用意したのは四つの記憶


一人ずつ、記憶を開花してこうか







さぁ、最初の記憶の欠片を一つ


この記憶は、誰の記憶?








(記憶の鎖は解き放たれた)


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―――――
――













アイツと初めて出会ったのは、ナギサの西海岸だった。浜辺にいる、俺の眼前に広がる海の上に、アイツはいた

薄水色のクリスタルを輝かせ、たてがみは海色に身体は空色のスイクン(当時はスイクンの存在は知らなかった)の背に、アイツは座っていた。スイクンの髪とアイツの漆黒の髪が風に吹かれて靡き、スイクンの空と海の色とアイツが着ていたオレンジのコートがよく映えて――ガラにもなく、アイツの取り巻く景色に魅入っていたのを思い出す

丁度空は夕焼けに染まっていて、オレンジが全てを染めていた。オレンジ色の、夕焼けの光りに照らされたその姿は、今でも一生忘れない






「――……貴方は、誰?すみませんが此所はどの場所か教えて頂けませんか…?」

「――…君、眼が…」

「――あぁ…気にしないで下さい。眼が見えなくても、貴方の姿はしっかりと見えていますよ。夕焼けの日に輝く金髪と、海と同じ瞳…とても、綺麗ですね」









初めて聞いた声は、容姿ともに綺麗で、あぁ…アイツは海の女神だと――すんなりと、そう思えて

差し出した手に乗せられた白くて長く細い手は、アイツがどれだけか弱く儚く、強く触れればポキッと壊れてしまうかを物語っていた








「宜しければ、お名前を伺ってもいいでしょうか?」

「俺はデンジ。君の名前は?」

「私の名前は……――」



















「んだよデンジお前そんな所…いや、またそんな所にいたのかよ」

「あぁ…お前か、オーバ」

「久々にジムに行ったらジムリーダーが居ねぇ!ってぼやかれたぜ?」

「めんどくせぇ」

「おいおい…」




ナギサの海をオレンジ色に染める夕日を眺めていたデンジの元にオーバが近寄る。海沿いの砂浜を一歩進むたびに足跡を残し、押し寄せる波により飲み込まれて消えるオーバの足跡。サクサクと良い音と潮を引く波の音を耳に、海に向けていた視線をオーバに移すデンジにオーバは「よう」と手を上げる

お決まり文句を口に出しながら近寄れば、デンジは興味なさそうに返事を返しオーバはやれやれと溜め息を漏らす。浜辺の上に腰を下ろしたデンジの隣りにオーバはドカッと座り、あー疲れたと盛大に呟いた

相手がオーバだと分かればデンジは視線を海に写し、眼前に見えるオレンジ色の海を見つめ続ける。スカイブルーの瞳はまっすぐに地平線の向こうを、オレンジ色に染まった海を写し、そんな彼の横目を見たオーバは何も言わずに海に視線を移した











盲目な筈なのに、盲目なんて思わせない素振りを見せたアイツは実際に自分の眼で見ている様で。自分は見れなくてもこの子達が見ていれれば十分です、と答えたアイツは強いと素直に思えてしまい

盲目な為、光りを写さず焦点が合わない漆黒の瞳を、綺麗だと思った。静かに微笑むその姿が、美しいと思った

スイクンと並んで立つアイツに、真っ先に俺は魅入られていた






「――…綺麗ですね、貴方のその陽に輝く金髪は。…貴方の心も、綺麗です。綺麗で、純粋で…とても、羨ましいです」

「俺なんかより、君の方が俺は綺麗だと思う。そして君は、強い。俺なんかよりも」

「…そんな事はありませんよ。私なんて、ちっぽけな人間でしかありませんよ。…私は、強くなんかありません。守ろうとしても、逆に守られてしまったくらいですから…」











「――……お前今、何考えてる?」

「…別に、何も…」

「嘘つけ。お前が大概この時間でこの場所にいるときは大体アイツの事を思いふけっているんだろ?」

「………、」

「俺もお前と同じでアイツと会った時も、こんな風な景色の中で紹介されたんだよなぁ。…懐かしいぜ、本当に」







「おいおいデンジ…!!お前が居なくなったと思ったらこんな美人ちゃんと逢引してたのかよ…!?つーかそのポケモンすげぇな綺麗だな…!」

「デンジさん、彼は…?」

「あぁ…コイツは俺のダチだ。名前はオーバ」

「オーバーさん、ですね?」

「…………いや、俺オーバーじゃなくてオーバなんだけど。なんで俺、制限オーバーのオーバーになってんだよ。発音気をつけろよな?な?」

「フフッ、オーバーさん名前の響きがブーバーみたいで良い名前ですね」

「なぁデンジ、これは素直に喜ぶべきなのか?俺初めてブーバーみたいで良い名前ですねって言われたんだけど。え、これ喜ぶべき?」

「"  "、ほら分かるか?コイツの頭フサフサしてるだろ?これはな、ブーバーに焼かれてこうなったんだぜ?しかも気に入っていつもブーバーに頼んでいるんだぜ?」

「何でだよ!?」

「おぉ…!これはなんと…斬新な、髪型ですね…!やばいこれ柔らかくて気持ち良いです…!」

「いやいやいや!これ、アフロ!アフロだからな!?ブーバーに焼かれたらまずチリッチリになるんだけど!?」

「オーバーさん、よろしくおねがいしますね」

「あ…もう俺の名前オーバーで決定なのね…」

「オーバー(爆笑)」

「おおいコラァアアデンジ!テメェ笑ってんじゃねーよ!!」










「あの時アイツが眼が見えていなかったなんて知らなかったぜ。それと、アレだ。俺達と同い年だった事にはびっくりしたなぁ…」

「だな。…お前、正直に言ってかなり落ち込ませた事あったな。アレには笑ったぜ」

「あのなー、あんときの俺は餓鬼だったからしょうがないだろ?ま、アレのお蔭でアイツの敬語を直す事が出来たし。良くやったぜ俺」

「そうだな、オーバー(笑)」

「おいコラ、喧嘩売ってんのか」

「悪かった、アフロ(笑)」

「黙れこのデンジレンジ(笑)」

「テメェこのやろう」









「オーバー(笑)」

「おい"  "。何で名前の後に(笑)がつくんだよ(笑)が」

「オーバー(笑)」

「テメェデンジもか」

「デンジはアレだよ。デンジレンジ(笑)」

「Σレンジ.. ( ̄□ ̄;)!?」

「ブハッ!良い事言うじゃねーか!良かったなぁ〜…デンジレンジ(笑)」

「このやろう!」











このナギサの海で過ごした三人のかけがえのない日々は、ナギサの潮の香が鼻を霞みナギサをオレンジに染め上げるこの景色が自分達の記憶を鮮明に思い出させてくれる

この場所で、何度三人で笑い、喜び、楽しんだのだろう。時には二人で、時には一人。それでも三人で笑い合ったあの頃は、とても幸せだった







「本当に、懐かしいな」

「あぁ。…本当に、な」

「…………そうだな…」







何時からだろう

自分達が、彼女が

離れ離れに、なってしまったのは









「おいおい"  "!お前凄いじゃねーか!何一人だけシンオウのトップコーディネーターになっちゃってんだよ!」

「しかもその後に特別に開催されたリーグ戦に殿堂入りしたのもテレビで見たぜ!お前凄い熱いバトルだった、おめでとう」

「いやぁ、照れる」

「凄いな、その凄い奴と…友達に、いると思うと誇りに思えるな、オーバ」

「あぁ!勿論だ!…よし!今日は"  "の勝利を記念してどっか食いに行こうぜ!」

「奢りは全てオーバな」

「ばーか、俺とお前で割り勘だ」

「フフッ、二人共…ありがとう」












「そういえばアイツが別れを切り出したのは…こんな夕焼けの日だったな」













「私、次の旅をしようと思うんだ」












それは、最後の別れ





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