「綾瀬くんって、どういう子がタイプなの?」
サバイバーのカウンターの隅で飲んでいたら、趙さんが隣の席へやって来て唐突にそんな質問をしてきた。野郎の好みのタイプなんて、どうして知りたがるのだろうか。「ねえねえ」と趙さんがへらへら笑いながら頬を突っついてくる。酔ってるのか…いや、この人はいつもこんな感じか?
「…紗栄子さんとかソンヒさんみたいな、強気で肝が据わってる美人」
「へえ〜、ちょっと意外かも」
「そうか?」
「うん。綾瀬くんはそういう子は好きじゃないのかと思ってたよ」
「何で」
「だってさぁ…」
趙さんが何かを言おうとしたその時、背後から誰かが俺の肩を叩いてきた。顔だけそちらに向けると、そこには笑顔のハン・ジュンギが立っている。…何だよ。そんなに強く肩を掴むな、痛い。
「先程のお二人の会話が偶然聞こえてしまったのですが…」
「偶然〜? さっきからめちゃくちゃ聞き耳立ててたよねぇ」
ハン・ジュンギの言葉を遮るようにそんな事を言い、趙さんはニヤニヤと笑みを浮かべてみせた。コホン、と小さく咳払いをして「偶然、ですよ」とハン・ジュンギは言葉を続ける。
「綾瀬さんが仰有っていた好みのタイプ…私も当てはまっているのでは?」
「お前は何を言ってるんだ、ハン・ジュンギ」
「強気で、肝が据わっていて、美人…ほら、つまり私の事でしょう? 綾瀬さんからの遠回しな告白ですか? テンション上がりますねぇ!」
「酔っ払ってるのか、お前」
「綾瀬くんの事になると大体いつもこんな感じでしょ」
趙さんは「お邪魔みたいだから退散するね〜」と言って春日さん達の方へ戻っていってしまった。待て、待ってくれ趙さん。コイツと二人きりにしないでくれ。ハン・ジュンギが俺の隣へ腰掛け、「仕方ありませんね、綾瀬さんがそこまで言うのなら結婚してあげても構いませんよ」と俺に熱い眼差しを向けてくる。誰がお前と結婚なんかするか。
今更だが、さっき趙さんが"そういう子は好きじゃないのかと思ってた"って言ってた意味が分かった。ハン・ジュンギに当てはまるからか。俺は女性の好みを言ったのであって、男であるハン・ジュンギは論外なんだがな…。
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