詰め合わせ | ナノ
フツヌシと約束する



その日もオレは本丸でいつもと変わらない日常を送り、眠りにつくはずだった。任務の報告書をまとめ終わり、そろそろ眠ろうかと思った時…急に激しい頭痛に襲われ、立っていられなくなったオレは思わずその場に膝をついてしまう。頭が割れそうなほどの酷い痛みと共に、何かが頭の中へと流れ込んでくる。これは何だ…誰かの、記憶…? いや、違う…"誰か"じゃない。これは、オレの――――。

―――
――


いつの間にか閉じていた瞳をゆっくりと開く。気が付けばオレは本丸ではない、見知らぬ場所に居た。――見知らぬ? 本当に? 思い出せ、オレはこの場所をよく知っているじゃないか。此所は…そう、英傑達が悪霊らと闘っていた地、八百万界。その八百万界で独神として英傑達を率いていたのが―――前世のオレだった。

前世のオレは八百万界の平和を取り戻す前に病に倒れ、志半ばで還らぬ人となったのだ。どうしてオレは前世の記憶を急に取り戻したのだろうか。そして何故、再びこの八百万界に訪れる事が出来たのだろう。理由は分からなかったが…もしも叶うなら、オレはもう一度彼らに会いたい。

此所はあれからどのくらいの時が経っているのだろう。英傑達は皆、無事だろうか…。前世の記憶を頼りにひたすら歩き、オレはとうとう本殿に辿り着いた。目の前の本殿はオレの記憶の中の建物と何ら変わりはない。少し迷った後、オレは本殿へと歩き出す。そしてしばらく進んだその先に…彼が、居た。


「フツヌシ…!」

「…主、か?」


驚いたような表情で目を見開き、オレを見つめてくる彼はフツヌシだ。見間違えるはずもない。オレはフツヌシに駆け寄り、彼に手を伸ばしたが…その手はフツヌシに触れる事なく空を切った。


「どうして…? 何で、触れないんだよ!?」


すぐそこにフツヌシが居るのに、せっかくまた会う事が出来たのに…! どんなに手を伸ばしてもオレの手はフツヌシを通り抜けてしまい、フツヌシには触れられなかった。もしかして、今のオレは幽霊みたいな存在なのか? オレの本当の身体は本丸にあって、魂だけがこの八百万界に来てるとか…そんな幽体離脱みたいな事を体験しているのか?


「フツヌシ…」

「やれやれ…主よ、こうして再会する事が出来たというのに、そのような顔をせんでくれ」


フツヌシがオレに微笑みかけながら、優しい声色であやすようにそう話しかけてくる。慈愛に満ちた表情でオレを真っ直ぐに見つめるフツヌシに、どうしようもなく泣きたくなった。


「オレな…フツヌシに話したい事がたくさんあるんだよ」

「私としても、それは是非とも聞きたいものだね」


平和な世界の平凡な人間に生まれ変わった事とか、今は審神者になって付喪神と共に闘ってる事とか…たくさん、本当にたくさん話したい事がある。それに、八百万界は今どうなっているかとか、英傑達はどうしているかとか…フツヌシに聞きたい事だって、山程あるんだ。でもきっと、時間が足りない。もうすぐオレは目が覚めるだろうって、何となく分かっていたから。目が覚めてしまったら…フツヌシとはお別れだ。もう二度と会えないかもしれない。


「こんな形でじゃなくて、ちゃんと実際に会ってフツヌシと話したかった。この手でお前に触れたかったな…」

「…主」

「お前にもう一度会いたいよ…フツヌシ」


フツヌシは何かを思案しているような表情を浮かべた後、目を閉じて静かに眼鏡を押し上げる。それからゆっくりと目を開けると、口元に薄く笑みを浮かべてみせた。


「主よ、私にあまり面倒事を押し付けんでくれ…と、いつもなら言うところだが、仕方がない。…約束しよう。この軍神フツヌシ、必ずや主を探し出し、主を迎えに行くと」


フツヌシがオレに向かって手を伸ばしてくる。オレも同じように手を伸ばし、フツヌシに触れようとして―――。

―――
――


気が付けば、オレは審神者部屋の床に倒れ込んでいた。身体を起こし、僅かに痛む頭を押さえる。


「…フツヌシ」


オレが八百万界の独神だったあの頃、本殿でお伽番を任せていた軍神フツヌシ。…フツヌシは本当にオレを迎えに来てくれるだろうか。探し出して、くれるだろうか。フツヌシがオレを見つけ出し、どうかまた会えますように…今のオレにはそう願う事しか出来ない。フツヌシの前ではどうにか堪えていた涙が、頬を伝って溢れ落ちた。

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リクエストBOXより
一血卍傑 陰陽師 刀剣乱舞固定夢主の前世が独神だったり、陰陽師だったりが読んでみたいです。

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