爆豪勝己

現在22:25。
お風呂から上がってタオルで髪を拭いている途中、ベッドの上に放り投げた携帯が短く振動した。メールか?LINEかな?内容が気になるけど、私はメールの返信より髪を乾かす方を優先します。引き出しからドライヤーを取り出してプラグをコンセントに挿して、温風を髪に当てる。

現在22:35。
髪を乾かしたのはいいけど、ベッドにダイブしたのが間違いだった。温風とは逆に冷たい布団が気持ち良くてもう何もする気が起きない。誰がメールを送ってくれたんだろう?気になる、けどもう動きたくない。あ、きっと迷惑メールだ。そうに違いない。迷惑メールは無視が基本だ。よし。

現在23:40。
携帯の短い振動と寒さで目が覚めた。寒い。私ってば布団を被らないまま眠っちゃったんだそりゃ寒い。もぞもぞと敷布団と掛布団の中に入って一旦目を閉じるけど、携帯の振動が気になってまた目を開ける。うたた寝する前は迷惑メールで片付けたけどそれはなんだか可哀想な気がしてきた。それにまた新しくメールがきたし。眠たい目を擦りながら携帯を手に取って、ディスプレイを見る。


「......爆豪勝己からのメール、?」


爆豪勝己?からのメール?


「あ、あああ、はあ?!」


そう、爆豪勝己からのメールである。画面を二度見して飛び起きる。驚きが隠せない。爆豪勝己というのは私の彼氏で、付き合って以来1度もメールなんて寄越したことはなかったのに。携帯を持つ手が震える。何故、何故あのタイミングで送ってきた?短気な彼のことだ、きっと2通目は早よ返信しろという催促のメールだろうな。こええ。深呼吸を2、3回して意を決して2通目のメールを開く。


“早く返信寄越せクソが殺すぞ”


さすがかっちゃん、怒っているときの言葉の語尾には暴言を忘れないらしい。そして私の予想通りだ。文字にすると意外と怖くない。でもこの画面越しにかっちゃんが目を吊り上げながらこの文を打ったと思うと、背筋が凍りそう。ごめんよかっちゃん。君のタイミングが悪かったんだ。気分で2通目から開いたが、より1通目のメールの内容が気になってくる。記念すべき1通目、かっちゃんは私になんて送ったんだろう?もしかして“オイ、ブス”とかじゃないだろうな。2通目のときとは逆に、内心ウキウキしながらメールを開く。


“明日暇なら付き合え”


デートの誘いだ。

かっちゃんが私をデートに誘うとき、そして私が彼をデートに誘うとき、彼はいつも暇だからと言うのだ。かっちゃんの方から誘ってくれるなんて久しぶりな気がする。丁度明日は予定入ってないし、これは断る理由がないな。いいよ、何時くらいにする?そういった文面でメールを返して、とりあえず一安心だ。枕の下に腕を入れて瞼を閉じる。私はまだ眠気を飛ばしてはいないんだ。


現在23:55。
微睡んでいたのに、携帯の長ったるい振動で目が覚めた。一体何事。メールにしては振動が長い。今日金曜日だし週の疲れがドッときて眠いの私は。けどさっきまでの流れを辿ると、かっちゃんからの連絡の可能性が高い。かっちゃんからの着信なんて今まできたことないけど、メールが来た今日ならありえる。気がする。無視れない!

携帯の画面を見ると案の定、爆豪勝己と表記されてあって、応答の文字を押す。



「.........もしもし、」
『出るのおせえよ』
「ごめん」
『メールの返信もおせえよ』
「ごめん、寝てて」
『...起こしてわりい』



最初は強気で威圧感ハンパないクセに、私が寝てたと知ると素直に謝ってくるかっちゃんがすごく可愛く思える。今日は一緒に学校から家まで帰ってきて、その間も結構会話をしたハズなのに、今こうして電話越しに話せることがとても嬉しい。迷惑メールとかいって無視しようとしてて本当にごめんねかっちゃん。



「ううん、かっちゃんと話せたからいい」
『ん』
「返信遅くなって、ごめんね」
『おう』
「...電話くれてありがと」
『は、』
「寝る前に声聞けて嬉しいよ」
『はっ?!死ねブス』
「その照れ隠しやめて」
『悪い』



かっちゃんが照れ隠しで暴言を吐くことももう分かってるんだぞこっちは。初めての電話越しで、あのかっちゃんでも緊張しているのかさっきから言葉数が少ないそして何だかぎこちない気がする。すぐ黙ってしまうから、私から話を切り出さなければ。



「ね、ねえ、明日何時にするの?」
『...1時ぐれーでいいんじゃねえの』
「午後からでいいん?」
『お前午前中動くの嫌いだろ』
「ありがと」
『1時ぐらいにお前んち行くから』
「うん準備しとくね」



私をどこに連れていくのかは分からないが、時間が決まってあとはもう「決まったね!じゃあおやすみ!」の勢いだ。けどきっとそんな即急に電話を切ったらかっちゃん怒りそう。そんで、初めての通話なのにそんなに早く切っちゃうのは勿体ないという私の気持ちもある。けど肝心のかっちゃんはさっきからまた黙ったままで、別に沈黙が気まずいっていう仲ではないけど携帯越しでの沈黙なんて初めてだからどうしたらいいか分からない。何か話しかけようかな。そう思って口を開こうとしたとき、覚悟が決まったかのように携帯から大きな声が聞こえてきて、思わず携帯を耳から離す。



「ごめん、今聞こえなかった!なんて?」
『ハア?!今度は絶対聞いとけよ』
「うん聞いとく」
『...明日で1年記念だろ。だから祝いてえの』



耳を疑った。あのかっちゃんが?毎月の記念日、私からその話題を持ち掛けていたのに、1年記念日はかっちゃんから言ってくれるなんて、本当に現実なのかな。どっちみち夢でも幸せなんだけど。彼から初めてメールがきたり、着信がきたり、今日はなんていい日なんだろう!携帯の向こう側にいる彼に涙ぐみながら「ありがとう」と言ったら、鼻で笑われた気がしたけど、その行動でさえも愛おしく感じるよかっちゃん。



「好き」
『あ?』
「好きだよかっちゃん!」
『......ぶっ殺すぞ』
「なんで?!」



相変わらず照れ隠しが脅迫になってて怖い。


現在0:05。
私が好きだと彼に言ってから数分、沈黙が流れている。彼は次に何を言おうとしているのか。さっきから、舌打ちやため息が聞こえてきて不安が膨らんでくる。え、怒ってるのかな、私、かっちゃんが怒るようなこと言った覚えないよ。



『......だ、』
「...え、何か言った、?」
『俺も好きだっつってんだよクソが!明日はえーからもう寝る切んぞ!』



私に気持ちを伝えているのか罵っているのか、どちらかにしてほしい。でもかっちゃんから好きだなんて言われたのは告白された時以来だ。今日のかっちゃんは不意打ち好きだなあ。明日午後からであんま早くないクセに一方的に電話を切られたけど、まあそれも照れ隠しの一貫として捉えよう。照れる度に暴言吐くのはそろそろやめてほしいけど、不器用な君も好きだから。

もどる