詰め合わせ | ナノ
クリプトとの関係



クリプトがまだ素性を隠さず、"パク・テジュン"としてシンジケートで働いていた頃…ソラはクリプトの友人と呼べる存在だった。シンジケートでクリプトはコンピューター技師、ソラは警備を主に担当していて、二人は同じ組織で働いてはいたものの共に仕事をした経験はなかった。同じ趣味を持っていたわけでもないし、歳が近いわけでもない。それなのに不思議と気が合って、よくクリプトの妹のミラを含めた三人で飲みに行くような仲だった。本当に、気の置けない…掛け替えのない友人だったのだ。──クリプトが素性を隠す原因となった、あの事件が起こるまでは。ミラが姿を消し、自分に殺人犯の濡れ衣が着せられた後…この事件の真犯人を見つける為に、クリプトは顔を変えて偽名を使ってApexゲームへ参加する事を決めた。

ソラは警備を担当としていたが、他の仕事の手が足りていない時には助っ人に入る事も多かった。クリプトがApexゲームに参加し始めてから、Apexゲームのスタッフとして仕事をしていたソラと再会するのにそんなに時間はかからなかった。クリプトの正体がかつての友人だとソラが気付いた様子はなかった。──気付かなくていい。気付かない方がきっとソラの為なのだ。自身にそう言い聞かせ、テジュンではなくクリプトとしてソラには接していた。


「貴方はどこか俺の友人に似ている気がする」


──そのはずだったのだが。いつだったか、ソラがクリプトにそう告げてきた事があった。まさか自分がテジュンだと気付いたのだろうか。動揺しているのを悟られないよう平静を装って、クリプトは「お前の友人に?」と大して興味なさそうに問いかける。返答を待っている間もソラの顔色を横目で盗み見ていたが、正体がバレたわけではなさそうだった。


「趣味はまるで合わないし、歳も向こうのが上だったけど…一番気が合って、話してると楽しい人だった。まあ、今は行方不明なんだが」


ソラの言うその友人とはテジュンの事で間違いないようだった。無表情で淡々と話すソラからは何を考えているのかが全く読み取れなかった。その友人が行方不明になってどう思っているのかも、その友人が殺人犯として追われている事に何を感じているのかも…何も分からない。だからどうしても聞きたくなってしまった。あまりソラに深入りするべきではないと頭では理解していたのに、聞いてしまった。


「…その友人はどうして行方不明に?」

「あー…貴方なら話してもいいか。俺の友人は殺人犯として指名手配されていてな。その関係で行方を眩ませたんだろう」

「殺人犯、か…」

「勘違いしないでくれよ。殺人犯として指名手配されてはいるが、アイツは絶対に殺してない」


クリプトは目を見開いて隣に居るソラを見つめた。そんなクリプトを気にした様子もなく、ソラは「多分、何か厄介な事に巻き込まれたんだろう。アイツにまた会う事が出来たら…一緒に飲みにでも行きたいよ。アイツは俺の数少ない友人なんだ」と続ける。いつも感情を表に出さないソラが珍しく寂しそうに笑うのを見て、クリプトは胸が苦しくなった。


「…きっと、また会える」


喉から絞り出せたのはたった一言だけだった。クリプトの言葉に対し、ソラは「そうだな。俺もそう信じてるんだ」と目を細めて小さく笑ってみせた。それからすぐに「貴方が友人に似ているせいかな…少し話しすぎた。仕事に戻る」とだけ告げると、表情を引き締めてさっさとその場から立ち去ろうとする。しかし、少し歩いたところでクリプトの方を振り返った。


「クリプト、その…たまにでいいんだが。また、話せるか?」


ソラはあまり自分から他人と関わろうとするタイプではない。それを知っていたクリプトは内心でかなり驚いていた。テジュンがソラと親しくなったのだって、テジュンの方から距離を詰めていったからだったというのに。気付いた時にはクリプトは首を縦に振っていた。これ以上は深入りしない方がいいはずだと我に返り、慌てて"もう話すつもりはない"と告げようとしたが、嬉しそうに微笑みを返してきたソラを見てそんな考えは一瞬で消え去った。

──そんな出来事からもうどれくらい経つだろうか。今でもクリプトは自分の正体をソラに打ち明ける事が出来ていないままだ。しかし、二人はまだ友人とまではいかないかもしれないが、それなりにいい関係を築いている。いつか、また…テジュンとしてソラと笑い合える日が来る事を願いながら、クリプトは今日も試合に臨むのだ。

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