エメラルドの瞳はすぐに漆黒に戻った。たった一瞬だった為か、誰もその瞳に気付く事はなかった

その代わり、ミリの瞳のまなざしは先程のバトルに燃え上がっていた情熱の灯火ではなく――レンは一度、グリーンとレッドとブルーは初めて見た、背筋が凍る様な感覚を覚える程の冷たいまなざしだった

重いプレッシャーがのしかかり、息をするのを忘れてしまう様な…冷たい瞳

初めて見るミリの瞳にグリーンとレッドとブルーは我が目を疑い、恐怖した。あの優しいミリが、いつも笑みを浮かべていたミリが――初めて見せた、その表情に三人は言葉を失った。まるで別人の様にも見えてしまうミリは、本当にあのミリなのだろうか………


恐怖に固まる中、ミリはクスリと笑う。瞳を閉じて、再び瞳が開かれた時――いつもの優しい瞳へと、変わっていた





「そもそも、そんな凄い人と私を比べる時点で間違っていると思うよ。だってその人はポケモンマスターなんでしょう?――だったら、この話は無意味。何せ私の目標はポケモンマスターだからね」





クスクス笑いながら話すミリの表情は何処か楽しげだ。「ねー?白亜、黒恋♪」と目の前の二匹に声を掛けると、先程の姿からいつものミリに戻り安心した白亜と黒恋は元気良く「ブイ!」「サン!」と返事を返す。満足げに微笑むミリに、グリーンは言葉も出なかった

――しかしミリの口元の笑みは嘲笑で、それに気付いたのはレンだけだった






「…さて、そろそろ本領発揮と行かせてもらうよ。七種類の進化が可能な白亜と、多種多様の技を繰り出せる黒恋。親に授かりし得た力…その力でグリーン、君を倒させてもらう



白亜、リザードンに向かって十万ボルト!黒恋、ハッサムに向かってでんこうせっかでその勢いでかえんぐるま!」

「サン!」
「ブイ!」

「っ!リザードン、避けろ!かえんほうしゃ!ハッサム、つるぎのまいで弾き返せ!」






進化した白亜が全身から猛烈な電撃をリザードンに向かって放たれる。黒恋はでんこうせっかに炎を纏いハッサムに突進する

一瞬動揺したかに見えたグリーンであったが、すぐさま調子を戻し指示を繰り出す。リザードンは白亜の放った電撃を空中に飛び躱し、ハッサムは力強い踊りをして突進してきた黒恋を遠心力で弾き返す

リザードンはそのまま第二の指示であったかえんほうしゃを白亜に向かって繰り出すが、白亜は避けずにそのかえんほうしゃの中に突っ込んで行く。ピカァッ!と身体が光ればそこにはブースターが現れ、ブースターはリザードンの灼熱の炎によって包まれた。グリーンは「しまった!」と声を荒げるのも遅く、もらいびによって力を上げた白亜はリザードンから方向を換えてでんこうせっかで…ハッサムに向かって突っ込んで行った


バトンタッチで黒恋は後退し、距離を離れた

白亜の次の攻撃が読めたグリーンはすぐさま指示を出そうと口を開こうとするが、時は既に遅かった






「オーバーヒート!!」






白亜の身体全体から爆発する勢いの炎が放たれた。ハッサムは強烈な炎と爆風によって吹き飛ばされ、壁に激突

虫と鋼の共通の弱点は炎――威力は四倍、効果は抜群






「黒恋、バブルこうせん!」





戦闘不能を確かめる隙を与えずにミリはまた新たな指示を出す。後退していた黒恋は空中に飛ぶリザードンに向かって大量の泡を噴射する。しかし大量の泡はリザードンの灼熱の炎で打ち消し合い、攻撃は失敗する

次の手を――と思っていた矢先、別に動く存在をミリは見逃さなかった





「白亜、黒恋!アイアンテール!」





ガギィィイン!と凄いスピードで突っ込んできた存在に向かって尻尾を振り降ろす。突如現れたのは先程の白亜のオーバーヒートで吹っ飛んだハッサムだった。二匹の尻尾を両腕に挟むハッサムは、そのまま大きく上に振り上げた

ハッとミリが目を張り上を見上げるより速くに、空中で待機していたリザードンはその大きな尻尾を振り上げてドカドカッ!と小さな身体の二匹を地面に叩き落とした





「白亜!黒恋!」






声を上げるミリに、痛みを堪えながらなんとか立ち上がる白亜と黒恋。ミリはホッと息を吐くと、ブースターのままである白亜をハッサムに向かってかえんほうしゃを命令する。先程の仕返しだと言う様に放たれた灼熱の炎はハッサムの行き場を無くし、ハッサムを包んだ

ハッサムに目がいっているリザードンに、今度は黒恋が攻撃を仕掛けた。身体から放つのは強烈な電撃――、ハッとグリーンとリザードンが気付いた時は遅くリザードンは電撃を浴びた。飛行タイプのリザードンにとって、効果は抜群





「リザードン!」





痛烈な攻撃に苦悶の表情を浮かばせて電撃を浴びていたリザードンは、ギロッと視線だけを黒恋に向ける

ビクッと怖じげづく黒恋をグリーンは見逃さなかった





「だいもんじ!」





電撃を浴びながら、リザードンはその口から灼熱の炎を吐き出した。口から出た炎は大きな大の字に変化して黒恋を襲った。しかもその炎は黒恋の電撃を混じっていて――

攻撃から防御に転換は、出来なかった




「Σブィィイ!!?」

「!ブイ!?」

「黒恋!!」





だいもんじの攻撃を受けてしまった黒恋の痛烈な叫びが響き渡る

勢いに負けて黒恋はだいもんじの炎を纏ったまま、後ろにすっ飛んでしまう。ミリが庇おうと足を動かす前に黒恋は大きな音と共に壁にぶつかった

ベタッと地面に落ちた黒恋。先程の攻撃でかなりの体力を削ってしまった様だ。普通なら倒れてもおかしくない技を受けても、それでも立ち上がろうとする黒恋の姿は拍手ものだった




「黒恋、平気?」

「ブイ……!」

「…じこさいせい!」

「させるか!リザードン、つばさでうつ!」

「白亜、サンダースに進化!リザードンにの翼に向かってスパーク!!」

「サン!」





黒恋の回復を妨げる為にリザードンは翼を広げて黒恋に向かっていくが、ブースターから瞬時に進化した白亜が行き場を塞いだ。素早さが高いサンダースは物凄い速さで身体に電気を纏い、リザードンの翼に衝突した

空を飛ぶ翼に電撃を直で浴びたリザードンは後ろへ吹っ飛んだ。いくら体格に差があり体力がうわまろうとも関係ない、とでも証明するかの攻撃だった




「ブイ!」




無事体力を半分程回復出来た黒恋がフィールドに戻って来た。ミリと視線を合わせ、頷くと正面にいるリザードンに向かって構える

対するリザードンは、先程のスパークの攻撃のせいか翼を中心に麻痺状態になっていた。辛そうに顔をしかめるリザードンに、壁には既に戦闘不能なハッサムの姿があった


レッドとブルーポケモン図鑑を取り出した

ポケモン図鑑は自分のポケモンの体力を見れる事が出来る。…オーキド博士の改良で相手のポケモンの体力も見れる事が可能になった





「グリーンのハッサムはもう戦闘不能でHPは残っていない。…リザードンはやっぱり麻痺状態で、体力はもう残り少ないぜ」

「お姉様の子達は、さっきリザードンのだいもんじを受けた黒恋はじこさいせいで回復しても体力は少ないわ。サンダースに進化した白亜は、黒恋と同じくらいしか体力は残っていないわ」





グリーンは腰からボールを取り出して、既に倒れているハッサムに労いの言葉をかけながらボールに戻す






「白亜、黒恋。イケるね?」

「ブイ!」

「サン!」





体力が大幅に削れていて辛い筈なのに、それをモロともせずに二匹は尻尾を振って元気良く返事をした

ミリはクスリと笑みを浮かた





「(次の手は、…きっとアレだろうね)」





ミリの表情が強張っていった

その予想が的中するかの様に、グリーンはリザードンに視線を向けると、リザードンは苦悶の表情のまま静かに頷いた。グリーンも頷くと、目の前に見据えて口を開いた





「リザードン、アレをやるぞ」







ブラストバーンを――






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