「エドー!七面鳥獲ってきたよ!」「おー七面鳥か……って七面鳥!?」「うん!クリスマスって言ったらやっぱりこれでしょ」「獲ってきたっておいそれまだ生きてんじゃねーか!」「活きの良さが大事かなーって」「どこで捕まえたんだよそんなの!」「裏の山」「近っ!」「私は強いからね。この位の鳥捕まえて捌く位どうってことないの!」「それ捌くのか……」「まだまだこの程度だよ。もっと強くなったらもっと大きいの獲ってくるから」「そーかよ」「そーなの。私は、エドを守れるくらい強くなるんだから」「……おい」「何?」「逆だろ」「え」「だから!……お前じゃなくて、俺が強くなって、お前のことを……その」「守ってくれるの?」「……おう」「……私より背の小さい人に言われたくないなぁ」
「――あははっ!あったねそんなこと!」
楽しそうな笑い声。記憶の中よりもずっと大人びた名前が、笑顔のまま昔を懐かしむように目を細めた。
「その後エドが怒っちゃってさあ。本当、小さいのは事実だっていうのに」
「今は俺の方がデカいけどな」
「男の子は一気に身長伸びるからずるいよね」
ずるいとはなんだ。
はあ、とわざとらしく溜息を吐いた名前は、持っていた赤いリボンの飾りを枝に括りつけた。あの頃よりずっと小さく見えるクリスマスツリー。実際にツリーが小さくなった訳ではなく、エドワード自身が大きくなっただけだろう。それだけで、あの頃とは何もかもが違うように見える。
「いつの間にか私がエドを見上げているしさあ……ちょっとエド、サボってないでよ」
名前に言われて、ようやく自分が動きを止めていたことに気付いた。
「ああ、悪ぃ」
「はいはい。あ、そっちの玉飾り取って」
言われるままに渡した金色の飾りを受け取って、楽しそうにツリーに括りつけている様を横目で眺める。生け捕った七面鳥の足を引っ掴んで笑っていた少女とは思えない、至極牧歌的な風景だ。(そりゃ、変わったのは俺だけじゃないよな)心の中で独りごちて、また声をかけられる前に煌びやかな飾りに手を伸ばす。
少しは、変われているんだろうか。
身長だけではなく、もっと、深い所で。
「……なあ」
「何?」
「何があっても、お前のことは守るからな」
名前が大きく目を見開いて、エドワードの方を見た。
自分の言葉の気恥ずかしさに、視線を感じながらもその方を向くことが出来ない。エドワードが目の前のツリーをただ睨みつけていると、ああ、と得心したような声がした。
「あの時の話か!いきなりどうしたのかと思っちゃった」
嬉しそうに弾む声。ちらりと名前を見ると、はにかんだ笑顔と目が合った。図らずともぶつかった視線に頬が熱を帯びる。慌ててツリーに顔を戻して、誤魔化すように林檎型の飾りを取った。
「……何か文句あんのかよ」
「文句はないよ。残念ながら背を抜かれちゃったし、私より強くなっちゃったし」
でも、と名前が付け足す。
「人を守るってさ、案外難しいことじゃない?」
予想外の言葉に、今度はエドワードが目を見開く番だった。
名前はふっとエドワードから視線を逸らすと、小さく笑顔を浮かべる。
「だって、それって私に背中を向けるってことでしょ。私が後ろからエドを刺したらどうする?」
「おい」
「冗談。でも、誰かを守るのが難しいっていうのは本当でしょ。それだけ弱みが増えるっていうことなんだから」
淡々とした口調。口元は笑っているが、もう冗談を言っている雰囲気ではない。
それに、名前の言葉は紛うことなき事実だった。
「……名前」
「だから」
何か言おうとしたエドワードを遮って、名前が言葉を続ける。
「だから、私がエドの背中を守るよ」
明るい口調と、明るい笑顔。
幼かった頃とは違う、確かな意思。
「エドが私を守ってくれるなら、私もエドを守るからさ。そうすれば、怖いものなんて一つもないでしょ?」
背は抜かれちゃったけど、と少しだけ残念そうに呟く。
言葉を失っていたエドワードは、微かに笑って名前を小突いた。
「あいたっ」
「言うじゃねーか」
「だって私は強いからね」
「俺の方が強いけどな」
「奇襲かければ私だって勝てるよ」
「どれだけ不意つかれたって負けねーよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
不満そうな表情を崩さない名前をもう一回小突くと、すぐに表情を崩して笑顔を浮かべた。「お返しっ」「いてっ」エドワードの脇腹を突いて、何も無かったかのようにツリーの飾りつけ作業に戻る。一瞬文句を言おうとしたエドワードも、結局黙ったまま名前に倣った。
(私が、エドの背中を守るよ)
名前の言葉が、脳内で繰り返される。
エドワードも名前の成長に合わせるように、“エドを”守るが“エドの背中”を守るになった。きっとそれは、名前がエドワードのことをあの頃よりも信頼するようになったからだろう。
その事実は、誤魔化しようにもなく嬉しい。
「エド」
「何だよ」
「何でにやけてんの」
「にやけてねーよ!」
手にあった飾りを床に叩きつけて反論する。(にやけてたか、俺!?)確認しようにもないことに焦ると、それが面白かったのか名前が声を上げて笑い出した。
「絶対にやけてたよ、何考えてたのー?」
「うるせーな!」
「あははっ!いいじゃんいいじゃん、幸せってことで」
名前の言葉に毒気を抜かれて、溜息だけが零れた。ああ、もう良いか。彼女の言葉の通り、幸せなんだし。
とある幸せなクリスマス
(で、何考えてたの?)
(蒸し返すなよ!)
8×3honeyさんへ、改装お疲れ様的なプレゼント。
またもや初書きの人で失敗してしまった感があります。
ごめんなさい。麻鈴のみお持ち帰りフリー。