嗚呼、聞こえる

嗚呼、呼ばれた


我等を求める声が、

我等を導く声が、

今確かに、しかと我等の耳に届いた







さぁ、出番だ



―――――――――
―――――
――








青色と赤色の亀裂

二つの裂けた空間から轟く咆哮

生身の生命には酷な程の、拷問レベルのプレッシャー


二つの空間から、ゆっくりと現われる―――二つの存在






「ッミリ様…貴女って方は!本当に素晴らしい!!貴女こそ真のポケモンマスター!誰もが出来ない偉業を成せる御方!!嗚呼、まさか、まさかだ!





まさかシンオウの神々である―――ディアルガとパルキアを、呼び寄せてくれるなんて!」






青色の空間から現われるのは―――時空を司る神、名をディアルガ

赤色の空間から現われるのは―――空間を司る神、名をパルキア



古よりシンオウ地方の神話として登場する、本来出会えるはずのない存在が、ゆっくりとその姿を露わにする

…といってもフロアの問題か、頭から首までしか出せれていないのが残念だが。しかし頭部のみとはいえ、逆によかったのかもしれない。ここまでの強いプレッシャーは、人間はともかく倒れているポケモン達にはあまりにも酷なのだから





「―――久し振りだね、会えて嬉しいよ」

「ギャァアッ」
「ぱるるるっ」

「さっそく力を貸してくれてありがとう。このお礼は後日、色々片付いたら改めてお返しするね。美味しいきのみのタルト、楽しみにしててね」

「ギャァアッ!」
「ぱるるるっ!」

「それじゃこのまま永久にはこの場の時間を止めてもらいつつ、あの発電機の時を巻き戻してあげて。久遠はこの敷地内にいるポケモン達や私達を地上に戻れる様に空間を繋げて。ひとまず優先すべきは倒れているポケモン達をお願い。それと―――…」





酷過ぎるプレッシャーなど関係ないとばかりに、ミリは呑気かつ嬉しそうに声を掛ける

目の前に広がる亀裂からひょっこり顔を出した―――ディアルガとパルキアに向けて

気のせいじゃなければディアルガを"永久"、パルキアを"久遠"と名付けていなかったか?と誰もがギョッとする新事実を前に、それこそ関係ないとばかりにミリは再会を喜びつつ、慣れた様子で二匹に命令を下す。二匹も二匹で目をニコニコさせながら惜しみ無く能力を披露しているから開いた口が塞がらない

ミリの命令の内容が間違いなければ、ディアルガによってこのフロアの時が止まっているらしい。目を凝らすと確かにフロア一帯に青色のオーラが波打っている様子が伺える。しかも自分達を恐怖に陥れた時限爆弾も止まっているから驚きだ。さらには発電機の時を巻き戻すときた。確かに発電機の巻き戻しが可能なら、アポロによって奪われた主導権が取り戻せるかもしれない。そうすれば、敵の本拠地が判明してくれるはず

パルキアの力によってフロアの至る所に赤色に輝く空間の亀裂が現れ、倒れているポケモン達がゆっくりと回収されていくのが目に入った。この調子なら上のフロアのポケモン達も無事に回収されるだろう。ただ、何処に空間が繋がれるかは知らないが、突然現われたポケモン達に外に控えるリーグや警察等関係各所が驚かなければいいが

彼等を包むのは赤色の光。赤色の光はバリア…否、結界として彼等の回りの空間を閉じ込めた。きっとこのまま自分達はこの結界ごと宙に浮かされ、地上に輸送されるのだろう―――と、もはや他人事の様に眺めるしかなく






「「「「…………」」」」





目の前に繰り広げられている偉業を前に

取り残されている、約九名の人間達





「あー俺ら…生きてる?」

「生きてんな……これは夢か?」

「まさか生きてる内に神話の二匹と対面出来る日が来るなんて……」

「これ、ポケモンマスターだからって済むレベルではありませんよ……!」

「またあの二匹を見れる日がくるなんて…しかもミリにすごく懐いているなんて…ああああ考古学者として興奮したいのにそれが出来ない状況にすっごくもやもやするわ…!」

「これは…報告するにも出来ないね…まぁ最終報告先の総監が此処にいてくれたからまだいいけど…ミリってやっぱりすごいんだね…」





目の前の光景が信じられなくてもはや遠い目をするオーバとデンジ、二匹のプレッシャーにビビるゲン、ミリの偉業に戦慄するゴヨウ、興奮したいのに出来ない状況に地団太を踏むシロナに、改めてミリの存在の凄さを噛み締めるダイゴ

ミリはポケモンマスターだとは当然知ってはいた。知ってはいたが、まさかだった。まさか呼び掛けただけで神であるポケモンを呼び寄せてくれたなんて。ポケモンマスターの力の一端を見せつけられた彼等はもはや戦慄するしかない

この件をもって、彼等は知る事になった

自分達の焦がれた存在が―――こんなにも、こんなにも遠い存在になってしまっていたんだと





「…つくづくなんでもアリかよ、ミリのやつ」

「……空間移動は慣れているとはいえ、さらに予想を超える事をしてくれるとは思わなかった」

「……科学者でありハッカーとして時限爆弾を解除出来なかった事を惜しむべきか、目の前に見た神話のポケモンに考古学者として喜ぶべきか……。つくづくミリさんには驚かされる…」





信じてはいたけどここまでしろとは言ってないと遠い目をするレンと、親父が生きていたらどんな反応をしていたかと現実逃避をしだすゴウキに、自分のプライドの中で葛藤するナズナ

三人は時杜の存在を知っているだけあって、目の前の光景はすんなりと受け入れた。受け入れたが、まさか時杜の変わりに上位互換の存在を呼び寄せるとは誰が思うか。もはや乾いた笑いしか出てこなかった

そして三人もこの時点で痛感する事になる

自分達の知るミリは、この時点で既に遠い存在になってしまっていたんだと










「―――ミリ様、助かりました。流石の俺でもナズナが解除に失敗した場合の手段が僅かのものでしかありませんでした。貴女様の采配に、多大なる感謝を。…全ての命を救う事は叶わなかったでしょう」





九人の心中はさておき、この状況下でも臆する事なくミリの傍に近付いたのはゼルだった

後ろにガイルを従えたゼルはミリを後ろから包み込む様に腰に手を置き、その華奢な手を掬い上げ手の甲に口付けを落とす。さらっと皆の輪の中から離れ、しかもあのパルキアの結界から抜け出してきたゼルに小さく驚くミリだったが、「お役に立てたのなら、よかった」と微笑んだ





「…しかし。総監として言わせて頂くのであれば、その能力を独断で振るう事は今回限りにして頂きたい。今回は少人数で済みましたが…いくらポケモンマスターとはいえ貴女の能力は我々の予想を遥かに超えたレベル。本来本部の内部機密に相当する…―――俺も今目の前にして、貴女の存在の危うさを思い知ったと言ってもいい」

「!……」

「…貴女を守る為です、どうかご容赦を。感謝の気持ちには偽り御座いません」

「…そうね、軽率でした。気を付けます」

「ギャァアッ」

「!ゼル様お下がりを、」

「大丈夫だよ永久、この人は私の為に言ってくれているの。よしよし、ありがとね」





ゼルの、総監としての苦言にミリは静かにその言葉を受け入れる

そりゃそうだこんな神様ポケモンを平気で呼び寄せるなんてきっと歴代のポケモンマスターもそうは出来ないよね、とミリは内心笑う。ポケモンマスターのレベルを跳ね上げさせる元凶になっているのは果たして本人気付いてるのだろうか

久々の友人達との再会に、自分は少々浮かれてしまっていたらしい。少々どころか大分浮かれているが、今だけは許してほしい

だって、私達、目の前のポケモン達も含めて

約一年振りの再会なんだからね!




―――しかしミリを愚直に狂信しているかと思えば、しっかりと行動を戒める。添えられた手から読み取れる感情は、ミリの事を一番に考えている発言だったと察せるもの。真の臣下としては申し分のない行動に、後ろからガイルは感慨深く見つめていた















青の時間が巻き戻った

赤の空間に全てのポケモン達が回収を終えた



―――二匹の神々が姿を消し、ゆっくりと亀裂が修復されていく



ミリは満足げに笑う





「――――さーて皆、色々あったけど帰ろっか!」

「「ブイブー…Zzz」」

「あらまかわいい。眠りながら返事してくれたの?いい子ね〜」

《主、赤色の亀裂が残っている。見たところ、亀裂の先はこの屋敷の森を映している。このまま行けば帰れるはずだ》

「あらー久遠ったらそこまでやってくれてたの?今度会ったらいっぱいよしよししなきゃね!久遠と永久に…あと冥王に煌雅!泉の子達も元気かな?フフッ。帰ったら皆に会うのが楽しみだね、闇夜」

《そうだな》

「ミリ様落ち着いたら是非とも色々とお話を聞かせて下さい特に伝説系の繋がりを。後世なので」






ただいま、シンオウ地方







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