詰め合わせ | ナノ
ランパートと風船ガム



「なあ、ガムいる?」


そう問いかけてきたのはランパートだった。どうしてレジェンド達は俺の仕事中にこんなに話しかけてくるのだろうか。親しみやすい雰囲気なんて俺には全くないと思うんだけどな。俺が無言でランパートを見下ろすと、彼女は噛んでいた風船ガムを膨らませる。そうやって遊びながら「あ、もしかしてアタシが今噛んでるガムが貰えるとか思った? んなわけないだろ、新品のだって」とランパートはケラケラ笑った。誰もそんな事は思ってない。俺が"勤務中なので"と答えようと口を開きかけた時、彼女はその僅かな口の隙間へ強引にガムを放り込んできた。


「美味いだろ?」

「…強引に食わせるなよ」

「こうでもしないと食ってくんないじゃん」


思わず睨み付けてしまったが、ランパートは悪びれた様子もなく風船ガムを膨らませて遊んでいる。…味が無くなったら捨てる菓子とはいえ、粗末にするわけにはいかないか。俺は仕方なくランパートに無理矢理口の中に入れられたガムを噛み始める。程好い甘みを感じるが、それが何の味なのかはよく分からなかった。


「あ、そういやウィットがソラをどうやって店に連れ込むか、いろいろ作戦練ってたみたいだぜ」


…それは知りたくなかったな。ランパートのその言葉を聞いた俺は無意識のうちに顔を歪めていたようだ。彼女は「アンタもそんな顔するんだな、笑える」と可笑しそうに笑った。俺は誤魔化すように軽く咳払いをしていつもの無表情に戻る。


「そんなに嫌か? 確かアンタ、底なしなんだろ? ウィットがタダ酒飲ませてくれるかもしれないぜー?」

「…底なしだなんて君に言ったか?」

「噂で聞いたんだよ。なー、アタシと今度飲み比べしてくれよぉー、ウィットの店で! もちろんアンタの奢りでね!」

「嫌だ」

「何だよ、ケチ臭いなー」


何故ケチ呼ばわりされなければならないのか。ランパートはがっかりしたように肩を落とす。それが酒を奢ってもらえない事に対してなのか、俺に誘いを断られた事に対してなのかは判断出来なかったが。…野郎はともかく、女性の誘いを断るのはさすがに失礼だったか? いや、でもレジェンドと積極的に関わりたくはないしな…。俺は迷った挙げ句、仕方なく「…ミラージュの店以外なら考えてもいい」と溜め息混じりに呟く。まさか自分からこんな提案をする時が来るとは思わなかった。ランパートは驚いたように目を丸くして、それからすぐに嬉しそうに微笑んでみせる。


「マジ? やった、ウィットに自慢してやろっと!」

「自慢するなら飲みに行った後にしてほしいんだけど」

「何で? …あ、そっか。行く前に言ったら意地でもついてきそうだもんな!」


ランパートは「よっしゃ、今日はソラの奢りで飲みまくるぞー!」と晴れやかな笑顔で宣言した。今日行くのか。まあ、特に予定はないから構わないが…。「もう一個ガムやるよ! ほら、遠慮すんなってー!」と再びランパートが俺の口の中に無理矢理ガムを捩じ込んできた。相変わらず何の味かは分からない。けれど、先程のガムとは違う味のようだ。そんなに何個もいらないだとか、何でさっきと違う味のガムなんだとか…いろいろと文句を言ってやろうかと思ったが、ランパートがあまりにも嬉しそうだったからそんな気も失せてしまう。俺は無言で風船ガムを膨らませ、上機嫌な彼女の姿を横目で見つめた。

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