研究に勤しんでいたカツラの部屋に、ノックの音がした。カツラが振り向けばそこには回復して元気そうなレンの姿で、エルレイドと一緒に部屋に入って来た

おぉ、とカツラは歓喜の声を零す





「元気になった様だね。それは良かった!体調の方は大丈夫かな?」

「あぁ、この通りだ。世話になった、ありがとなカツラ」

「ははっ、礼には及ばないよ。むしろその台詞はミリ君に言った方がいい。正直私は何もしてやれなくて、君を一睡もせずに看ていたのは彼女だったからね。私が交代しようと声をかけても、彼女は譲らなかった」

「…そうか」





カツラが席を立ち、近くにあったソファーに座る様レンに促す。レンはソファーに座り、エルレイドは座らずにレンの隣りに立つ。座らないのはやはりエルレイドという種族なのか性格なのか、それは分からない

そんな事を考えつつもカツラは冷蔵庫から麦茶を取り出して人数分の数を用意する。用意できたソレをお盆にのせレンの正面にあるソファーに腰を掛ける。麦茶を配りながらカツラはレンに視線を向けないで口を開く





「彼女は深く反省していた」

「…………」

「後悔していたよ、『自分が勝手に此所を出て行かなければレンをこんな目に遭わせないで済んだのに』ってね。『私のせいだ』とも呟いていた。…でも彼女は私が思っている以上にしっかりと君を看ていた」

「…………」

「後…彼女はこんな事も呟いていた。『どうして私ごときの為に身を削る様な馬鹿な真似するんだろう』。『レンも人の事が言えない馬鹿だ』…とね」





カツラは振り返る

まだレンの熱が下がらずに、しかし倒れた当初より幾分落ち着いたあの時。カツラがミリの様子を見に覗きに来たその時、静かに眠るレンの隣りで無表情で無機質な言葉で呟くミリの姿があった。日はまだ浅いがいつも見てきた彼女と雰囲気がいっぺんしていて…カツラは背筋が一瞬凍った感覚に陥った

自分を追い詰めている言葉

同時に疑問を浮かべ、返事がないのを分かって問い掛ける姿





「彼女には闇がある。私はあの時そう感じたよ。彼女にも、きっと色々あったんだろう。そのせいか、君の行動に戸惑いと疑問を感じている。…多分彼女は、他人とあまり深い関係になる事を恐れている」





全てはカツラの推測でしかない

しかしその観察力は舌を巻く程だった。あの時見た光景によって、疑問が疑問を呼び、核心に近い推測へと進んでいく。それは長年培ってきたカツラの経験からだった


笑っていれば良い、なるべく本心で優しい言葉を掛けてあげれば良い。そうすれば大体の事は凌げれる。助けてあげるのは大いに結構、しかし助けて貰うのは勘弁。人の闇には干渉しないから、自分のも干渉してこないで




あの一瞬で見て推測して出したカツラの答えだった






「笑っていれば良い、大体の事は凌げれる…か。…確かにこの世の中で平穏且つ穏便に渡れるなら、その方法は有効だな」






本当かどうかは分からない

しかし、本人がもし聞いていたら愕然としていたに違いない。それほどカツラの推測は当てはまっていたから

レンは無意識だろうか、ギュッと拳を握り瞳を閉じる

沈黙が広がった






「…レン、これは私の推測であって、実際に彼女がそうだと決定付けないでくれ。…けど、私にはどうしてもそうとしか考えられな――」

「そんなの、関係ないな」





再び瞳が開かれたレンの顔は、いつもの調子でフッと笑っていた





「アイツが闇を持っていようがいなかろうが、ミリはミリだ。笑っていれば凌げれる?…ハッ!そんなもん、よその奴等だって一緒だろーが。むしろ賢い方法だ。アイツはそうやって触り程度で避けてきただろうな。けど、俺は違う。アイツはそれで過ごしてきたと思うが、俺を前にそんな常識…覆してやる」





クツクツと笑うレンは、さぞ楽しそうだ。しかしその瞳は至って真面目で――鋭かった





「それに俺は、お節介だからな」





それはミリ自身の闇を知っていても、それを覚悟でミリに付き合っていくというレン自身の意志

…それかミリ自身闇がある事自体認めないのか、それは分からない。しかし揺るぎないレンの瞳を見てカツラは安堵した。いくら推測といえ、二人の仲を裂く様な事になるやもしれない…そう思っていたが、どうやら大丈夫そうだ

ミリはともかく、レンがその気持ちであればきっとこの先も二人は手を取り合って行けるに違いない






「…そういえばミリ君は?」

「アイツ、ずっと寝ていない癖にまだ起きているつもりでいたから最終手段で眠らせた。今頃夢の中だな」

「さ、最終手段…?」

「…気になるか?」

「……………。私は君達の関係まで深く聞くつもりはないぞ」

「ははっ、そう言うと思ったぜ。別に俺達はそんな仲じゃない。前にも言ったがお互い目的の一緒な仲間、ただそれだけだ」

「(素晴らしい言い逃げだな…)」

「それに最終手段と言ってもハピナスにうたうをさせただけだ。…けどアイツ何故か効きやしねーから『寝ないと塞ぐ』って言ったらすぐに寝てくれたぜ」

「…………そうか」

「ま、俺は全然構わないんだがな」







一瞬レンの目がマジだったのは気のせいにしておこうとカツラは思った






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