成瀬くんが自分の席で項垂れている。いつもは窓ガラスに映る自分を見ながら椅子をカターンってしてるのにそれもしない。落ち込んでいるのだろうか、今日は珍しく元気がないようだ。何だかそんな成瀬くんを見てると調子が狂うな。わたしは席を立って成瀬くんの席の方へと歩み寄った。
「成瀬くん、飴あげる」
「…え?」
「甘いもの食べると元気出るよ。多分ね」
話した事もない相手が突然話し掛けてきた事に驚いたのか、成瀬くんはキョトンとしてわたしを見つめてくる。そんな成瀬くんの右手をとって、その手の上にイチゴ味の飴を置いた。「美味しいよ」と続けて自分の席に戻る。少しは元気が出るといいんだけど。そう思いながらスマホを弄り始めたわたしは、成瀬くんがしばらくこちらを見ていた事に気付きはしなかった。
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「やぁ、堂島さん」
それは翌日の朝の事だった。教室に着き、自分の席に座ったところで成瀬くんからそう声を掛けられたのだ。「おはよう、成瀬くん」と挨拶を返しながら成瀬くんの表情を窺う。無駄にキラキラした、いい笑顔を浮かべている。わたしの飴のおかげなのかは分からないけれど元気にはなったみたいだ。
「今日は元気そうだね」
「フッ…あまり子猫ちゃんに心配をかけるわけにはいかないからな」
「子猫ちゃん?」
それは話の流れ的にわたしの事だろうか。まあ、成瀬くんの言う事だからあまり気にしないでおこう。成瀬くんはなかなか自分の席に戻ろうとしない。まだ何か話があるのかな、と見つめていたら成瀬くんはポケットからスマホを取り出した。それから前髪を掻き上げ、スマホをわたしに向けてくる。
「…ん?」
これは何のポーズなんだ。よく分からなくて首を傾げていたら、成瀬くんの傍らに居た米谷くんが「※携帯番号を交換する機会をくれている」と説明してくれた。ああ、そういうこと。わたしもスマホを取り出して成瀬くんと携帯番号を交換する。ついでに米谷くんとも交換してもらった。
「寂しくなったらいつでも俺に電話してきていいんだぜ?」
「そっか、ありがとう。暇な時に電話するね」
「堂島さんは特別だからな。…俺のファンには内緒だゾ?」
「特別? へえ、嬉しいな」
成瀬くんに向けて小さく微笑んでみせた。成瀬くんが驚いたように目を瞬かせ、わたしを凝視してくる。かと思えば成瀬くんは急にわたしの手をとってギュッと握ってきた。
「…君なら俺の隣に相応しい」
「はい?」
「※上から目線である」
何の話かよく分からない。わたしが聞き返そうとしたところでタイミング悪くチャイムが鳴ってしまった。成瀬くんはわたしの手を離し、わたしにウインクをして自分の席へと戻っていく。…さっきの言葉がどういう意味だったのかは休み時間にでも聞けばいいか。そう思っていたのだけれど…次の休み時間にそれを問い掛ける前に、わたしは彼の言葉の意味を察する事になったのだった。
成瀬詩守斗にアプローチされる
(――堂島さんはよく俺の事を見ていただろう?)
(※見ていない)
(これからは好きなだけ俺を見つめていいんだぞ? 隅々まで、じっくりと…な)
(※下ネタではない)
((…慰めたの、間違いだったかな))
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リクエストBOXより
女主が落ち込んでる成瀬くんにちょっと優しくしたら(この子、俺に気があるのか...)と思い込まれてそれきりアプローチされる話とか...!読みたい!です!!
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