貴方達はどちらを選ぶ? 償って、真っ当な人生を歩むか 一生償えない、重い鎖を背負うか Jewel.49 「っそんなもの、でっち上げに過ぎん!戯れもいい加減にしろッ!」 ダァアンッ!と鈍い音が響いたのは机を力いっぱい叩く音 そして次に響き渡るのは、焦りを含んだ怒鳴り声 「何をどう思ってそんな事が言える!?嘘も大概にしろ小娘がッ!我々がいつそんな馬鹿げた事をしているという!?名誉棄損もいいところだ!我々は長年リーグの為だけに尽くしてきたというのに、お前は私達を愚弄しているッ!」 「そうだ!とんだ勘違い、いや、とんだ妄想だ!」 「無礼者なチャンピオンなんか我々には必要ない!もうそんな顔なんか見たくもないわ!さっさとこの会議室から出ていきたまえ!」 次々に口から出てくる罵倒の嵐。余程癪に障ってくれたらしく、ある人間なんて血管が破裂してしまうかと思うくらい顔が赤い 普段なら萎縮してしまう様な威圧も含んだ怒声も、ミリの表情は相変わらず笑みが浮かんでいた。全くもって効いてないのは目に見えてよく分かる事で、むしろミリは「とても耳障り、こちらがとても不愉快です。いい加減黙ってくれませんか?凍らせますよ」と逆に言い返したじゃないか スイクンの額にあるクリスタルがキラリと光った姿を見てしまえば、一気に沈黙が広がったのはしょうがない。やっと静かになった彼等の姿にミリはクスリと笑みを零す 「最初に言っておきますが、貴方達の戯言に耳を貸すつもりはありませんのであしからず。並びに幹部の方々は勿論、皆さんに私に対する命令は通らない事もお忘れなきよう」 「なんだと!?」 「何せ私はチャンピオン、幹部長の同等の権力を持っているのです。この意味、お分かりですね?」 「ふざけた事を!チャンピオンといえど幹部長の権力を持つなどありえぬわ!」 「ありえるから私は此処にいるのですよ。何せ、この件に関して既に幹部長から許可は頂いておりますので」 「「「―――!!?」」」 「あら、バレてないとでも思ってましたか?勿論、あの人は貴方達の企みには気付いていましたよ。何を今更、幹部長なのですから当然でしょう?貴方達の、それこそ無礼な行いに頭を悩ませていました。だから今此処に私達がいるのですよ」 アスランがずっと抱えていた悩みや、早々に解決させたかったそもそもの原因は、まさにこの事で 手を下そうにも、福利厚生が整っていて法律に守られているリーグを手前に彼等をクビにする事は出来ず、しかもこれらの件はリーグにとって大きな痛手にもなるし、報道されたりもしたら大変だ。それこそ本部まで耳に入ってしまったら積み上げてきた信頼もお終いだ。確かな証拠もない中で、勝手に行動なんて出来ない ――――…本当だったらミリ君がこっちにくる前に片を付けるべきだったと、申し訳なさそうにアスランは去り際にそう零していた 「なら!何故此処に幹部長がいない!?」 「私がお止めしたんですよ。全てを私に任せる様にと、ね」 「何を世迷い言を…幹部長を出せ!」 「フフッ、貴方はどうやら自分の首を絞めたい様ですね。構いませんよ?――――…貴方達の脱税がバレてもいいのでしたら」 「「「「「!!!??」」」」」 「脱税に関してはこちらが勝手に調べた事です。流石に、そこまで気付く事は出来なかったみたいですが」 手の込んだ策によって、結果アスランに発覚する事は免れていた だがしかし、何故この少女は気付いたのだろうか。意味深に、妖艶に笑う彼女の前には真相は闇の中 段々逃げ場の無くなった彼等に更なる追い討ちを掛ける様に―――…ミリはパチンと指を鳴らす 突如彼等の目の前に現れた眩い光。驚愕する彼等の前に――…光は束になった一冊のプリント用紙に姿を変え、ポスリと机の上に落ちた 彼等全員、同様に 「!これは…」 「貴方達がこれまでしてきた内容が書かれています」 「「「「!!!!???」」」」 「つまりそれは貴方達の揺るがない証拠を表す資料となります。お陰様で大変だったんですからね、私パソコン関係は苦手なんですから。事務処理するなら筆記派です。でもこう…腱鞘炎の名残がですね。うん。ウイルスをバスターするのは大の得意なんですけど」 突如現れた、資料 手にして中身を覗いてみれば――――…これはもう言い逃れが出来ないと解ったのだろう。どうやって調べたのか解らないくらい濃密に調べあげられた、まさに完璧な証拠だった 資料を手にし、中身を覗いた多くの人間が驚愕し、唖然とし―――苦汁を飲んでその場に崩れた 「ちなみに、この資料は誰にも見せてません。アスランさんにも、四天王にも、誰一人として。――――…あぁ、そういえばこのリーグのシステムには、本部の人が隠密に内部調査をしている事があるみたいですね。彼等は優秀だと聞きますからね…―――バレるのも、時間の問題ですね」 たとえ警察にこの事が伝わる事が無くても、本部の人間にバレたとしたら即刻クビ且つ懲役処分。警察にバレたとしたらそれこそお先真っ暗だ ――――…事がバレる前に、片付けなければ 同じ事を考えた数人の人間が同時に腰にあるモンスターボールを手に掛けた。しかし、目敏くその行為を見つけたミュウツーがサイコキネシスで行動を制し、抵抗する彼等をそのまま壁に吹き飛ばした ただでさえ強いミュウツーのサイコキネシス、ポケモンは愚か生身の人間は命が危険。極力手を抜いた力でも人間には大ダメージ。壁に追突された彼等はそのままぐったりと身体を起き上がらせる事はなかった ――――…《我等の主に手を出す者は、我々全員が許さない》 頭の中に突如響かせた無機質な声が、彼等にそう告げ、戦意を完璧に失わせたのだった 「―――…君は、私達を追放する気か」 「その問いは自身の過ちをお認めになられたという風に解釈しても宜しいでしょうか?」 「「「………――――」」」」 「…―――なら、君は一体何が望みで、何が目的だ?」 「と、言いますと?」 「これだけの事をわざわざ突き止めたんだ…きっと何か企みがあっての事に違いない。自分が都合よくチャンピオンをする為に邪魔な我々を片付けようとでもしたのかね?」 「面白い冗談。目的も何もありませんよ。敢えて言うならリーグの為、アスランさんの為…どうせ貴方達、最終的には何の罪も無いアスランさんに全ての責任を負わせるつもりだったのでしょう?貴方達の考えなんて手にとる様に分かっているんですから、ね。そう考えると確かに邪魔に感じてしまいますが」 「「「「――――…ッ」」」」 「今貴方達が考えている事はまさに状況の打破。そして目の前に浮かぶのは将来の自分…――――罪を負い、様々なレッテルを貼られた貴方達の末路は、一体どのような光になっているのでしょうね 此処で、一つの提案があります」 絶望の中に光る唯一のソレ それは女神の慈悲か 或いは悪魔の囁きか 「正直言って、私は貴方達の事なんて興味が無い。貴方達を警察にぶち込むのなんて容易い事です。その後の未来も何も、貴方達の人生なんかそれこそ興味ありません。本来なら警察に自主してもらうのが筋なんですが…―――しかし、そうするとリーグに深い痛手にもなりますし、何よりアスランさんが悲しむ事になる。信頼していた人間がただでさえ横領していたのにも関わらず、脱税なんてしていたのですから。下で働く従業員の皆さんにも迷惑にもなってしまう。私は此処の皆さんが笑顔で働いてくれるならそれでいい」 上に立つ者、下の為に動くのが当然 笑顔が溢れて、仕事をするのが楽しいと思える職場体制が、リーグを活気よくしてくれていると信じているから 「リーグの事、皆さんの事を考え―――…この件に関して、眼をつぶりましょう」 あ、私視力ありませんけどね 付け加える様に、ミリは笑う 「貴方達が犯した横領や脱税等の金銭的なものだったら、こちらが何とかしておきましょう。私達にとって造作もない事なので」 「キュー」 「!…―――セレビィの力を使うつもりか?」 「フフッ、それは御想像にお任せしましょう」 「――――………」 「その代わり、貴方達にはリーグを去ってもらいたい。勿論、このホウエンからもね。あれだけの事をしておいて、のうのうと此処で過ごせるなんて事を考えていたのなら大間違いですよ。それに自主退職なら退職金も貰えるので今後の生活も安心、まあこちらからしてみればまた金を取るのかと思ってしまいますが」 とてもいい提案でしょう?とミリは笑う。この提案を呑むのも呑まないのも貴方達次第ですが、と付け加えてミリは言う 勿論、これには全員が賛同した 警察にも捕まる事もなく、クビになる事も懲役処分になる事もない。新たな道を、何のレッテルも無しに歩めるのだから。しかもこの土地を去るだけで全てが免除されるのだから、乗らない手はない 表面上は出ずとも、全員内心は安堵でいっぱいだったのは間違ない 彼等の返答を聞いたミリは、「そうですか、分かりました」とニコッとした無垢の笑みを浮かべた これで一件落着かと思い、誰もが胸を撫で下ろしただろう ―――――…しかし、 「といっても、こんな条件でこちらが納得するわけが無いんですけどね」 突如、その言葉の後に降り懸かる―――…ズッシリと重たい絶対零度の圧力 先程まで悠然な態度且つ、穏和な雰囲気を保っていた彼女の回りが―――…一瞬にして凍った。声色もトーンを低く、冷ややかなものとなり、その視えない瞳もまた、ゾッとするくらい深い闇を纏っていた クスリと笑うその素振りは先程の妖艶さと変わらない だがしかし、何故こうも目の前の少女に恐怖を覚えているのだろうか。このプレッシャーは一体、眼前の彼女が別人の様な気がして―――… 本来ならホウエンは温かい地方だ。日にを増す事に順調に気温も上がってきている。だけど、この部屋は、この部屋だけは、あまりにも―――…寒過ぎた 「貴方達は、公で裁きを受ける事は無い。だからといって貴方達の罪を見過ごす程、私は優しい人間ではない。ならば、そう――――…この私が貴方達に、罪という鎖を与えればいい。貴方達は罪人、罪を償うべき人間。犯罪に荷担し、手を染めてしまった以上、貴方達に真っ当な人生も光も無い事をお忘れなく」 そういえば聞いた事がある 彼女は、氷の女王 冷徹で残酷で、絶対零度の微笑 まさに今の彼女こそその異名にピッタリだった。今自分達の目の前にいるのは、盲目の聖蝶姫でホウエンチャンピオンではない―――…氷の女王、だだ一人 嗚呼、なんということだ 「――――…嗚呼、本当に愚かな人達ね。自分の罪を認め、改める覚悟があったら…――まだ、シアワセだったはずなのに」 まるで独白に呟いた様な、小さな小さな、それでいて冷ややかな声 その言葉を耳にした、瞬間 足下から突如現れた黒い影に飲み込まれた。抵抗するのもままならず、全員はあっという間に得体の知れない不気味な影に飲み込まれてしまう この黒い影を、彼等は知っていた 彼女の影にずっと潜んでいた―――…不気味な金の瞳を輝かす、黒銀色のダークライを 「さようなら、欲に身を駆られた愚かな人達よ。もう会う事は無いでしょう」 そして全てが飲み込まれる刹那 最後の最後に見たものは―――…ゾッとするくらい綺麗な笑みを浮かべていたミリと、こちらを冷徹な瞳で見つめていた三強の姿…――― 「さーてと!これでお掃除しゅーりょー!明日はお休みだからゆっくりしようねみんなー。休んだ後は忙しいよー」 「…」 「キュー!」 「……」 「………」 やりきったとばかりに清々しい笑みを浮かべたミリは、揚々とする気持ちをそのままに、嬉しそうに踵を返した 分厚い扉が開かれ、彼女達は会議室を後にする ―――――…床に瀕した、深い闇に墜ちた人間をそのままにして (彼女が出した提案は、)(あまりにも、残酷だった) |