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ロボ太くんと椅子



ロボ太くんの部屋には椅子が一個しかない。ロボ太くんがいつも使っているあの椅子だけだ。だから私はいつも床にそのまま座っているのだけど、いい加減お尻が痛くなってくる。今度からクッションでも持参してくるべきかと考えたところで、何故いつも呼び出されている私が用意しなければならないのかと疑問に思った。私は別に好き好んでこの薄暗くて殺風景な部屋に来ているわけではない。頻繁にロボ太くんから呼び出されるからだ。呼び出したくせに放っておかれる事も多いし、その度にこの冷たくて硬い床に座って待つ羽目になる。私専用のクッションか椅子を用意するべきなのはロボ太くんのはずだ。うん、早速買ってくるように命じてやろう。


「ロボ太くん」


自分だけ快適そうな椅子に腰掛けているロボ太くんの名前を呼ぶ。テーブルに頬杖をついてモニターを眺めていたロボ太くんは、椅子を回転させてこちらを向いた。


「どうかした?」

「お尻が痛いからクッションか椅子が欲しいんだけど」

「あー…今度用意しとく」

「今度じゃ駄目。私は今欲しいの」


被り物をしているからロボ太くんがどんな表情を浮かべているのか実際には分からないけれど、何だか面倒臭そうな顔をしているような気がする。何となく雰囲気でそう感じ取った。


「今面倒臭いって思った?」

「思ってない! 思ってないですッ! と、とりあえず今日はこの椅子で我慢してくれ!」


私が機嫌を損ねると少なくとも一週間はそれをずるずると引き摺る事をよーーく理解しているのだろう。ロボ太くんは椅子から立ち上がると、私の機嫌を窺いながらこちらへ椅子を差し出す。…うーん。さすがにその椅子を奪っちゃうとロボ太くんがハッカーのお仕事しにくいだろうしなあ。でも他にクッションとか椅子の代わりになるようなものも置いてないし…あ、そうだ。いいこと思い付いた。


「ロボ太くん」

「今度は何? 気に入らないって言われても、今はこれ以外は用意出来ないんだけど」

「ううん、ちょうどいい椅子があるよ。だからロボ太くんがその椅子に座ってて」


ロボ太くんは「他に椅子なんてあったか?」と不思議そうにしながらももう一度椅子に腰掛ける。私はそれを確認すると、ロボ太くんに歩み寄って…そして、そんな彼の膝の上へと座った。ロボ太くんの身体が驚いたようにビクッと震えたのが分かる。


「い、椅子って僕の事かよ!?」

「これならロボ太くんもお仕事しやすいし、新しく椅子を用意しなくてもいいし、そして何より私のお尻が痛くない。最高だね」

「こんな状況で仕事出来るわけないだろ!!」

「何で? あ、もうちょっとくっついた方がいい?」


キーボードの操作がしにくいのかな。そう思った私はさっきよりも更に密着するように、ロボ太くんに背中を預けて深く腰掛ける。ロボ太くんは焦ったように「えっ、ちょっと…この体勢はまずいって…!」と言って身体を強張らせた。


「優茉! お前わざとやってるのか!?」

「何の話?」

「あーもう! 分かってたさ! お前が僕のこと男だって認識してない事くらいな!!」

「なに怒ってるの?」

「怒ってないよ、くそぉ!」


怒ってるじゃん。そんなに私にくっつかれるのが嫌だったのか。そう思って「離れた方がいい?」って聞いたら「…こ、このままでいい」ってボソッと小声で言われた。私がロボ太くんを椅子代わりにしている間、何だかロボ太くんは本物のロボットみたいにぎこちない動きをしていた。キーボードの打ち込みもいつもより遅かったし、やっぱりちゃんとした椅子を用意してもらった方がいいのかもしれない。いい案だと思ったのになあ。とりあえずロボ太くん椅子に座れるのはこれが最初で最後になるかもしれないし、今日は堪能させてもらおう。

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