ミリがゼル達と共にシンオウを去ってからそんなに時間が経っていない頃。彼等はアスラン達に会う為に別れたミリを見送った後、疲弊したポケモンは勿論傷付いた己の身体の手当てを受けつつ、自分達の課せられた仕事に取り掛かっていた

なんせ最後の最後にミリのお陰で命を救われたようなもの。自分達が助けにいったのに逆に助けられるとはこれ如何に。彼女の貢献に報いる為にも、こんなところで休んでいる場合ではない。突入チーム達は各々チームに別れて現場を走る事となる





「…ディアルガの時を止め、時を戻す力―――まさか時を戻し過ぎて発電機そのものが消えてしまうとは……」





怪電波解析チーム、ナズナとダイゴとゴヨウ。彼等はまた訪れていた。自分達を閉じ込めたあのフロアに―――突入した奴等の敵本陣の、怪電波装置が設置されていた場所へ

催眠怪電波が止まっていればリーグ関係者や警察、救助隊の人も臆する事なく突入出来る。彼等を引き連れて再度訪れたその場所には―――まさかだった。まさか発電機が、存在していなかったとは誰が思うか





「仕方がありません。ポケモンの、神話のポケモンに加減を伝えるなんて無理な話でしょう…今でも信じられませんが」

「…流石のミリもこうなってしまうとは想像してなかっただろうね」





嗚呼、今でも脳裏を焼き付いて離れない

あの時の光景を、あの時の偉業を


青色の亀裂からこちらを覗く、時の神を






「…今回で学ばせてもらったよ…時を巻き戻しし過ぎると、存在が消えてしまうということを」






忽然と消えた発電機

このシンオウに脅威を震わせた、怪電波装置。あんなに存在感のあった発電機の場所は、確かにナニカがそこに鎮座していた

鎮座していたのはしっかり記憶していたが、消えてしまった発電機に三人は大いに動揺した。そんなはずはない、確かに自分達はこの場に立ち、触れていたのだから。総監自ら箝口令を敷いた以上、共に突入した救助隊や警察機動隊に事態の真相を説明出来ずにいたのだった





「発電機が残っていたら奴等の本拠地がすぐにでも特定出来たが…事実証拠も失ってしまった以上、この事件は長丁場になるだろう」

「ナズナさん、」

「やはりあの時、ミリさんの声に手を止めずに俺の手で決着を着けるべきだったか……クソッ」

「…結果どうであれ、私達は皆命あって帰って来る事が出来た。…あまり思い詰めないで下さい、ナズナさん」

「そうさ、今は出来る事をやろう。ナズナさんまでとはいかないけど、僕らも怪電波解除チームの一員として力を尽くすさ」

「えぇ」

「…感謝する」





――――あくまでも予想だが、ミリは「アポロが踏みつぶして移行した主導権が本拠地に行く前までの状態に時を戻してほしい」とお願いしたのだろう。しかしそこまでディアルガが意図を汲んで能力を発動出来きたかと言われたら答えはノー。始めから状況を把握していたら話は違っていたかもしれない―――と三人は静かに考察をし、自己完結とした

実際のところ。ディアルガはミリに頼ってもらった事が嬉しかったのか、張り切りすぎて時を戻し過ぎてしまったのだが

その真実を知る者は、残念ながらいない



違う場所では―――






「――――……お手上げだわ。つくづくポケモンマスターって名ばかりじゃないって事がよく分かったわ。…笑っちゃう。結果あの子に私達すら命を救ってもらっただなんて、ランスが目を覚ましたらどんな顔をするか」






ここは警察関係者が拠点にしていた簡易テントの中。苦虫を噛んだ様子で零すのは、ロケット団の中で唯一意識のあるアテナだけ

特攻チームであるゴウキとゲンとオーバ。彼等は捕虜であるロケット団を囚人護送準備までの間の監視役としてその場に鎮座していた

数台ある簡易ベットに眠るのは、ガイルの手によって伸されたアポロとランスとラムダの姿。あれから時間が経っているにも関わらず、三人は未だに目覚める気配はない。あの炎の中で一体どんな仕打ちを受けたのか、末恐ろしいものだ

しかしある意味三人は幸運だった。全てが眠っている間に起きたのだから。幸運だったが、果たして目覚めた時はどんな反応を示すのか―――簡単に想像出来る結果に、アテナはただただ悪態を吐き捨てるしかない





「…お前にはこのまま署に連行され、色々と吐いてもらう事になる。諦めて全ての情報を包み隠さず伝える事だ」

「…分かっているわ。引き際はキッチリ着ける。それに私達はアイツらの口車に乗せられ、使い潰されて殺されかけているのよ!―――自白するには十分な理由よ、恩は全く感じてない」

「「………」」

「…奴等はロケット団よりも残忍よ。せいぜい気を付ける事ね」





そう言ってアテナは嘲笑う

最後の捨て台詞にしてはやけに感情の籠った声色。同盟仲間だったからこそ嫌でも理解する敵の残虐性。アンタ達がどうなっていくか見物だわ、と言うアテナのまなざしは今後の展開に同情しているかのようで


そして彼等四人は囚人護送車に乗せられ、ゴウキ達の前から姿を消すのであった





「……俺達突入チームの役目はこれで終了だ。残りの時間は他の者の手助けに入るぞ」

「おう」

「あぁ」





―――これにて本当にロケット団は表舞台から退く事となる

とても呆気ない、短い復活だった

嗚呼、自分達が掲げていたロケット団復興は勿論、首領サカキ本人が自分達の成果を無に期す結果にさせたキッカケを作ったと知ったら、どんな気持ちになるのだろう



また別の場所では―――







「――――ミリの事なら先程、ジン副幹部長から話は聞いたわ。ミリ、行っちゃったみたいね」

「あぁ」






此処はポケモン救助隊が本部の近くに拠点を構える場所。ミリ救出チームであるシロナ、デンジ、レンは救助隊の手助けに加わっていた

突如赤色の亀裂から現われたポケモン達が一時的に集まり、救助隊によって応急処置を施されている最中。戦闘不能で運び込まれたポケモン達の数を見て救助隊はさぞかし驚いた事だろう。数が圧倒的に多過ぎるし、損傷が酷い。それだけ過酷なバトルを繰り広げらたのだろう。一体中で何があったのか、想像するだけで恐ろしいと一部の隊員は言う。まだ救いなのは戦闘不能のポケモン達がまだ生きているという事。早急にポケモンセンターに治療を施してあげなければ、と搬送の手続きが急がれた






「チッ、自分の権力振りかざしてまともにミリと会話させる間もなく行きやがって…」

「本来私達とミリの立場の差は歴然だもの…仕方無いといえば仕方無いわ。今はミリにしっかり休んでもらわないと。…落ち着いたら話、色々と聞かないとね」

「……だな」

「………」





自分達は立場が違う。この業界に入っていれば自ずと理解する。自分達の知るミリは、遠い存在になってしまったと。今回はさらに物理的に突き付けられたのもあるが、結果は変わらない

きっとミリと別れる前までが、ただの友として接せれた貴重な時間だったのは間違ない。ミリの容態が落ち着いて改めて対面したその時は―――自分達は、友ではない。親友では、ない…

とまぁ頭では理解しているが、それはそれこれはこれ。ミリには色々説明をしていただかないと。七年前、シンオウを発って別れたその後の話を。ミリが一人で抱え、一人闇に葬った、諸々の話を


不意にシロナの金色の瞳が、鋭くレンに向けられた





「―――レンガルス、今の内に言っておくわ。さっきのあなた…ミリに対して、色々と危なかったわよ。ミリ、すっごく戸惑っていたのは流石に分かっているわよね?あれっきりにして頂戴、目に余るわ」

「………」

「…忘れられた気持ちは、痛いくらいによく分かる。数ヶ月前の私達も同じ気持ちだったから…悲しくて、辛くて、信じたくない気持ちは誰だって一緒よ。立場が逆転したとしても関係ないわ」






「あわわ」

「なぁ、ミリ、嘘だと言ってくれ。本当に、本当に覚えてないのか?俺の事、分かるか?頼む、頼むから忘れたって言ってくれるな。なんでだよ、やっと再会出来たのに―――なんでこうなっちまうんだよ!」

「はわわ」

「一体何があったんだ?アイツ等か?アイツ等『彼岸花』がお前に何かしたのか?…そうだよな、そうじゃなければお前がこんなにボロボロになってないよな。寒かっただろ、痛かっただろ…大丈夫だ。俺がアイツ等を、絶対に―――殺してやるから」

「―――ッ!」

「「「レン!!!」」」






「…かといってミリに無理強いやら強要させて嫌な気持ちにさせるのはお門違い。俺からも言わせてもらえば、あの時お前が言った台詞をそのまんまお返ししてやる。『ミリを悲しませたら許さない』ってな」

「………」

「…さて、と。デンジが最後代弁してくれたから、この話はここで終わり!気持ちを切り替えて私達は応急処置に戻りましょう。まだまだポケモン達はたくさんいるのだからね」

「おー」

「………」







怯え、強張るミリの身体

他人行儀に呼ぶ、レンの名前

―――愛しい恋人から向けられる、警戒の色を含ませた瞳の光






「そんな事…分かっている」









頭では分かっている

けれど心が現実を拒絶しているのだ








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