轟焦凍

1月10日 午後11:59

焦凍の部屋の扉に手を掛けて、

1月11日 午前12:00

開け!ようとしたら、逆に中から開けられた。
小分けにしてあるショートケーキを片手に、焦凍と目が合ってしばらく無言が続くけど「何してんだ」という彼の言葉にハッとして、慌てて誕生日おめでとう!と言う。

しくじった。

こんなタイミングで焦凍が部屋から出てくるとは思わなかったから、予め12時ぴったりに突撃できるように部屋の前で待機していたのに。こんな夜遅くに笑顔で招き入れてくれた冬美さんや、頑張って欲しいと不器用ながらに応援してくれた焦凍父に何だか申し訳なくなってくる。



「お、おう...さんきゅ」
「あの......ハッピーバースデー...」
「......さんきゅ」



お互いのサプライズになってしまった。おめでとうと咄嗟に言った私も、訳の分からぬままお礼を言った彼も驚きが隠せない。とりあえず焦凍が腕を引くので部屋の中に入らせてもらった。適当にテーブルの前に座って、お皿を置く。焦凍はこんな広い部屋なのに何故か隣に座ってきて、軽く肩が触れて。心配したような面持ちで私の顔を覗き込む。


「こんな夜道に1人で来たのか?」
「そうだよ」
「危ねえだろバカ」


こんなに手も冷えてるし、と手を握ってくれる彼の手から共有するように温かさが伝わってきた。私の家から焦凍の家まで徒歩20分弱。私がなぜ家の中に上がり込んでいるのかとかそういう疑問よりも、私が家からここまで1人で来たことに対しての危惧の念の方が勝るらしい。めっちゃ至近距離で説教まがいのことをされて戸惑う。夜道は危ないだとか、そういうときはちゃんと俺に言え迎えに行くからみたいな。いやいや、焦凍にサプライズするために焦凍が迎えに来てくれたら、それはもうサプライズじゃなくて別のものになってる気がする。


「ごめんね、今日は特別」
「...悪い。ありがとな、今日だけだぞ」
「え?焦凍の誕生日に対して謝った?」


確かに私は、こんな敵が蔓延る世の中で少し無茶をしたのかもしれない。けど焦凍がその行動をさせたことについて謝るのはけっこう違うと思う。だって、焦凍に言わないで独断で決めたことだから。そん時に何かトラブルがあっても自己責任だ。それでも焦凍は、お前に何かあったら心配で寝れねえという懸念があるようで。心配してくれるのはとても有難い。


「改めて、誕生日おめでとう」
「さんきゅ」
「心配かけてごめんね」
「もうナシな」
「ケーキ作ってきたんだ。
 当たったらごめんねぜひ食べて」
「...変な文句置いてくなよ」



テーブルの上に置いた皿を彼へと差し出す。ちゃんと焼いたし食べて確認したから生焼けってことはないだろうけど、一応宣言しておく。ケーキを見つめて少し経ってから、焦凍は微かに笑ってありがとうと言った。私の口端もつられて上がる。焦凍が笑ってくれると、私の心が満たされてく感じがして、好きだ。ケーキを食べた彼が美味いだなんて更に笑うから、私の心も更に満たされてく。その笑顔が見たかった。


「焦凍が笑ってくれてよかった」


最初はお互いサプライズでどうなるかと思った。ケーキを食べる彼にそう言うと、こっちのセリフだと言われた。扉を開けたらいきなり私がいてビビったと。


「俺の誕生日覚えてんのかなって、良くて12時ぴったにメッセージがくるだとか電話がくるだとかそこらへんかと思ってた。けど扉開けたらなまえがいて、夢だって目を擦りたくなったけどお前すっげえ驚いてたから夢じゃねえなって確信した」


あ、ケーキ完食してる。速い。
カチャリと音を立ててフォークを置いた焦凍は私の頬に手を添えて、まだ甘さの残る唇でキスをした。うん、やっぱり甘い。クリームの甘さ。2、3回軽く吸いつかれて、焦凍にまとわりつく雰囲気もなんだか甘い感じになっていく。


「なあ、来てくれて嬉しいよ」
「私も来てよかったって思ってる」
「好きだ、これからも支えて欲しい」
「もちろん。この1年が焦凍にとって素敵な1年になりますように」
「お前がいなきゃなんねーよ」


だからこれからも一緒にいてくれ、と呟いた彼はまた口付けを落とす。それがだんだんと深いものに変わっていったのを甘く享受して、そのまま布団へと倒れ込んだ。

もどる