いつも私が座っている椅子をなんとなしに眺める。ヌーゴさんのお部屋にはちょくちょくお邪魔して、いつも私はあの椅子に座っていた。でも何で今日は一緒に一つの椅子に座っているんだろう。しかもこんな、後ろから抱きしめられちゃって。そりゃあヌーゴさんは私よりずっと背も高ければ力もあるし、私を膝の上に乗せるのも簡単なことなんだろう。でも、いいのかな。誰か来たらどうするんだろう。ヌーゴさん、結構国のお偉いさんなんだろうし。まずいんじゃないのかな。
そんなことを考えながら、ヌーゴさんの肩に後頭部を乗せる。大きな手が私の中途半端な長さの髪をくしゃりと撫でた。ほんの少しくすぐったい。
まあ、まずかったらヌーゴさんがどうにかしてるだろう。私が気にすることじゃない。考えることをやめて、そのまま目を瞑った。春の日射しみたいな温度が心地いい。


ヌーゴさんに触れている瞬間は好きだ。硬い感触も柔いぬくもりも、全部ひっくるめて私を満たしてくれる。きっとこれが幸せなんだって心から信じられる、そういうあたたかなもの。それは甘い中毒みたいに、私にとってなくてはならないものになっていた。


私を包むがっしりとした手に、そっと触れてみる。たくさんのものと闘う、強い力の宿った手。それが今は私だけのものみたいで、小さな優越感がこみあげてきた。



「ヌーゴさん」

「何だ」

「私、幸せです」

「奇遇だな。拙者もだ」



ああ、あたたかい。








ただの糖分不足。
時々甘いのばかり書きたくなる不思議。


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