「んむむ………ゼル、こういうのは他の人達がいる場所ではやっちゃだめだよ?もしかしたら相手がゼルにナルシストだったりチャラい男って印象を持たせちゃう可能性があるんだからね」 「ミリ様以外の印象など俺にしたらどうでもいいです」 「また開き直っちゃって…!」 「しかし他の人間達(※ここの職員)の前では示しがつかないのは事実。前々から控えてはいますが…ミリ様が回りを気にして俺の気持ちが届かないとなれば、考える必要がありますが……」 「うんうん、分かってくれるのならよかったよかった」 「他の人間(※職員)が居なければいい、ですよね?なら今は……問題ありませんね」 「おっと…?」 「いいわね…推しと推しの仲睦まじい姿……イケメンと美女の絡み…薄い本が量産されそうな神々しい光景……んはー、いいわ…」 「心が潤っていく…荒んだ私の心が満たされていく…とっても気持ちがハッピーしていくぅ……」 「総監頑張って…超頑張って……ミリ様とゴールインして挙式のウエディングドレス作らせてェェ…」 「ホァ…美女の慌てる姿は目の保養…もっとやって」 影ではバレてるし応援されていた ―――――――― ――――― ―― コポポポポ… コポポポポ… 緑色に妖しく光る、三つの液体回復保管機 その中に眠る、三体のポケモン 「未だ目が覚めない、か……」 ミリが行方不明になり、ボールの中から救出されてから ミリが救出され幾日も経過しているのに関わらず 彼女の頼もしい手持ち達は、未だに目を覚まさない 「サカキ、君もここに来ていたのか」 「カツラか…」 「私もよくここにくるから分かるとも。身体の治療は済んでいるから後は目覚めるだけ、とはいえ…」 「あの日から随分経っている。…そろそろ目を覚ましてもいいはずだ」 水色のスイクン、蒼華 紅色のセレビィ、時杜 緑色のミュウツー、刹那 戦闘不能、当たり所が悪ければ最悪な結果にもなっていたくらいの重傷を負っていた三匹。カツラの言う通り、傷は既に完治していて、後は目を覚ますだけなのに 彼等は全く、ピクリとも反応しない 「……人の記憶とは、簡単に無くなるものなのか。あの日から自問自答をしていたが…やはり答えは出ん」 「…………」 「彼岸花による精神的ショックを与えられたのか、それとも別に外的要因があったのか……答えは闇の中というわけだ。奴等には都合の良い事だろう。胸糞悪い」 「……そうだね」 刹那が入る保管機を見上げながら、サカキは言う 人の記憶はそう簡単に無くなる、なんて事、普通は誰も考えない。病気だったり事故だったり様々な要因があるのは別にして まだまだ若く、精神力の強いミリだからこそ。だからこそ、そのミリの記憶を失うほどの仕打ちをした彼岸花に業腹な気持ちでしかない 時杜の保管機を見上げていたカツラは、刹那の保管機を見上げる 「刹那だけでも目が覚めてくれたら…テレパシーで事の真相が分かるだろうに……」 かつて手持ちにいたミュウツーの同胞 親友の細胞を分け与え そして、今はミリの手持ちとして腕を奮っていた存在 唯一ミリの手持ちでテレパシーが使える貴重な存在でもあった刹那。テレパシーが使える存在はとても貴重で、知能がすこぶる高く、心を開いてくれなければ通じ合う事は出来ない 彼なら、事の顛末を全て語ってくれただろうに 「………コイツ等も、記憶喪失になっていたら……それこそ真相は闇の中だな」 「え?………え、待ってくれサカキ、それは流石に…!」 「フッ、独り言だ。…流石に俺もその可能性は潰したい」 「…独り言に止どめて置いてくれ。これが皆に聞かれたら…ショックがあまりにも大き過ぎる」 ミリが記憶を失って、 この三匹も失ってしまったら―――嗚呼、なんて残酷な話なのだろう 三匹まで記憶を失ってしまっていたら レン達は勿論―――あの子達は、どうなってしまうというんだ 「万が一そうなってしまい、アイツが【盲目の聖蝶姫】として俺の前に立ったのなら―――覚悟はとうに決めている」 「!!」 「潔く、罪の鎖とやらを受けてやろう」 六年前、自分がアポロを強く制していれば 大切な娘があんな目に遭う事はなかった サカキは一人覚悟を決めていた。ナズナ達からミリが記憶を失った話を聞いたあの時から―――【盲目の聖蝶姫】ひいては【氷の女王】として自身の前に立つ事があったら、潔く己の首を差し出す覚悟を決めていたのだ 全て自分の責任だ。当時ミリの記憶が忘却されていようが、それは結果論でしかく言い訳だ。言い訳でしかないのだ ミリの言われるままに従おう。闇夜のダークライのダークホールをその身で受けるのもよし、ミリとの縁を切るのもよし それでミリの気が晴れるのなら、自分はなんでもしよう 「…その時は私も受けよう。ロケット団に入っていた事が、罪だというのなら。ナズナの分も含めて、ね」 君一人だけ責任を背負わせないよ、とカツラはサカキの背を軽く叩いた まさかそう返してくるとは思わなかったサカキは小さく驚いてカツラを見返した 「……………、俺は止めないぞ」 「あぁ、勝手にさせてもらおう」 「……親友想いの友を得て、アイツも幸せ者だな」 「ハハッ、なら部下想いの上司を得てナズナは幸せ者だ」 二人は小さく笑った → |