今でこそそれなりに賑やかといえるくらいの刀剣達がこの本丸に居るが、オレが審神者になって暫くはたった二本の刀剣しかここには居なかった。その内の一本…初期刀である山姥切国広。出会ったばかりの頃はろくに言う事も聞いてくれないし、内番もサボってばかりだった彼だが、今では何でも率先してやってくれるようになっていた。相変わらず自分を写しだの何だのと言うのは直ってないけど、大分前向きになってきたような気はする。
「だからさ、そろそろその布取ろうよ」
てきぱきと手際よく夕飯の支度をしている国広にそう提案してみる。たまに冗談を言って笑ったりする程度には明るくなったわけだし、もう布なんていらないんじゃないかと思うんだけどな。というか料理作るなら邪魔だろ、明らかに。火使ってるんだから危ないし。
「いくらあんたの頼みだろうが、それは出来ないな」
「いつも取ってろなんて言わないけどさ、せめてオレと二人で居る時くらいは取ってくれてもいいと思うんだけど」
「嫌だ。手伝う気がないなら出ていってくれないか? 邪魔だ」
"しっしっ"と手で払うような動作でオレを追い払おうとする国広。んー…さすがに布はまだ駄目みたいだな。まあ、取ってくれるようになるまで気長に待つか。何か手伝いでもしようと国広に片手を出せば、包丁を手渡される。そして置いてある藁で編んだ籠を指差された。そこには今日畑で採れたじゃがいもが積んである。オレは腕捲りをしてその大量のじゃがいもの処理に取りかかった。
どれくらい時間が経っただろう。オレも国広も無駄口を叩く事なく、黙々と互いの作業に没頭していたが、ふと焦げ臭いような匂いが鼻についた。何だ、国広の奴…料理でも焦がしたのか? 今じゃ絶品な料理を作るくらいの腕前にまでなったのに、珍しい。そう思いながら国広の方に視線を向けたオレはぎょっと目を見開いた。
「く、国広! 布燃えてる!」
「は? …うわっ!」
だから取れって言ったのに! 国広は料理に集中し過ぎて自分の纏う布に火が燃え移っていた事に気付かなかったらしい。オレは国広から無理矢理布を奪い取り、それを水の入ったたらいに突っ込む。幸い布以外には燃え移っていなかったようで、オレは安心して大きく息を吐いた。
「国広、大丈夫だった?」
「あ、ああ…」
いつも纏っている布が無くなった国広は不安そうに眉を下げ、あちこちに視線を泳がせていた。布が無い国広なんて初めて見るし(風呂に入る時でさえ大きいバスタオル纏ってるくらいだ)、なんか新鮮だな…。
「…て、手入れ…してくれ」
「えっ、もしかして火傷とかした?」
「いや…火傷はしてないが…その、布が…」
なるほど、手入れをすれば布も元通りになるだろうって考えか。布は端の方が燃えただけとはいえ、たらいに突っ込んだせいでずぶ濡れだからな。さすがの国広もこれを纏う気にはならないらしい。
「何も怪我してないのに手入れする必要ないと思うけど」
「頼む…」
「嫌だ。いい機会だから、今日くらいそのまま過ごしなよ」
「くっ…あんた、覚えてろよ…!」
国広は悔しそうにオレを睨み付け、ぼそっとそう呟いた。オレは聞こえないフリをして包丁を持ち直し、じゃがいもを手に取った。
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アンケートのリクエスト
料理や焚き火などで布に火が燃え移り、布無しになる
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