爆豪勝己

私は今、口が閉じない状況にある。口に何かを入れられて閉じないとかそういうのじゃなくて、物凄く顎の関節が外れるほどに、驚いているのだ。携帯を持つ手が震える。震えすぎて画面が荒ぶる。そんな私を横目に、爆豪は心底めんどそうな表情を浮かべながらコミックのページをめくる。

「え?え......ええ?!」

え?うそ?まじ?ほんとですか、出久くん。
それが本当なら私は爆豪くんの彼女人生を歩み始めて数ヶ月、のうのうとその日を見過ごしてきたことを悔やみ続けることになるだろう。てかまず知らなかったし。え、なに本気で悔しい。悔しい。

「ば、ばば、爆豪くん!!」

携帯をベッドの隅へと投げて相変わらずマンガを読んでいる爆豪くんに勢いよく抱きつく。驚きのあまりなんとも言えないようなすごい表情をしていたのか、爆豪くんは私のほうを向いたときに何故か一瞬だけ動きを止めたが、すぐにお得意のうぜえ離れろという心にもないツンツンデレ発言をし始めた。本当は嬉しがってるのわたし知ってるんだぞ。
じゃなくて、

「ンだよ」
「た、誕生日が4月の20日ってほんとですか?!」
「誰から聞いたんだよンなもん」
「出久くんだけど」

はあ?とその名前が出ただけで眉間にシワを寄せるのだから相当だ。ごめんなさい、出久くんの名前を出してごめんなさいと心の中では謝るけど口には出さない。口に出している場合ではないのだ。ついさっき出久くんにLINEで、“爆豪くんがなかなか誕生日を教えてくれない(;_;)いつか知ってる?”と送ったら“4/20だよ〜”と返って来たので冒頭に戻る。びっくりしながら感謝の気持ちを送ったので“まぎ?!ありがとあ!!!”と誤字していたのは後から知ったことだ。

「てめーデクのことは名前呼びなのに何でオレのことは名字呼びなんだよ」
「...嫉妬したの?え、かわいい勝己くん!」
「うるせえな!!」

黙れとぷんすかしているけど、ぴったりとくっついた耳が少しだけ熱を持ち始めたから照れているんだと思う。かわいい。爆豪くん改め勝己くんも嫉妬してくれるんだと思うと彼が非常にかわいく感じた。きっと勝己くんの中では、彼氏の名字呼び<友達の名前呼びで対抗心もどきのモノが燃え上がってしまったのが大きかったんだろうなあとは思うけど。

「それより誕生日…私たちが付き合った日いつ?」
「......4月18」
「2日後じゃんなんで教えてくれなかったの!」
「別に深い意味はねえから」

えー、と肩を落とす私を勝己くんは一瞥して頭の重心を傾けてくる。ぎゅうっと勝己くんの首に回す腕に力を込めて「彼女としてお祝いしたかったのに」とぽつり呟くと、彼は小さく唸り始めてしまった。いつになく寂しそうな顔をして私の顔を見つめる。

「付き合ったばっかだし、気ィ使うだろ。お前張り切って、これ!とか言ってたっけェの買ってきそうだし、ンなの申し訳ねーから。...とりあえずムリさせたくなかったんだよ分かれよ」

そう切り出した彼に、私の心臓は急激に動きを速めだしたのだった。彼の向こうに、矢を射る天使が見えた。そして見事に私は射止められてしまった。普段はあんなにキリキリしていてツンケンしていて、暴言吐くなんてことはザラで、帰り道に手を握ったらあっちいと手を振りほどいてくるような勝己くんなのに、今のはあざとかったので本当に心臓がもたないかと思った。たまにこういうギャップを見せるてくるなら、たまにすごく私想いだから、いつもツンケンされても暴言吐かれても、何気好きで離れられないのだ。

「勝己くん、わたし勝己くんの誕生日お祝いしたい。お祝いさせて、大好きだもん。祝えなかったほうが後悔する、悔い残る引きずるよ。だって今当日祝えなかったことすごく後悔してるもん遅ばせながら大好きな人の誕生日お祝いしたい!」

おねがい、と一言付け加えて耳と耳から頬と頬へとくっつけたら、しょーがねーなと小さく呟いてずっと手に持っていたらしいコミックを床へと放り投げる。「気遣ってくれてありがとう、嬉しいよ」と頬をスリスリするとうっせ黙れと言われた。彼の暴言は照れ隠しなのだ。私が勝手にそう思ってるだけなのかもしれないけど、黙れという時は大体本気でキレてるか照れてるとき。照れてるときは彼の身体の末端の温度が少しだけ高くなるのですぐ分かる。さっきの耳の熱さがずっと継続されているので、今は照れてる。

「よし!じゃあ即行動だよ勝己くん。××スポーツ店行こ!登山で使うの欲しいって言ってたよねちゃんと覚えてる。それ買いに行こ!そのあとは近くに美味しいカフェあるからケーキね!今日は私の奢り」

今日は午前中から勝己くんの家にお邪魔してるから今は13時。大丈夫、まだ時間はある。さて行くぞー!と彼の手を握ってベッドの隅にある携帯を回収して起立する。足を進ませようとする私に、あ、ちょっと待ってと言わんばかりに握る手に力を込めて自分の方へと連れ戻す勝己くん。いつもはぎゅっとなんてしてくれないのに今は抱きしめられていて、彼の鼓動がダイレクトに聞こえてきて私の体温も急上昇していく。しばらくそのままで彼の温もりを堪能した後は、勝己くんの「上向け」という指示に従って上を向く。勝己くんの顎が近くなったと思ったら、おでこにキスをされていて、あっという間に勝己くん自体も離れていった。ただ手はぎゅっと握られたままで、行くぞなんて、さっきと立場が逆転して彼が引っ張ってくれるらしい。

勝己くんはポーカーフェイスを気取ってあまり顔に出さないようにしていたみたいだけど、赤くなった耳ときゅっと引き締められた唇は隠せなかったみたいで勝己くんてばなんてかわいいのだろうと心底思いました。





このあと、××スポーツ店で勝己くんの登山用のでっかいリュックその他もろもろを購入した後に、近くのカフェでとても美味しいケーキをいただきました。何でもかんでも買ってあげると言う私を見て彼は少しだけ焦っていましたが、倍にして返すわありがとなお前の誕生日楽しみにしとけ、という顔に似合わずイケメンな言葉を残してくれた彼に感服しました一生付いていきたいです。





(今年もかっちゃんの誕生日が来たーーだいぶ過ぎてしまった申し訳ないです遅ばせながら愛しの爆豪勝己に献上致します(;_;))

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