詰め合わせ | ナノ
ハン・ジュンギと再会



「綾瀬さん、私と会えない間寂しかったですか? ああ、答える必要はありませんよ。貴方が寂しい思いをしていたのは明白です。そして、私と再会出来た今…言葉にならないほど感極まっている事もね」


…誰か、このいろんな意味で暑苦しい男をどうにかしてくれ。ハワイに似つかわしくない上下黒の長袖長ズボンという、見ているだけで暑苦しい格好をした男が暑苦しい台詞を吐いて暑苦しく俺にくっついてくる。ハン・ジュンギと会うのは数年振りだが、俺への接し方は以前までと変わらないようだった。いや、もしかしたら以前よりも更に酷くなっているかもしれない。何年も会っていないのだからいい加減俺に対する気持ちは冷めただろうと思っていたのに、どうやらその考えは甘かったらしい。

「ねえ一番…何なの、あれ」と後ろで千歳さんが小声で春日さんに問いかけているのが聞こえたが、ハン・ジュンギのこの言動が何を意味するのかは俺もこの数年間理解出来ていない。春日さんは「大丈夫だ、チーちゃん。すぐに見慣れた光景になるからよ!」と爽やかな笑顔で親指をグッと立てているけれど、答えになってないし大丈夫でもないから助けてくれ。


「綾瀬さんが寂しい思いをしているのは理解していましたから、何度か連絡をとろうとしたのですが…その度にソンヒから"絶対にやめろ"ときつく叱られましてね」


俺がこの数年間平穏に過ごせたのはソンヒさんのおかげだったのか。この男の暴走を食い止めるのにはさぞ苦労した事だろう。ソンヒさんにはハワイの土産をたくさん買って帰ろうと思う。


「直接コンタクトをとる事は出来ませんでしたが、綾瀬さんにいつ危険が迫っても駆け付けられるよう常に監視を…いえ、陰ながら見守っていましたよ」

「刑事さん助けてくれ、俺の目の前に盗撮犯が居る。今すぐに逮捕してくれないか」

「悪いな、残念ながら"元"刑事だ。俺にはそんな権限ねえよ」


足立さんに助けを求めたが笑いながらそんな事を言われるだけだった。春日さんも足立さんも見慣れた光景だからってスルーしないでくれ。頼むから俺がハン・ジュンギの言動に本気で迷惑している事を察してほしい。


「あー…もしかして二人ってアレか? 恋人とか?」


今までのハン・ジュンギの発言を聞いていたのにも関わらず何故そう思ったのかは甚だ疑問であるが、トミザワさんがやや困惑したような表情を浮かべながらそう問いかけてくる。俺が否定しようと口を開くよりも先に、ハン・ジュンギが「いえ、違います」と首を左右に振った。


「私と綾瀬さんは恋人関係ではありません。綾瀬さんが私に片想いをしているだけですよ」

「「…は?」」


千歳さんとトミザワさんが同時に間の抜けた声を出して顔を見合せている。まあ、そんな反応になるのも無理はない。俺だってどうしてハン・ジュンギが何年もそんな勘違いをし続けているのか分からないのだから。


「画面越しではほとんど毎日見ていましたが、こうして久しぶりに実物の綾瀬さんを見られるなんて…テンション上がりますねぇ!」


「いや、どう見ても片想いしてるのはそっちでしょ…」という呆れたような千歳さんの呟きはハン・ジュンギの耳には届かなかったようだ。またこうしてハン・ジュンギと行動を共にする時が来るなんて思いもしなかった。仲間としては非常に頼もしいのは確かだが、俺に関する事になると頭のネジが何本か外れるんだよな…。はあぁ、という俺の盛大な溜め息は憎らしいほどの晴天に吸い込まれていった。

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