上鳴電気

「なあなあ」
「んー?」
「俺まだ眠りたくない」
「なんで」
「せっかくのお前とのお泊まりだし」
「...私は眠いよ」



カーテンの隙間から月の明かりが入ってきて丁度私の顔を照らすので、眩しくてつい向き合って寝ていた彼に背を向ける。それをもう眠りますという体形に入ったと捉えたのか(あながち間違ってもないけど)、私の腰に腕を回して「眠りたくない」と電気は言った。付き合って初めて知った部分、意外と甘えてくるところ。それが今らしい。



「なー、寂しいー」
「もう今週の疲れドバっときてん」
「俺も」
「じゃあ素直に寝よーよー」
「...今日はもうちっと話してたい気分」



私の言葉にすぐ返すより、一拍置かれると何だか後ろ髪を引かれるような思いになってしまう。甘えてくる電気も可愛いけど、部屋が暗くて静かだとやっぱり眠くなってくるよ。てか部屋を暗くする前から疲れで眠かったんだ。それにあたかも気付いていないかのように「ゲームしようぜ」だの「夜はまだまだこれから」だの体を揺さぶってきたけど眠いもんは眠い。容赦なく部屋の明かりを消させてもらった。



「なあ、なまえが先寝たら俺寂しくて死ぬ」
「キャラじゃない」
「え、おかしくね?せめてこっち向いてよ」
「月明かりが眩しい」
「あーそういうね」



ギシギシとベッドが鳴って、背中に感じる温もりが離れていく。眠気関係なしにして、いきなり離れられると背中がひんやりとしてきて寂しい。カーテンを動かす音が聞こえてきて、これで眩しくねぇだろと言うので寝返りを打つと確かに眩しくなくなっていた。襟足を掻きながら私の隣へと戻ってくる。



「んーありがと」
「おう。でも余計眠くなんねぇ?」
「...なる」
「だよな」



重い瞼を閉ざす私の頭の下に腕を通して、さっきよりもより密着してきた電気は、暗くて表情こそ伺えないが何だか笑ってる気がする。...近くない?いや近いぞこれは。今日どんだけ甘えてくるんだ、こんなに甘えてきた日なんて、今まであったっけ。



「なあ、好き」
「うんわたしも」
「好き」
「うん知ってる」
「すき」



すぐ目の前にある彼の顔がどんどん近寄ってくる。好きだ、好きだと言われて勿論嬉しいが連呼しすぎじゃないのか。電気の黄色い髪が私の額をくすぐってくる。本当に近い。鼻と鼻がくっつく距離。彼の静かに吐いた息が私を掠ってそのまま唇が触れた。

1回、2回リップ音が響いて離れてく。



「なあ、」



電気の、寂しさが含まれたような声に反応して目を開けると彼と視線が絡んだ。まるで何かを欲しているような瞳に息を呑むけど、それさえも奪っていくようにもう一度キスをされる。今度は長くて、私はキスするとき器用に息なんてできないから、酸素が欲しくて合図として彼のスウェットを軽く握ると、その手を絡め取られていく代わりに口が空いた。すうっと酸素を吸い込む。



「がちで好き」



結構真剣みを帯びているような言い方だった。彼の手を握り返しながら、私もがちで好きだよと返す。すると溜息交じりの笑みを零して「じゃあ今夜付き合ってな」と言った。え?なに?何のことや。頭の中で彼の言葉を整理する前に90度視界が回転して、電気の見下ろす顔が見える。



「...最初からそういう計算か、電気くん」
「いや最後のなまえにやられた。好き、マジで」
「かんべんん」
「はい無視ー」



横に落ちた布団を取って被り、首筋にキスを落とす彼は私を寝かせない気らしい。本当に勘弁してくれ。訓練やらで疲労が溜まっているんだ。そう思いながらも電気と色違いのスウェットを脱がされに掛かっているのに拒否らない私は、案外乗り気か、それとも彼に随分甘いかのどちらかだ。

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