フツヌシと再会した夢を見てからどれだけ経っただろう。オレは相も変わらずこの本丸で付喪神に囲まれ、平和な日々を送っていた。今の暮らしが気に入ってないわけじゃない。刀剣達はオレを慕ってくれているし、彼らと過ごす日々は騒がしくもあるが、楽しく充実したものだった。ただ、前世の記憶を取り戻してから…心の奥にぽっかりと大きな穴が空いてしまったように、どうしようもなく苦しくて、虚しくなる時がある。
誰にも打ち明けられないこの想いは日に日に募るばかりで…でも、オレにはどうにも出来なくて。前世の記憶なんてオレが作り出した妄想でしかないんだ、って思い込もうとして、必死に忘れようともしたけど…英傑達と過ごしたかけがえのない日々は紛い物なんかじゃない。彼らと過ごした日々はまるで昨日の事のように思い出せるんだ。偽物だったなんて、否定する事は出来なかった。
"約束しよう。この軍神フツヌシ、必ずや主を探し出し、主を迎えに行くと――"…夢の中でフツヌシはオレに向かって確かにそう言った。だが、いくら待ってもフツヌシはオレを迎えには来ない。前世の記憶は本物だと信じてるけど、あれは夢の中の出来事なんだ。あの夢はオレのただの願望でしかない…。
「フツヌシ…会いたいよ」
オレがぽつりと呟いたその時だ。「審神者様、大変です! 敵襲でございます!」と大慌てでこんのすけが審神者部屋へ飛び込んできた。て、敵襲って…!? この本丸に!? そんなのオレが審神者になって初めての事で、動揺してしまう。
「れ、歴史修正主義者…?」
「いいえ、違います! 今、本丸入り口の門付近で山姥切国広様を含む数名がその者と戦闘中ですが…敵もかなりの手練れのようで、苦戦している状況です!」
「っ国広!」
「あっ、い、いけません! お待ちください、敵の狙いは審神者様のようなんです! 審神者様は安全なところへ…!」
オレはこんのすけの忠告を無視して門へ向かって駆け出した。この本丸の初期刀で、一番の実力者でもある国広が苦戦してるなんて…! しかも敵は歴史修正主義者じゃないって、どういう事なんだ…? 全速力で走って門に辿り着くと、そこには刀を構えている国広、獅子王、長谷部の姿があった。そして、彼らが相手をしていたのは…。
「やれやれ…私はここの主に用があるだけで、敵意はないのだがな。これ以上私の邪魔をするというのなら、いくら主の友人であろうと容赦するつもりはないよ。…少しの間、眠っていてもらおうか」
「あんたが何者なのかが分からない以上、主に会わせるわけにはいかない」
「つーか、こいつマジで何者だよ。素手で俺ら三人相手にして、平然としてやがるし…」
「何者だろうが関係ない。…主の為、貴様を排除するのみだ」
ああ…ああ、これは現実だろうか。三人が相手にしている、彼は…文字通り、オレが夢にまで見たフツヌシだ。間違いない、間違えるはずがなかった。鼻の奥がツンとして、涙が溢れそうになる。ちょうどその時、フツヌシもオレの存在に気が付いたようだった。フツヌシはオレに向かって優しく微笑みかけ、両手を広げてみせる。
「主…遅くなってすまないね。思いの外、主を探し出すのに時間がかかってしまってな」
「フツヌシ…っ!」
オレは国広達の横を通り抜けて、彼らの制止の声も聞かずにフツヌシの胸へ飛び込んだ。オレを抱き止めてくれたフツヌシは「約束通り…迎えに来たよ、主」とオレの額にそっとキスを落とした。
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リクエストBOXより
一血卍傑×刀剣乱舞
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