想像に容易い。各々反応は様々だったが、この場にいる全員が思っただろう。「アイツ都合いい理由で一番嫌な仕事をこっちに押し付けやがって」と

いやどう考えても一番嫌な仕事だろふざけんな!と悪態を吐いたのはデンジである。元々ミリには六年前のあれやそれの話を聞き出す予定ではいたが―――それは友人として聞くだけであってこんな、記憶を失った人に全てを容赦なく伝えろだなんて。せめて時間を置け時間をよぉ!と叫ぶのはオーバである

しかし正直な話、捜査の進捗は悪いと言えよう。あの突入した日から幾日経過していても未だ彼岸花の本部の居場所は掴めていない。確かに当事者で被害者のミリに色々と話を聞きたいのは分かる。分かるが、そういう仕事は本来もっと別の形でやるべきなのではないのか、と不満が募るしかなく

アイツは何を考えているんだ。そういう悪態を吐いた先にたどり着くのは―――双子であるレンに向けられ、

その件に関して当の本人はこう反論を返した





「そもそも俺達はガキの頃に生き別れてんだ、今更アイツの思考回路なんざ把握出来るわけねーだろうが。むしろ一緒にしてくれるな。お偉い様の考えている事なんて俺ら凡人に分かるかよ」





もはやレンの中でゼルは他人で、自分の知るゼルの一部を持った別のナニカだと思っている。まぁそれは彼等の認識の問題であり、他人から見ると瞳の色と好みの違いだけでそのままザ・双子なのだが、それは置いといて

そんなプチ騒動を終わらせた彼等はすぐに行動する事になる。すぐさまナズナを通じてカツラ達と連絡をとり事の顛末を説明して驚かせ、彼等が調べあの時発表した『【盲目の聖蝶姫】に関する全て』の資料を拝借した上で、さらに自分達で今回の騒動の資料を纏め上げる

こうして出来上がったのが目の前の惨事である。お疲れ様でした



―――それでは、話を今に戻そう






「…………ミリの歓迎会をする前に、こういう事になるなんて、ね……」

「本部が何処までミリさんに伝えているかによりますが……ミリさんにとっては酷な話になるのは間違いありませんからね…」

「…ミリ、変に責任抱えなければいいけどな………」

「だな。アイツは…律義な奴だし、責任感強いからな…」

「しかし僕らはミリに説明しなきゃいけない責任がある。…他人が説明してミリを傷付けるくらいなら、僕らがしっかり説明ないとね…」

「……そうだな」

「「「…………」」」





ポロポロと、彼等は思いのたけを口にする。ちなみにこの会話は何回もされているが、疲労困憊になってる彼等にその判断は出来ていない。まぁそのおかげもあって互いの認識を確認しあえているので、残っているのは「ミリに会いたい」という気持ちのみ。そのひたむきな気持ちのみが彼等をなんとか繋げさせていた

腹が減っては思考が纏まらない。とりあえずご飯にしよう、とテイクアウトしてきたゲンが袋を掲げて苦笑を零した。力のない返事が返されつつ、各々ゲンからご飯を受け取ろうとした

―――のだが、





「あー……ミリの飯が食いたい……アイツの手料理がマジで恋しい…またあのカレー食いてぇ…」

「それなー」







「……………、あ゛?」





デンジの小さい呟きに、隣にいたオーバがいつものノリで力なく返事を返す

まぁ、その言葉を聞き逃すわけもなく。一人の男が反応する事になる

勿論デンジの呟きは普通に他の者達にも聞こえていたわけで。沈黙かつ疲労でいっぱいだったチャンピオン室内は、いつも通りミリの話題へと移行されていく





「そういえばミリさんは料理が作れたそうですね。シロナさんから分けて頂いた時のおかずはとても美味しかった。羨ましいです、皆さんはあの美味しい手料理を毎日食べていたのでしょう?」

「そうだね。盲目だったから、というのもあって料理が出来ないとばかりに思っていたから正直意外だったよ」

「しかし味はとても美味しかった。怪我しないかヒヤヒヤしたものだが、手際良く作っているのだからすごいものだ」

「胃袋を掴まれた、ってやつだよなぁ。俺もう自分で料理したくねぇ…もうカップラーメンに戻れねぇ……」

「あー……カレー食いてぇ……」

「将来もしあのクオリティを求められたら…無理よ無理!絶対に無理!わたしはもう作らないでずっとミリの手料理で育っていきたいわ。わたしがミリを養うの!」

「ミリの地位の事を考えたらむしろ養われる側なんじゃないか…?とりあえず今日もこれで我慢してくれよ」


「「「………」」」






楽しげに会話する彼等の横には、不機嫌そうに形の良い眉を顰める一人の男

残りの二人?彼等は機嫌が急降下する男の様子に「地雷踏まれたな」「気持ちは分かるが俺は知らんぞ」と目線で会話していた






「そうなると恋人のレンさんはミリさんの手料理はもう経験済みでしょう。レンさんの中で一番美味しかった料理ってなんでしたか?」






レンの地雷をさらに踏む男、ゴヨウ

元々別荘組ではないからか、単純に知的好奇心からか、それか別荘組とのいざこざを知らないからか。気軽にゴヨウはレンに聞いてしまう。回りの空気が何処かピシリと固まった事に気付かないで

ゴヨウに質問されたレンは―――不機嫌な態度はそのままに、しかしニヤリと口角を上げる

誰が教えてやるかよ、そう胸の内で悪態を吐きながら






「……………そうだなァ。思い出せば色々あるが………ま、それは俺の心の内にでも秘めさせておくぜ」

「おや、それは残念です」

「おいおい、ノリ悪いなー。いいじゃねーか教えてくれたって!お前はかなりの数食ってるかもしれねーがこっちは二週間しか食えてねーの!」

「二週間三食毎日食えていたら十分過ぎるだろそれ。自慢か?俺への当てつけか?喧嘩売ってるなら買うぞ?」

「へぇ、その様子だとそんなにミリの手料理が食べれなかったってやつか。………ハハッ、ざまぁ!」

「よーしデンジ今からバトルしねーか勿論リアルファイトでなッ!!!!」

「かかってこいや返り討ちにしてやんよッ!!!!」

「やめとけやめとけ倍返しされんぞ引きこもりが無理すんな」

「君達戦うのはいいけど外でやってくれよ」

「ミリの事になると本当に気が合うわね〜」







ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい…







「実際のところどうなんですか?」

「………俺達【三強】で一ヶ月旅していた時はセンターの食事が主で、作るとしたら交代制、一時期舞姫が体調を崩した際は専ら白皇が料理していたらしい」

「最後くらいじゃないか?ミリさんの手料理が三食毎日食べれたのは。俺としても彼女の手料理には随分助けられたが……それでも回数になってしまうと少ない方じゃないか?」

「おやおや」

「そうか。それはさぞ白皇も悔しい気持ちだろうな。愛しい者の手料理を食べるどころか、他人が先に食べているとなったら…独占欲の強い奴だ、黙ってはいないだろう」

「忘れていると思うから言っておくがそもそもの元凶はお前だぞ、ゴウキ」











ちなみに二人は平和に腕相撲で勝負をしていた







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