薄暗かった空は闇夜になりキラキラと一番星が輝く。太陽が隠れ、代わりに月が姿を現す。月光が闇夜を照らし、ふたごじまにも注がれる。太陽の激しい光とは裏腹に、月は優しい光を放つ

月の光でも充分明るいこの場所は、歩くのには苦労はしなかった。私は月光の光を頼りに、皆がいる場所よりそう遠くない程度まで足を運ばせる





「満月、か…」





空に浮かぶ月を見上げる

今宵は満月、位置的に満月が大きく見える。ふたごじまは街みたいな電気が通っていない無人島。街から見る満月より、何も光がない場所で見る満月はそれはそれは存在感が増すものを感じさせる




何処の世界にも月は一段と美しくて、私は好きだった




好きだった、…けど


何時からだろう


月が、満月が




嫌いになってしまったのは








「(もうじき、満月が赤くなる)」







私には分かる


もうじきあの満月が、紅く染まるのを



人々は、ポケモンは、絶対に気付かないし見れない紅い満月は、例外無しに【異界の万人】やその力の関係者にしか分からない



紅い満月は私に取って、猛毒だ

いや、満月に限らず赤い月は猛毒だ


【異界の万人】にとって、紅い満月の存在は必要であり、時に万人の身体を蝕む凶器にもなる。紅い満月が見える時期は、【異界の万人】の力が膨大に増幅する。つまりは力や身体共に強くなる。…けど、強くなる一方で精神的肉体的、どちらか…または片方に副作用が出てきてしまう


副作用はその時様々だ


肉体的に考えると、内臓機能が衰えて普段の調子が出ない。動くとすぐに疲れる。高熱や微熱が生じるなどだ。平然とするのが、立っていられるのがやっとな状態だ。簡単に言えば力が膨大過ぎて身体が悲鳴を上げてしまっているのだ

次に精神的に考えると、幻覚症状や鬱状態になるなど。私の場合、昔の【私達の】生まれ故郷である世界に滞在中だったら(今がそれ)、記憶がその時に思い出されるケースが多くて、幻覚や鬱なんて可愛いものだ。…私が私では無くなる、そんな瀬戸際だ。回りに絶対人は寄せ付けられない程、私は墜ちてしまう



だから私達には紅い月は猛毒





それに…










「(視力が、低下している…)」









少しずつ、少しずつ


見えるはずの先が、ぼやける




もう一つの副作用…いや、記憶を受け継ぐにあたっての私達の掟みたいなものだ。『記憶の他にも全てを受け継がなくてはならない』…記憶を受け継いだその当時の昔の【私】が、もし病気を患っていたとしたら、私も影響を受けてしまう。実際に病気ではないのに、身体は元気なのに、全く同じ症状が現れてしまう


あ、勘違いしないで欲しいけど、それは昔の【私】の故郷の世界にいる時だけ限定で、他の関係ない世界に行くと何も症状が出てこない。上記二つの副作用だけになる。元々私は健康だったから、良かったけど…健康でも健康じゃなくても、辛い事には変わりはない



記憶の欠片では、昔の【私】は視力が無かった。見えていたのに見えなかった。…どうやらそんな病にかかっていた、もしくは力が衰えてきた原因か。分からない。でも、確実に私に影響を及ぼしているのは間違ない。今は【異界の万人】の力が補ってくれているから支障は少ない。それでも、見えなくなっている






もうじき、私は視力を失う













「(そんな時に敵に襲われたりしたらヤバいなぁ…)」





手加減したくても力が膨大過ぎて加減が出来ない、逃げたくても身体が動かない、精神的にヤバい状態だから…もしかしたら最悪、相手を死なしてしまう恐れがある…

それに力が暴走して変な過去や未来に飛んでしまう恐れがある。目が覚めれば夢オチでした、なんて…そんな簡単な話では済まさない。もしかしたら…今いる現代に帰って来れなくなるかもしれない

それだけは、避けたい





「(感傷に浸っている場合じゃなかった…早めに視ておかないと)」





丁度見晴らしの良い丘に着いた。…しかし、良く足場を見てみると目の前は崖になっている。…気をつけないと

私は落ちる手前に立ち、力を発動させた。私の周りに――淡い光の円陣が浮かび上がる。瞳を閉じて、声にならない言葉を繋ぐ。円陣の光が収まり、ゆっくりと瞳を開ける


全てを見通す、‐万里眼‐


私が発動させたのは千里先まで見渡し、物体をも関係無しに姿、形を捕らえる事が出来る力だ。私には万里眼の他にも色々な能力を持つ眼を持っている。今回は、その内の一つだ

私はくまなく視ていくと、発見した。ふたごじまの内部にジムがあって研究所があった。結構な広さで、ジムは何処かボロボロだ。研究所を見てみると…いた。カツラさんとレンが、真剣な面持ちで何かを話し合っている

何の話をしているかは、すぐに理解した


でも、これ以上視る事を止めた






「さて、戻りますか」






私が知りたいのはジムの場所

それ以上は求めない。お互いにプライバシーがあるから、もしかしたら今の二人の姿は見ない方が良かったのかもしれない。真剣な会話を覗く程、そんな趣味はない。私は発動を止めて皆のいる場所へ踵を返した













×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -