「さっきは変なところ見せてごめんね」
その場に崩れ落ちた自称ロボと亀をそのままにして、俺は転校生に笑いかける。あの二人とは本当にしばらく口を利いてやらない。そのくらいしないと懲りないだろうし。まあ、二人の事だからこれでも懲りないと思うけど。転校生はノキオとボルトを横目で見ながら「あー、いや…ソラくんは全然悪くないと思うよ」と苦笑を浮かべてみせた。
「ノキオとボルトって、ソラの事になるといつも暴走するんですよ」
「そうそう、だから名作も気を付けた方がいいよ〜」
むすびが呆れたように、そしてスウィーツが楽しげに笑いながらそんな事を言った。巻き込まれるこっちは笑い事じゃないんだけどな、スウィーツ。俺は平穏に過ごしたいのにいつも大体あの二人が原因でトラブルに巻き込まれるんだ。泣きたい。平穏に過ごすって願いはこんなにも叶えるのが難しいものなのか? 俺が黙ってそんな事を考えていると、転校生は「気を付けろって言ったって…具体的にはどうすればいいんだよ?」と困り顔で肩をすくめる。
「うーん、そうだなぁ…あっ! 関係あるか分かんないけど、そういえば僕、何回かノキオから"ソラにベタベタしすぎだ"って言われた事があるよ! 別にソラはベタベタしてなかったけどなー。どっちかっていうとスベスベだったのにねぇ」
「スウィーツ、そのベタベタっていうのは触り心地の事じゃないと思うよ…。とりあえず、ソラくんとのスキンシップは危ないって事でいいんだよね?」
「ソラとスキンシップなんて、そんなの二人の前じゃ絶対に駄目ですよ。確かボルトは"ソラが自分以外の誰かと二人きりで過ごすのは嫌だ"とか、"ソラが自分以外に笑顔を向けるのは絶対に許せない"とか…あと、"ソラが今何処で何をしているか全部を把握出来てないと気が済まない"だとか言ってたです」
「何それこっわ!! 束縛強めの彼氏か! え、ソラくんアイツらと付き合ってないんだよね!?」
「誰とも付き合ってないよ」
ちょっとナルシスト入ってる自称ロボや独特な世界観過ぎて話が通じない亀と付き合うはずがない。というか、ノキオやボルトがそんな事を言ってたなんて初耳なんだけど。特にボルトの発言は冗談なのか本気なのか分からないから嫌だな…。「とにかく、ソラとあんまり距離が近いと二人から何されるか分からないですよ」というむすびのアドバイスを聞いてから、転校生は何かに気が付いたように「…ん?」と呟いた。
「あれ? さっきソラくん、僕に笑ってくれたけど…ボルトは"ソラくんが自分以外に笑顔を向けるのは許せない"って言ってたんだよね? 大丈夫かな?」
転校生のその疑問にむすびが「あっ…」と何かを察したように小さく声をあげる。ああ…また嫌な予感がする。そしてやっぱり俺の嫌な予感は当たってしまうらしい。その直後にボルトが低い声で「名作」と転校生の名前を呼んで、いつの間にかこちらへ歩み寄ってきていたボルトが転校生の肩をガシッと掴んだ。
「うわっ、ビックリした! 何だよボルト!?」
「ソラに笑いかけられただと…?」
「う、うん。そうだけど…?」
「なんて…なんて、羨 ま し い ッ !!」
「うるさっ!?」
「オレはソラに笑顔を向けられた事なんて今まで一度もないまんねんッ!!」
「知らないよ、そんなの! 多分だけど自業自得だよ!」
ボルトは転校生の肩をガクガク揺さぶって「イヤァアーッ!!」と悲鳴をあげていた。俺から見てもかなり怖い光景なんだけど、揺さぶられている転校生本人はもっと恐ろしいだろうな。「ちょっと誰か、見てないで助けて!? 何とかしてよー!」と揺さぶられながら転校生が叫んでいる。スウィーツもむすびも見ているだけで助けるつもりはないようだ。俺もついさっきボルトとは口利かないって決めたばかりだからなぁ…。転校生には悪いけど、俺もスウィーツ達と共にボルトの暴走を見守る事にした。
(無視!? ねえ聞こえてるでしょ、助けてよ!)
(分かったですよ、しょうがないですねぇ…で、いくらくれます?)
(お金払わなきゃ助けてくれないの!?)
(もっもっもっ、名作楽しそうだねぇ〜)
(全っっ然、楽しくなんてねーからぁー!!)
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