「ブイブイ?」

「ブーイ…?」

「よお、元気になってくれて何よりだ。…よくやったな、お前達。ミリ様を見つけてくれると信じていたぜ」




なでなで


―――ズキュン!




「ブイ〜Vvv」

「Σブイブイ!?」

「…フッ」






「あらー、罪な人だね〜。可愛い女の子の心を奪っちゃって。憎いね〜、フゥ〜」

《白亜…意外に面食いなんだな》







―――――――
――――








また時間を巻き戻しましょう

数分前の、彼等の様子を見てみましょう







凄まじい炎がミリに飛び掛かろうとしたポケモン達を飲み込み、無機質な広場をあっという間に灼熱のフィールドに変化させた。闇夜の闇で暗くなった世界が一気に明るくなった事で、彼等の眼には鮮明に眼前の光景を見る事が叶った

灼熱の炎と共に現れたのは、ガイルだった

そして炎の道が開く先に現れたのは―――本来ならいるはずのない存在、ゼルの姿がそこにあった






「総監!!?」

「ゼルジース!!?」

「まさかお二方が現れるなんて…!」

「おいおい!何で二人が来てんだよ!こんな計画じゃなかったよな!?トップがのこのこやってきていいのかよ!?」

「ミリだけではなく、まさかあの二人まで来るとは…!しかし、お蔭でミリを止めてくれたからよかったが…」

「よくねーよなんだよアイツここぞって時に現れやがって!ふざけんな!失せろ!」





これには誰もが驚愕した

ミリの登場にかなり驚いたのに、まさかあの二人まで現れるなんて。ダイゴとシロナとゴヨウ、オーバとゲンとデンジは各々の反応を盛大に示した

勿論二人がこの場に参戦する話なんて一切計画に入っていない。当然入るわけがない。ゼルは総監だ。統率者だ。上の立場だからこそこんな場所に来られるはずが無い。何よりゼルという総監が仕切って立ち上がった突入チームだ、ゼルが自分達にミリの事を託したからこそ今こうして戦場に立っているというのに―――まあ、こうして捕まってしまっている事には眼を瞑るにしても、ゼルとガイルの登場は本来ありえない話なのだ

勿論、驚いているのは彼等だけではなく、






「ガイル、そしてゼルジース…舞姫に続いてあの二人までやってくるとは…!」

「…ッ、ガイル…!いつ見ても、恐ろしい炎だ…!」

「テンメェエエエッ!ゼルジースお前なんざお呼びじゃねーんだよ失せやがれミリに近付くんじゃねええええッ!!」






ゴウキは驚愕した心中をそのまま零し、ナズナは恐ろしいモノを見る眼でガイルを睨み、レンはゼルに蹴りかからんとばかりのキレ具合

こんな壁が無ければ本当に我先にミリをゼル達から守る為に駆け出していただろう。今は利害一致の関係とはいえ、我々は敵同士なのだから






『―――これは驚きました。まさかまた侵入者が現れるとは…しかも【白銀の麗皇】と瓜二つ………まさか、とは思いますが…もしやお前はリーグ協会の…?』

『フッ、察しがいいな。そうだ、分かっているなら敢えて俺の口から名乗る必要はねーな』

『…随分とお若いんですね。まさかこの場でお会い出来るとは思いませんでしたので、正直驚きました。…しかし、わざわざお前程の人間が、こちらに?』

『突入チームの奴等があまりにも無能なんでな、この俺自ら出向いてやったってもんだ。有り難く思うんだな』

『……女王といい総監といい、予想外な事ばかりですよ』






何故、二人がこの場に現れたのか。この場にいる全員が疑問を持っただろう。メンバー達も然り、アポロも、更にその上の敵の存在も

ゼルとガイルの存在は確実にメンバー達にとって救いの一手になったのは確かだ。こうして凶暴走化したポケモンに対抗出来る戦力を持ち、ミリを壁から離れかせ身の安全を確保してくれた辺りは、そこは感謝するべきだろう。ホッとした安堵感、しかしやはり二人の登場の驚きと困惑が上回ってしまうのが現状か

どうやら二人はこちらには気付いていないらしい。この場所から見えるのは、ミリの様子に気付いたガイルがゼルを呼び、ゼルが足速にミリの元に近付いてくる。彼のカシミヤブルーがまっすぐにミリに向けられ―――パッと嬉しそうに表情を緩めたのは一瞬で、ビシィッ!と表情を強張らせたのは、絶対、自分達の見間違いではない

まあ、そうなるだろう。ミリの状態を見てしまえば誰だって似たような反応をしてしまう。ゼルの目から見てもミリの姿はヤバいんだと、見過ごせないレベルにヤバい事だと遠目で見てもその反応はとても分かりやすかった

そうこうしている内にゼルは大股でミリの元へ歩み寄り、遂に対峙する事になる。残念ながらガイルの姿とミリの後ろ姿が上手い具合に重なり、彼の表情が隠れてしまうが―――レンに似た観察眼を持つゼルの事だ、きっと今のミリの状態に気付いてくれるに違いない。そうじゃなくてもどの道ゼル達には報告しなければならない。彼女が、ミリが、とても不安定な状態にいるという事を

そしてゼルは自身の羽織っていた高級そうな黒いコートを脱ぎ、ソレをミリに掛けてくれた。ミリの身体はすっぽりと黒いコートに覆われ、痛々しくて目に毒な姿がお陰様で隠れてくれた

ホッとした全員だったが、問題はその後だった





『わふっ、…えっ、え?』

『…こんなにボロボロになってしまわれて…しかし、生きていてくれてこのゼルジース、安心しました」』

『??…えっと…ゼルジース、さん…?』

『何があってその様な格好にさせられたかは後々奴等に吐かせるとして。まずはミリ様、お風邪を召されますのでどうぞこちらを着ていて下さい』

『!いえ、そんな…私は大丈夫です!こんな高級なコートを…そんな、大丈夫ですので私の事はお構いなく!』

『駄目です、着て下さい』

『でも、』

『着ないと今すぐにでもそのお口を塞ぎます』

『スミマセン着ていますゴメンナサイ』





なんなんだ、アレは

なんなんだ、アレは(大事な事なので二回言いました

ゼルのコートに驚いたミリが遠慮して返そうとしたのを阻止したまではいい。最後の台詞はなんだ。トドメの一言がやけにマジに聞こえるんだが。しかも場違いに甘い雰囲気が流れているのは気のせいか、気のせいなのか。動揺が走る。レンは苛々している。少なくてもゴウキは今の流れにデジャヴを覚えていた





「…なんか、見せつけられている気分だな……」

「………。見ていて気分はよくないね」

「なんだよマジふざけんなムカつくくたばれ死ね羨ましい!」

「きっと相手がレンさんの時でもあの様な光景になっていたんでしょうね……」

「あらあら。ちょっと見てよミリったら顔が赤いわよ〜。やーねミリったらかーわーいーいー。ウフフ!あなたの専売特許が奪われちゃったわね、ゲン」

「いや、私はそもそもミリの母親になったつもりはないんだが……しかし何故だろう…この複雑な心中…」





じとーとした顔をするオーバ、若干イラッとしているダイゴ、親指を下に向けて悪態吐くデンジ、苦笑を漏らすゴヨウ、この中で一際テンション上げるシロナ、心中複雑に苦悩するゲン

そして隣には―――ヒクリと表情を引きつらせる、一人の男が





「…この俺の目の前で堂々とイチャつきやがって…!ミリに記憶が無いにしても気安く触ってんじゃねーよむしろ何なんだあの顔が緩んでるザマは!ふざけんな爆発しろ!つーか離れろ!目の前でイチャつくなふざけんなムカつくぶっとばす!」

「その言葉、そっくりそのままお前に返してやる」

「(哀れな)」





静かにキレるレンにすかさず言い放つゴウキに、そのゴウキに哀れみの目を向けるナズナ。あの光景は何度も見てきたから今更何も言わないが、傍から見る気持ちがこれで分かってくれただろう。しかし双子はこうも似るものなのか。まだ実行に移さないゼルの方がマシとしか今のところは言えない


視点を戻そう。闇夜と白亜と黒恋がミリの元へ戻り、相変わらず記憶の無いミリの無慈悲な台詞に怒った二匹による突進に尻餅を着くミリ。ゼルが闇夜に状況を問うが、闇夜は無反応だ。会話はしているのだろうが、相変わらず声は聞こえない。が、内容からゼル自身もミリの状態を察しているらしい。そこは流石総監だと言った方がいいのか

そこまではいい、そこまでは

また全員に衝撃が走った





『!!?―――あの、ゼルジースさん!?一体何を…!?』

『どうぞ、俺の事はゼルとお呼び下さい』

『!?あああああの、ゼルジ…ゼルさん!私歩けます!歩けますので!おおお降ろして下さいいいぃぃ!』

『ゼル、です。この俺に敬称は要りません。勿論、敬語も。貴女様らしい話し方にして頂けるとこちらも嬉しいです』

『いやいや話聞いてます!?』





お姫様抱っこだ

お姫様抱っこしやがったぞアイツ

ミリの身体を軽々と持ち上げ、顔を真っ赤に染め上げてジタバタもがくミリを楽しそうに見下ろすゼルに、これには全員あんぐりと口を開いた

てか総監が敬称も敬語も要らないって何を言っているんだ。サラッと何を言っているんだ。サラッと何を求めているんだ。仮にも最高責任者が部下に対してそんな命令下すなんて聞いた事が無い。分からない、ゼルの心中が分からない。レンと同じ対等でいられる条件でも作ろうとしているのだろうか

これにはレンもぶちキレだ





「テンメェエエエッ!ゼルジースふざけんなゴルァアアアアッ!!それは俺だけの特権なんだよ真似してんじゃねーよふっっっざけんなミリを離しやがれぶっとばす!」

「ゴウキ、抑えておけ」

「仕方が無いな」

「あらあら。レンガルス、珍しく荒ぶっちゃってるわねー。中々見れない姿だわー」

「なんで君はそんなに楽しそうなんだ…」





さて。そうこうしている内に闇夜のダークホールで倒れていたランスとラムダとアテナが目を覚まし、ダークホールの影響に苦しみながらもその眼は眼下にいるゼル達を好奇の目で見下げる。どういうわけか目覚まし変わりに無理矢理マトマの実を食べさせられたせいかラムダの口の回りがスプラッタ気味なのは置いといて

ゼルの命令によりガイルが動いた。臆する事もなく悠々と、単身で燃え盛る炎の中に入っていく。ガイルの動きに反応した四人はすぐさま戦闘態勢に乗り出した。ガイルの後ろ姿を最後に、灼熱の炎によって自分達の視界から姿を消した。次に起こったのは凶暴走化したポケモン達による咆哮と地響き、キラリと煌めく閃光の輝き―――この炎の先では激しいバトルが繰り広げているのがよく分かるが、果たしてガイル単体でどこまで保ってくれるのか。炎を操れる事以外一切不明、いくら総監の執事とはいえあの凶暴化したポケモン達とどう立ち向かっていくのか―――






『後ろの壁の中に私の大切な友人達が閉じ込められているんです!早く助けてあげないと感電されちゃう…!』






ガイルに目を向けていた間にミリの切羽詰まった声が聞こえた。ミリがゼルに自分達の事を話したのだ(微かに聞こえた会話の内容には深くツッコミはしないでおくとして

ゼルの視線がこちらに向けられる。カシミヤブルーの瞳はまっすぐに自分達―――否、マジックミラーを写す。初めこそ何の事だか分からないといった様子だったが、親譲りの観察眼はミリが言った言葉の意味を悟ったらしい。その端正な顔は呆れた様に溜め息を吐いていた

そしてゼルはミリを闇夜に託し(ミリのぼやきもスルーするとして)、マジックミラーに―――否、自分達の前に対峙する

カシミヤブルーの鋭い瞳は壁を通り抜け、彼の放つ言葉は自分達に深々と突き刺す事となる





『――――ハッ!つくづく無様だな!お前等はミリ様が危険な目に遭われそうだって時にそこで指を咥えて見ていたって事か!笑える話だぜ、そうやって敵の罠にみすみす捕まるなんざそれでもお前等は俺が組ませた突入チームか!恥を知れ!俺を動かせた事も含めてお前等はそこで反省でもしているんだな!』





――――壁に閉じ込められた者達全員、ゼルの放つ容赦ない言葉に押し黙ってしまう

言い訳なんて元よりするつもりはない。結果が結果だ、敵の思惑に簡単に陥った自分達にゼルが怒るのも無理はない。こうしてゼルとガイルの助太刀があったからミリの安全が確保されたとはいえ、二人の存在が無かったらミリの安否がどうなっていたか―――考えただけでも、ゾッとしてしまう




何も動けない自分達の耳に、ミリの制止の声が上がる。闇夜の腕からいつの間にか抜け出したミリはゼルの腕に抱き着いていた。ゼルの咎める声なんて構わずに、彼女は口を開いてこう言った。「彼等を責めないで」「責任は私にある」と

そして彼女はゼルの前、自分達の間に立って頭を下げた。ミリが頭を下げる必要性は全く無いというのに、彼女はポケモンマスターという責任感が故に自分達の失態を全て背負い込んだ。彼女は関係ない、頭を下げないでくれ、これは紛れもない自分達の責任―――頭を下げるミリの後ろ姿を見て、全員は己の失態を悔やみ、ミリに頭を下げさせた自体を申し訳ない気持ちで見ているしかなく

これを見たゼルも流石にミリの行動を制し、頭を上げる様に促した。先程言い放った台詞を撤回する代わりに、彼はミリに「ポケモンマスターが簡単に頭を下げるものではない」と総監として諭した。しかし少々距離が近すぎやしませんか。解せん

戸惑った様子のミリだったが、ゼルが何か伝えた事で彼女の後ろ姿からでも緊張が解けたのが見て取れた。頭を完全に上げた姿を見て、ゼルは小さく口角を上げていた


ホッとしたのも束の間、

ゼルはまたもや予想外な行動を起こした






『行動を起こす前に、俺の事はゼルとお呼び下さいと何度言っても敬称敬語で話されたその責任を取ってもらいたいと思いますが、如何でしょう?』

『さっそく皆を早急に助け出そう!今!すぐにでも!!…闇夜!闇夜ちゃーん!皆を助けだそうむしろ私を助けて闇夜ちゃーん!』

『フッ、そう遠慮なさらずに』

『あー!困ります困ります!お客様困りますー!いったんその手をお放しになってー!?そのまま闇夜ちゃんにパスしてくだされー!?』

『ブイブイ(笑』
『ブィィィ!』

『………』

『闇夜ちゃーん!!』













「やはり白皇、腐ってもお前達は双子だ。双子はこうも似てしまうものなのだな。……はぁ、またあの光景が一人同じ顔が増える事で濃くなるのか……流石の俺もやり切れんぞ」

「…巻き込まれるのは、勘弁だ………」

「「「「爆発しろ」」」」

「ぶっとばすぞ」

「面白いわねー」














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