爆豪勝己

※傷痕捏造



俺の脇腹に残る傷痕を指でなぞって、彼女はごめんねと泣きそうになりながら言った。あ?前からンなことはもういいつってんだろ。自覚できる程に汚い口調とは裏腹に、なまえを見る目が意外と柔らかくてビックリする。昔から彼女へ送る視線が柔らかくなってしまっていけない。こんな優しい目付き、俺のキャラじゃない。



「でも私は謝っても謝りきれない」



幼い頃、傷を負わされた。鋭利なもので脇腹をザクっと。その後病院に運ばれて、医者の個性で傷を塞ぐことはできたが傷痕はしっかりと残っていた。傷は真皮に到達していて、そこまで行くと傷穴を塞ぐために皮膚とは別の組織が働くらしい。だから痕が残る。

幼い俺に傷を負わせた、幼かった少女は、そのときのトラウマでもう個性が使えないらしい。実際、使おうとしないのか使えないのかは本人しか分からないが、なんせその本人が言おうとしないのだから真相は分からない。でもどうしても使おうとしないのなら、それは使えないのと一緒だ。

よく覚えてる。手先を鋭い刃物に変形させることができる彼女の個性を。



「痛かった、あんときは」
「本当にごめんなさい」
「でももう昔の話だろ、テメーも俺も幼かった」



それに何だかんだ言って、この傷を負ったのは俺の自業自得だ。なまえがデクのことを好きだと聞いたとき、俺は考えるよりも先に手が出ていて。そんな俺の行動をなまえが身を呈して止めてくれた。同時に俺から、デクも庇った。彼女は良いことをしたのに、結果的には俺の脇腹を切って、トラウマになって、傷を負わせた責任を感じて、俺とデクの間に飛び込んで止めてくれた行動に結果が見合わない。そして上乗せするように、俺がそんななまえのトラウマを利用して彼女をずっと傍に置いているのだからもう最悪だ。



「なあ、この傷痕一生消えねえって知ってた?」



かつきくん、あのほんとーにごめんなさい。ごめんなさい。いたかったよね。ごめんなさい。かつきくんのおかあさんは、こちらがさきにてをだしたようですしだいじょうぶですよ、っていってたってきいたの。でもけがをしたのはかつきくんで、させたのはわたしだから、ほんとうにごめんなさい。

幼いなまえは泣きながらそう言った。その長い謝罪に俺は、「きずあときえるまでせわしろよな」と言った。それからなまえは今までずっと、律儀に俺のちょっとした身の回りの世話をしているし、俺はもう傷痕なんか気にしていないクセになまえに世話をさせている。



「そうかなとは前々から思ってた」



それでもやはり、自分で思うのと俺から言われるのとでは違うらしい。傷ついたようにわずかに顔を歪ませたなまえを俺は直視できない。自分勝手だって分かってた。こんな、まだ良いことと悪いことの大体の分別はできるようになったばかりの頃に、俺の考えなしの行動によってつけられた傷痕に縛り付けるのは可哀想だと思った。

だけど、俺は、それでもなまえが好きだったから。彼女がデクのことが好きだと流れた噂、咄嗟に行動してしまった俺、そして好きな奴を庇うように個性を使ったなまえ、切られて倒れて意識が薄れていく中聞こえたなまえの言葉は「いずくくんだいじょーぶ?!……スキ!」である。そんな突然告られたらデクのやつ戸惑うだろうが。そして血を流す俺に駆け寄れよ。

気まずくて声も掛けられないクセにデクを見ると頬を赤くするとこを見ると、まだ好きなんだろうなと思う。

俺は彼女を想っていて、彼女は俺を想っていない。だから俺はこの傷痕に責任を感じる気持ちを利用して彼女を傍に置く。ただそれだけの単純なことなのに、糸が絡まりあったようなとても複雑なものにみえて。



「責任、感じてるんだっけか」
「そりゃあもう、すごく」



申し訳なさそうに笑ったその顔が何だか虚しい。別に笑う場面でもないのに彼女が笑うのは、強がりか何なのか。とりあえず心がキュッと、締め付けられているんだろう。そんな顔をしてる。

腕を広げて、来いよと言うとなまえは少しだけ戸惑いながらも、傷痕を隠すように俺の脇腹に手を通す。そのままきつく抱きしめると俺も彼女と同じように彼女の心の傷を隠せるような気がした。

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