御幸が綾瀬と付き合う事になり、綾瀬に恋人として接するようになって改めて分かった事がある。綾瀬自身は気付いていないらしいが、綾瀬は女子からの人気が非常に高い。容姿、性格のどちらも男前なうえに勉強も運動も出来るのだからモテないわけがないのだが。恋人になる前は綾瀬を振り向かせようと必死だった為に気にする余裕がなかったが、恋人となった今は綾瀬が女子と話しているだけでどうしようもなく苛立ち、そして不安に思うようになった。
「綾瀬先輩は何でそんなカッコいいんスか?」
「はあ? カッコいい? んなわけないだろ、全然モテないし…そんな事言う奴なんてお前くらいだっての」
"そんなわけない"と言いたいのはこちらの方だ、と御幸は気付かれないように溜め息を吐いた。綾瀬に好意を抱いている女子がどれだけ多いか教えてやりたいと思ったが、もしそのせいで綾瀬が自分から離れていくような事になったら困る。綾瀬が御幸からしか好意を抱かれていないと勘違いしてくれている方が、御幸にとっては好都合なのだ。
「綾瀬先輩の事を世界で一番好きなのは俺ですからね!」
冗談にも聞こえるような口調で軽くそう言い、御幸は綾瀬の腕に抱き着く。綾瀬には冗談混じりで言っているように聞こえるだろうが、御幸は至って真面目だった。御幸が綾瀬の顔色を窺ってみると、綾瀬は特に表情を変える事もなく普段通りだ。
「俺は世界で一番愛してるよ、お前のこと」
…普段通りの涼しい表情をしているくせに、この人はどうしてそんな台詞を平然と言えるのだろうか。御幸の顔にじわじわと熱が集まる。きっと今の自分は真っ赤で情けない顔をしているだろう。その顔を綾瀬に見られたくなくて御幸は彼から離れ、少し距離をとった。突然不自然に距離をとった御幸に綾瀬は不思議そうにしていたが、特に追及してくる事はなかった。
「――あ、ソラ君っ!」
ちょうどその時だ、可愛らしい女子生徒が綾瀬の姿を見つけて駆け寄ってきた。どうやら綾瀬の知り合いらしく綾瀬は「ああ、どうかしたか?」と彼女に視線を向ける。それを横目で見ていた御幸は胸を締め付けられるような苦しさを感じていた。
「(…綾瀬先輩は俺の恋人なのに)」
どうして先輩を名前で呼んでんだよ、先輩に馴れ馴れしくすんなよ。ああ、先輩お願いだからそんな奴を見ないで、俺を見て…! 御幸の中で醜くどす黒い感情が渦巻いていく。でもそれを口に出す事も出来ず、御幸は二人を見ている事しか出来なかった。
「あのね、ソラ君…今度の休み、予定ある?」
「いや、別にないけど」
「それなら一緒に出かけない? ふ、二人で…」
頬をほんのり赤く染め、不安と期待が籠ったような表情で綾瀬を見上げる女子生徒。彼女が綾瀬に恋心を抱いているのは一目瞭然だ。綾瀬は何て答えるのだろう。御幸が不安に満ちた瞳で綾瀬を見つめていると、綾瀬はゆっくりと口を開いた。
「悪いけどやめとくよ、ごめんな」
「えっ…ど、どうして?」
「彼女がヤキモチ妬いて怒るかもしれないからな」
「か…彼女、いるんだ…。そっか、わかった…ごめんね」
女子生徒は綾瀬に彼女がいると知ってショックを受けたのか、目に薄らと涙を浮かべて逃げるようにその場から立ち去ってしまった。御幸は綾瀬が誘いを断ってくれてホッとしていたが、何となく気まずくて綾瀬の肩をツンツンと突っつく。
「何だよ」
「先輩、断っちゃってよかったわけ? せっかく可愛い彼女が出来たかもしれねーのに」
御幸は「絶対あの子、先輩のこと好きだったって!」と冗談めかして続ける。その発言に綾瀬は少し不満そうな、怒ったような表情を浮かべてみせた。
「可愛い彼女ならもういるだろ」
綾瀬は御幸に近付き、腰に腕を回して抱き寄せた。それからそっと御幸の耳元に唇を寄せて「お前以外の恋人なんていらないっての」と囁く。耳を押さえて飛び退いた御幸は再び顔を真っ赤にさせ、その場にずるずると座り込むのだった。
(御幸?)
(…先輩、そういうの本当に反則っスよ)
(思った事言ってるだけなんだけどな)
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アンケートリクエスト
「御幸一也からのアプローチ」の続編で、付き合っていて、冗談混じりでからかいながらも好き好きアピールする御幸(彼女)にドストレートで返す男前男主、に悶える御幸。でも何気にモテる男主に嫉妬深い御幸(彼女)。そんな御幸(彼女)
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