上に立つなら、全てを知れ 無知な事は、愚かだ 無知な事は、罪である Jewel.47 わたくし、ミリは 遂に、やりとげたのです…! 「お、おわっ、たァァァァ……!!」 前だったら大量にあった書類の山が、今はもう影を無くし、 プルプルと震える腱鞘炎一歩手前な手を頑張って励ましながら(でもむちゃくちゃ痛いんだよォォ!)最後の締めに印鑑を押せば、それがこのお仕事の終止符になるわけでありまして(これでもかってくらいグリグリ押してやったわ!)。達成感と沸き上がる脱帽感、全ての気力を使い果たした私は分け目も振らずにゴッ!と机につっぷした(額にダイレクトなんだぜ 「終わった…やっと、やっと終わった、やっと終わったよォォ…今世紀最大の気力を使い果たしたよ……手が、手が動かな…」 「…(なでなで」 《ミリ様!遂にやり遂げましたね!》 《仕事をして約二ヶ月…通常の仕事があるにしろ、長かったな》 《主、無事か。色々と》 《いや、どう見ても無事ではなさそうだが》 「ふりぃー」 長かった。いや本当に長かった 時間数えるのが億劫なくらい長かった 右も左も分からない初心者の人間にドカッと現れた曲者は、最後の最後まで私達の行く手を塞ぎまくった。自分では処理しきれない内容や、こんなの知らねぇ!っていう難易度が高い内容を求められたりと、様々な難所が私達に試練を与えた(だからこれ絶対チャンピオンが勝手にやっちゃいけない内容だって! お陰様で最近は休みを返上してまでずーーーっと此処で書類と机と椅子とペンとお友達になっていて、手とか手とか手とかお尻とか腰とか肩とかもうダメだよね!まさか腱鞘炎や腰痛肩凝りになっちゃうだなんてね!予想外だ!次の日には自分の力のお陰で治っちゃうからまだ良かったかもだけどこうも続いちゃうと治りが滞って痛みが残っちゃうしストレスってか鬱憤がプッツンいっちゃうよ!いっちゃうよ!?(落ち着け) でも…――――遂に、遂に私達はこの場から解放される日が訪れたのだよ! 「二ヶ月……二ヶ月もかぁ…二ヶ月も掛かっちゃったんだね………二ヶ月もあれば他にも色々な事が出来たはずなのに……――――皆、要領の悪いダメな主でゴメンね。眼が見えないから、皆をたっくさん酷使させちゃったし、不自由ばっかでさ、」 「…」 《それは違う。要領の善し悪しの問題ではなく、全ての元凶は仕事を放り投げたあの前任に非がある》 《そうですよ!ミリ様はずっと頑張ってきました!それは僕らが一番よく分かってます!》 《本来チャンピオンとしての仕事をこなしながらの二ヶ月だとしても、あの膨大な量を主以外の人間だったら簡単に終わらせる事は無かっただろう》 《それでも奮闘する主に、少しでも力になれたのなら本望だ》 《フッ…そういう事だ。だから主は堂々と胸を張れ、それでこそ我等が主だ》 「ふりぃ〜」 《そうそう、だからミリーお疲れ様〜》 「――――…ありがとう、皆…もう皆の言葉が目に染みるよ…ううっ」 机の回りを囲んで、純粋な励ましの言葉と労いの優しさを向けてくる皆には、本当に感謝ばかり 誰が一番頑張ってくれたかっていったら、私なんかじゃない、この子達のお陰。彼等の眼が無ければ書類を片付ける事なんて愚か、全ての日常生活を円満に過ごせる事なんて出来なかった。私への気遣いに気配り、長時間の心夢眼――――…視る側は平気でも、映す側が一番疲れている筈なのに、皆は口を揃えて言ってくれた。「主の為なら力になりたい」て、嬉しそうに 本当に、良い子達ばかりでもうおねーさんの涙腺が崩壊しそうだよ← じわりと奥にくる熱いモノを感じながら、頭の上に乗ってきた風彩に腕を伸ばし、自分の胸に抱えてあげる。軽い身体を、感謝の気持ちも込めながら優しく抱き締めてやれば風彩はくすぐったそうに羽を揺らす。自分もと頬に擦り寄ってきた時杜にも、視線で訴えてくる刹那にも、闇夜にも、蒼華にも、ラティオスにも、全員に同じようにしてあげた 「――――…もうちょっと、私に力を貸して欲しいな」 私は、笑った ――――――― ――――― ―― 大量に溜まりまくった書類をそれぞれ皆に持ってもらい、大名行列宜しく各部署の部屋に運びにいった数時間後(お仕事していた皆さんのビビり具合が面白かった)。部長さん達からの労いの言葉と感謝の言葉を言われつつ(深々と頭を下げられて反応に困ったよ!)、お礼として分けてくれたお菓子に全員で美味しく頂いた後、 私達は、アスランさんがいる幹部長室の中にいた 「――――…君には、本当に苦労をかけさせてしまった。本来だったら、もっと有意義に活動出来たはずだったのに、君にばかり負担をかけさせてしまった。でも、本当によくやってくれたよ、ミリ君。君の頑張りは私は勿論、全員が良く分かってくれているはずだ」 「ありがとう御座います、アスランさん。私が無事に仕事を終わらせたのも、この子達と、そしてアスランさんの御力添えがあったからです」 「良い顔をしている。皮肉にも結果、あの残りの仕事がチャンピオンの引継ぎになってしまったが…―――此処に来る時とは、全然違う。今の君にはどんな困難でも乗り越えられる気がするよ」 「フフッ、確かに。あの仕事の事を考えたら、どんな困難でも立ち向かえそうですよ」 「それは頼もしいばかりだよ」 「…」 「キュー!」 「……」 「………」 モダンで大層立派なデスクテーブルに腰を落ち着かせ、眼前に座るアスランさんは目尻を緩め、その眼下は慈愛に満ちている。彼から溢れるオーラからも同様に、純粋に私達を評価していて、感謝をしてくれている。やはり幹部長という責任者から言われるだけあって、達成感というものがまたじわりと心に染みた 幹部長だけが入る事が許されるこの部屋には、私達以外誰もいない。隣の部屋はアスランさんの下にいる幹部室が存在しているが、足音や物音がしていない事をみるとまだ誰も部屋に戻っていないらしい 部屋の隣の様子を伺う私を余所に、アスランさんは嬉しそうなオーラを隠さず時杜の頭を撫でている。…前任チャンピオンの本来やるべき仕事が残っていて、不十分な引継ぎ、余計な重荷を背負わせてしまった―――…一番責任を感じていたのはアスランさんだった事は常に感じたオーラで分かっていた でも、これでもう終わり。これからは、否、今日から私達のチャンピオンとしての道が始まっていくんだから 「あの仕事を終わらせる事が出来たので、これからはチャンピオンとして日夜ホウエンに奮闘していきたいと思っています。改めて、宜しくお願いします」 「あぁ!こちらこそ、宜しく頼むよ。期待しているからね、ミリ君。幹部長として君を全面的にサポートしていこう」 「ありがとう御座います …――――ところでアスランさん、」 「何かね?」 「全面的なサポートをしたい、勿論こちらも同じ気持ちですよ。微力ながら、私達の力で宜しければ、いくらでも手を貸したい」 頼もしい言葉、嬉しい言葉 改めて決意を露にする私に満足げに頷くアスランさんだったが、次に言う私の言葉に意味分からずといった様に時杜の頭を撫でる手を止め、訝しげに小首を傾げる そんな彼に私は、笑う 「やるからには徹底的に、それが私のモットーです。どんなに小さくて正直どうでもいい事でも、私は見過ごしたくはない。小さい事が、もしかしたら最悪な方向へ発展していく恐れがあるからです」 「……」 「―――…表には現れていない裏事情に関しても同じです。新任、二ヶ月間、たとえ短い期間で何も知らなくても、いつかはこの壁がぶち当たってくるに違いない。そう、例えばアスランさんがずっとてこずっている悪種とか、ね」 「!」 悪種、その言葉を聞いて一体何がいいたいか悟ったくれたらしい。何故それを、心夢眼に映る彼の表情は驚愕に染めこちらを凝視し、纏う感情も動揺を隠せない 私は、笑う 気付いているとは思っていなかったのか、気付く前になるべく早く解決をさせたかったのか、両方の意味を取れる彼の感情。表情上は表れていなくてもグラグラ揺れる彼の心情、何かを言いたげに口を開こうとするアスランさんに、私はシッと人差し指を自分の唇に当てて彼の行動を制する それ以上何も言わなくても私は分かっています―――…そんな意味を込めて 「ホウエンを良くする以前、まず内部を徹底的に改善させないといけませんよ。でなければ変えるにも変えられませんからね」 「…ハハッ、よく分かっているね」 「チャンピオンと言えど、私はただの人間です。上に立つ人間は下の人間が居てこそ成り立っているものです。土台があんな状態だと立つにも立てれませんからね」 「ふむ、確かに君の言う通りだ。―――それで、私は一体何をすればいいのかな?」 「一斉掃除ですよ、アスランさん。そして一からやり直すんです。そうすれば、きっと成果は現れますし―――掃除は結構好きですからね、私」 「――それは、頼もしい限りだ」 上に立つ人間は下の人間が居てこそ成り立っているもの それは数多の世界を渡り歩き、以前は視えていたこの目で見て、学んだ事 結局人間は、一人では生きられない そんな私も此処ではただの人間。けど今の私はホウエンチャンピオン。皆の力や協力が無くしては君臨する事が出来ない、皆があってのチャンピオンだ。何処の企業の組織も人がいてこその組織だから意味は間違えてはいないはずだ 「そんなわけだから、皆には色々と頑張って貰わないとね」 「…」 「キュー」 「……」 「………」 さぁて、楽しいお掃除タイムが始まるよ (その前にダイゴの紅茶とミクリのケーキを食べに行こっかな) |