「どういう事ですか、綾瀬さん…!」
俺の家へと乗り込んできたハン・ジュンギは不満げにそう詰め寄ってきた。何が"どういう事"なんだ。俺はいつの間にかハン・ジュンギの機嫌を損ねるような事をしていたのか? 全く身に覚えがないんだが…。
「何の話だ」
「どうして…どうして、私にバレンタインのチョコレートを渡してくれなかったんですか! ずっと待っていたんですよ!?」
「…はあ?」
バレンタインのチョコレート…? 何で俺がそれをハン・ジュンギに渡さなければならないんだ。そしてそれはわざわざ俺の家に乗り込んできてまで言うような事なのか。…というか、そういえばチョコレートならバレンタイン当日に渡したはずだぞ。
「チョコレートは渡しただろ」
「あれは春日さん達へ配ったものと同じ、市販のチョコレートでしょう? 私が言っているのは義理ではなく本命の手作りチョコレートの話ですよ。当然用意してありますよね? もしかして恥ずかしくて渡せなかったんですか?」
「本命チョコなんて用意してないんだが」
「冷蔵庫にあるんですか?」
「話を聞いてくれないか」
勝手に人の家の冷蔵庫を開けるな、用意してないって言ってるだろ。「チョコレートどころか、食べ物すらほとんど入ってないじゃないですか…」と、冷蔵庫の中を覗いて呟くハン・ジュンギ。余計なお世話なんだが?
「…ハン・ジュンギ。お前、そんなに俺が好きなのか」
「私が綾瀬さんの事を好きですって? 冗談はやめてください、そんなわけがないでしょう。綾瀬さんが私の事を好きなんですよ」
どうしてそうなるんだ。そして何故そんなに自信満々のドヤ顔をしてるんだ、お前は。俺がいつそんな素振りを見せたと言うんだ。「だからチョコレートをください」じゃないだろうが、お前は馬鹿か。頼むからさっさと帰ってくれ…。
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