「うーん……」

「…やはり、手持ちのポケモンがいないと不便ですよね」

「……今までずっと皆と一緒だったから、少し。普段も皆の手を借りていたから…ゼルや此処の皆さんの手を煩わせてしまうのがちょーっと…」

「…お優しいミリ様の事です、そう思われるのも無理はありません。ですがご安心下さい、全く問題ありません。ポケモンマスターを支える、それが彼等の仕事。何処に出しても有能な人材です。彼等をこき使ってやって下さい」

「…お世話になります」

「本来でしたらミリ様の身の回りのサポートは俺だけでいいものを……」

「…ん??」

「もういっそガイルに全て任せてミリ様のお世話に専念してぇ…………仕事なんて知らねぇ………ミリ様しか勝たん…………」

「なんて????」






落ち着け


―――――――
―――――
――







かくして―――ハクタイシティ外れのポケモン屋敷にて起こった事件を解決に導いた彼等突入チーム達

シンオウを恐怖へ陥れた怪電波の内の一つ、「催眠怪電波」を停止させる事に成功し、さらに水面下で探されていたポケモンマスターであるミリの救出に成功した彼等。彼等の活躍は多方面から祝福され、その無事を喜ばれた。そして一つでも脅威を取り除いてくれたその偉業は、生涯忘れられる事はないだろう

これが世間に公に出来ていたら、彼等の活躍は大いに認められ、シンオウの英雄と呼ばれていただろうに

しかし彼等にはそんな事はどうだってよかった。名声なんて要らない。シンオウの英雄だと言われたところで、彼等には当然自覚なんてない。シンオウの最大の敵である「彼岸花」を壊滅させる為は勿論だが―――瞼の裏に浮かぶのは、大切な女の笑顔。彼女を取り戻す為ならどんな困難でさえ立ち向かう覚悟があった。そう、たとえ敵の罠だと分かっていても




今日、あの屋敷の地下で起こったミリの偉業は関係各所全員に伏せられている。赤い亀裂から顔を覗かせたパルキアの手により、大量のポケモンが戦闘不能の状態で現われた事実の真相を知らない

青い亀裂から顔を覗かせたディアルガの手によって、怪電波装置の時を戻し過ぎて存在が抹消されてしまった事で怪電波装置を確保出来なかった理由を知らない

全てミリが二匹にお願いし、二匹が嬉しそうに了承し、実行した事を、知らない―――




知らないままの方がいい。あまりにも規格外過ぎる話だ。この事を公にでもしてみろ、せっかく無事に帰ってきてくれたミリに、よからぬ魔の手が降り注ぐ可能性があまりにも高い。ゼルがミリに苦言を申した理由にもまた他言無用とした事には納得が出来る

あの事はあの場にいた自分達の秘密にしよう、ミリを守る為にも。誰も口には出さなかったが、全員が同じ気持ちだった










――――さて。お話はここまでにして、次の話に移ろう





場面が変わり此処はテンガンザンの近く、ナズナとゴウキの実家がある豪邸の中

ナズナの部屋にあるモニター画面に映るのは、四人の顔





『―――無事に帰って来てくれた代償が、あまりにも大きいものだったとは……』

『ッ…ァアアァ……そんな…ミリちゃん…!』

『…ッ、こんな結末…誰も望んではいない…!』

『彼岸花…奴等、よほどこのサカキを怒らせたいらしい…!』





苦渋の表情を浮かべるのはカツラ、ショックを隠し切れない表情を浮かべるマツバと拳を強く握るミナキに、怒りを露にするサカキの姿

その四人に対応していたのは、渦中の突入チームであるナズナとゴウキとレンの姿があった




屋敷から戻り、各々役目を終わらせた三人。時間はとうに夜を迎えていた。無事帰ってこれた三人は疲労した身体を休める事なく、すぐにふたごじまにいるカツラ達に連絡を入れた。四人はかなり待っていたらしく、まずは無事に帰ってきた三人に安堵し、労いの言葉をかけた

そして四人は早々に事の顛末を聞くことになる

一緒にいたはずの白亜と黒恋が帰ってこなかった、まさか敵の本拠地にいつの間にか行っていた事には初手でかなり驚かされた。どうやって、と。夜になっても帰ってこなかったから全員で捜索していたからただただ驚くしかない。ひとまず無事ならそれでいい、今はアスランの元へ静養しその後こちらに戻って来るならそれはそれで構わない

しかし問題なのはここからだった

ハクタイシティ外れのポケモン屋敷の中での出来事。睡眠怪電波の影響を受けないで活動する凶暴ポケモン達、ミリを襲った偽レンの正体、ゼルジースという総監の登場、ロケット団の末路―――流石に屋敷から出る際の詳細は省くも、これだけ聞けば屋敷の中は想像を絶するほど濃厚な事が起こっていたのは間違ないだろう

しかしやはり、この情報を超えるものはないだろう





―――ミリの記憶が、失ってしまっていたという事を




【聖燐の舞姫】から、【盲目の聖蝶姫】へ

記憶を失っていたミリはまた聖燐の舞姫の記憶を失い、その代償として盲目の聖蝶姫の記憶を取り戻した

大切な存在―――白亜と黒恋の記憶すら、取り零して

当然三人の記憶すらミリは覚えていなかった。記憶の欠片を探す旅に出るキッカケを作ったナズナの存在も、コロシアムで戦いそして【三強】の仲間だったゴウキの名前も、【三強】の一人でミリの恋人だったレンの事すらも―――




彼等三人がミリの説明に入った時、表情がかなり暗くなっていたのは気付いていた。三人は冷静に物事に対応する性格の為、仕事だったり役目を前にあまり表情に出る事はしてこなかった。きっと相手が心開く者達だったからだろう、三人の表情が、暗くて悲痛のモノを浮かべていた事を。生きていた事は嬉しい話なのに、何故、こんなにも悲しいのか

四人は愕然とするしかなかった





『…一番辛いのは君達だ。心中痛いくらい察する。特にレン………大丈夫か?』

「…あぁ、まあな」

「「…………」」

『…少しは休めたかい?』

「いや、まだまだやる事があるからな…」

「…暫く徹夜は覚悟している」





三人の戦いはこれで終わるわけがない。課題は山積みだ。他の者達は未だ現場に残って作業をしているところだってあるのだ

自分達は突入チームという活躍してきた身として、帰宅を、静養を許されただけ。朝を迎えれば、自分達も身を粉にして動く事になる。自分達の出来る事を、その役目を、果たさねばならないのだから





「衝撃的な話を聞かされて気持ちが追いつかないと思うが……お前達も、ゆっくり休んでくれ」

「また何かあったら連絡を入れます」

『あぁ、待っているぞ…お前達』

『そっちもしっかり寝るんだぞ。寝不足は大敵だからな』

『こちらの事は任せて、ゆっくり休むんだよ』

『…ごめん、ちょっと最後だけ言わせてほしい』





モニターを消そうとした時、

マツバの制止の声が入る





『レン』

「………マツバ」

『何があったかは分からないけど、レン…気を確かに。君の抱えるソレは、君に似合わないモノだし…過ぎたるものだ。…ミリちゃんを、悲しませないでね』

「……あぁ、分かっている」







レン、僕には視える

君の心には強い憎しみが渦巻いている事を



ご両親が亡くなった原因が彼岸花だと解った事も大きなキッカケかもしれない。…それは理解出来るよ。誰だって大切な家族を殺されて、原因が別にいたとなったらそうなってしまうさ

けれど、さらに拍車を掛けたのがミリちゃんの存在だ。ミリちゃんに忘れられた事、危害を加えた相手が、その原因が同じ敵だと知って…さらなる憎しみの増幅に繋がっている

けして間違った選択を選ばないでくれ。選んでしまった末路など、友として、視たくない



―――レンのご両親も、ミリちゃんだって、きっとその選択肢は望んでいないはずだから







「落ち着いたらさ、皆を僕の家に招待するよ。そしてエンジュシティの紅葉の木の下で一緒にピクニックでもしよう。ミリちゃんが気に入っていた場所を紹介するよ。中々いいところだよ?シルバー君も誘ってさ、家族勢揃いで一緒に楽しもう。きっと、もっと楽しくなるはずさ―――」











嗚呼、視えるのに何も出来ない自分がこんなにも不甲斐ない







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