「よく来てくれた。君の噂はよく耳にしている。私の名前はカツラだ。よろしくミリ君」

「初めましてカツラさん。こちらこそよろしくお願いします」





中には入って私達を迎えてくれたのは数匹の炎ポケモンとその主であるカツラさん。カツラさんは想像とスペ通り、白衣の服にツルリンにサングラスに付け髭(←)。カツラさんが醸し出すオーラは優しくて、ポケモン達も同じだ。手を差し出してきたので私もその手を取って握手をする。特別に力を使わず、ただ純粋にカツラさんとの出会いを喜んだ

私達が握手をしている時、隣りでレンはカツラさんのポケモンを撫でながら「あったけー、外の寒さが嘘の様だぜ」と呟いている姿が。確かに外寒いもんねーあの寒さでこの服装は確かにおかしいね、うん

ちなみに今いる場所は研究所の応接室らしい場所にいる。私とレンは隣通し、目の前にはカツラさんが座っている。カツラさんから貰った温かい緑茶が美味しい。あ、茶柱発見←





「君が此処に来た理由は分かっている。クリムソンバッチを賭けた戦いだろう?だけど、すまないね。今主力のポケモンがレンのポケモンと戦ってね、今回復中なんだよ。ジムの中も、結構ボロボロになってしまってね」

「…フッ」

「レンあんた何してんの!?」





如何にも俺勝ったんだぜと言っている様な笑い方をするレンに、私はテメェ何してんのぉぉおとレンの腕を掴んでグイッと背中にガチッと固める。まさかそんな事が出来るとは思わなかったレンは、叫びはしなかったがソファーをバシバシ叩く。はっ、さっきの仕返しだ!←


カツラさんは苦笑しながら私達を眺める。我に返った私はパッとレンから手を離してカツラさんに向き合う。隣りで「覚えてやがれ」なーんて物騒な言葉が聞こえてきたけど、私は何も聞こえない





「ジムバトルはそちらのポケモンが回復してからで結構ですよ。考えてみればこっちの子達も既に夢の中ですので」

「コロシアムを見させてもらったよ。素晴らしい戦いだった。やはり今回もあのイーブイ達かな?」

「はい、もちろん」

「…そうか…」

「…?」






ふむ…、といきなり考え込む様に黙り込んだカツラさん。顔には影が入り、グラサン使用だから効果が一段にアップする。なんかヤクザ的な人に見えてしょうがない←

疑問に思いながら隣りにいるレンに目を配らせば、ただ黙ってカツラさんを見ている。こっちの視線に気付いたのか、フッと笑った(大丈夫だと言っているのか?)(それとも根に持ったかさっきのアレ←)


その時カツラさんはおもむろに懐を探りだし、ある物を取り出して私に差し出した

受け取ったそれは、あのクリムソンバッチだった

私は目を輝かせた





「クリムソンバッチ…炎を象った綺麗なバッチですね!バトル前で手に持つのは初めてですよ。へぇ〜、これがクリムソンバッチ…!」

「それを君にあげよう」

「ありがとうございま……………………は?」





ポカーン、私は目を張る

…え、今この人何て言った?


慌ててレンに視線を向ければ、レンも驚いた表情でカツラを凝視していた。どうやらレンは何も知らなかった――先に来ていて、あの時覗いたら真剣な顔で話し合っていたのに何も聞いていない事になる






「…気前良すぎんじゃねーか?」

「…公認バッチはジムリーダーに認められて初めて貰う物です。私達はまだお互いのポケモンと対峙していなければ、バトルもしていません。それに出会ってまだ数分しか経っていません。…理由を教えて頂きませんか?」






ゲームだってアニメだって、バッチを貰うにはジムリーダーに認めて貰わなくちゃいけない。手っ取り早く、ポケモントレーナーの流儀としてポケモンバトルがあるだけであって、認めて貰うその意味はとても重い

人間は、突き放すのは簡単だ。けど、人を認めるのは安易ではない。その意味は充分知っているし、実際に経験し体験している私だからこそ、カツラさんが言った意味が分からなかった





「確かにミリ君の言う通りだね。まだお互いポケモンを対峙していないし、バトルもしていない。しかも会ってまだ数分しか経っていない」

「…カツラ、お前楽しみにしていたんじゃないのか?聖燐の舞姫であるミリとの、バッチを賭けた戦いを」

「コロシアムを見て、こっちにまでバッチを求めてやって来ると分かった時は胸を踊らせた。楽しみだったよ、君が来るのは。しかし、これはコロシアムを見てすぐに決めた事だ。今更変える気はない」

「………」






サングラスの向こうの先にあるカツラさんの瞳は真剣で意思が硬く、強い光を秘めているのが分かる

彼が纏うオーラも、ひしひしと意思を曲げないとでも言っている様に、荒々しい物を感じさせる。こういう人程、何を言っても聞かないんだ


……けど、






「それじゃ、駄目なんです」





私は手にしていたクリムソンバッチを机の上に置いた。クリムソンバッチは照明灯の光に反射され、キラリと輝く

カツラさんは黙って机に置かれたバッチを見下ろす。…やっぱり意思は硬く、手に取ろうとはしない。レンは黙って私達を見て、周りにいるポケモン達も静かに見守る





「貴方の意思は、充分に理解しました。同時に、どうしてそう決意した理由が私には理解出来ません」





普通の人なら飛び付いて貰うだろうけど、根が真面目な私は簡単に受け取れない


それに、と私は付け加える






「貴方が何を思い、何を考え、何を秘めていて…何に、囚われているんですか?」

「…!」





サングラスの下で開かれるカツラさんの目

私はスクッと立ち上がり、部屋のドアにスタスタと歩く。戸惑いながら道を開くポケモン達に、少し驚いて見るレンとカツラさんを前に私はドアノブを握り締めて呟く様に口を開く





「…勝負が出来ないのなら、また日を改めます。なので私は戻ります。夜分遅くにすみませんでした。おやすみなさい」

「…おい、ミリ」

「…失礼しました」

「ミリ!」






レンの言葉を遮る様にドアを開けて、私を止める言葉を聞かない様にドアを閉める

部屋から出た廊下は中と違って寒かった。保温状態を解けていた為、此所に来た時よりも断然寒く思えた。外の気温が下がっていたのか、吐く息が白くなっていた


私は歩き出す

コツコツと靴のヒールの音が嫌に殺風景な廊下に響かせる。あまり距離はない筈なのに、一人で歩く廊下は何故か長く感じた





「(…レンには、悪い事をしたかな。わざわざ私を思って迎えに…デコピンは確実だよね。でも、彼は関係ないんだ。……早く此所から出て行こう)」









私は振り返る事はなく、殺風景な白い廊下を歩いて出口に向かった






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