※捏造設定注意





「若王子君」

私の声に、窓の外を見ていた若王子がこちらを見た。

「何?どうかした?」

「……んーっとね」

なんとなく、言いづらい。
時間稼ぎに視線を泳がせると、こちらを遠巻きに睨みつけている知らない女子と目が合った。あ、すぐに逸らされた。
若王子と一緒にいると、どうも同姓の視線が突き刺さる事が多い気がする。別に、同席している奴の顔が良いのは私のせいではないと思うのだけど。
続きを誤魔化すのを諦めて、視線と思考を若王子に戻した。

「なんか、若王子君の連絡先教えてーっていう人等がいるんだけど」

「僕の?」

不思議そうに聞き返される。
その様子から察するに、今のところ、直接聞かれたことはないのだろうか。

「イエス、若王子君の」

「……何か用があるのかな」

「っていうよりは……まあ良いや。えっと」

携帯を開いて、聞いてきた人達の名前を順に読み上げていく。
全員の名前を告げて顔を上げると、若王子が眉間に皺を寄せて考え込んでいた。

「二人は知らないけど、残りは同じ講義を取ってる人達だ」

「話したことは?」

「ないと思う。……連絡先を知りたいっていうことは、もしかしてあったのかもしれないけど」

「うん、多分ないから安心して」

あったら自分で聞きに来ているだろう、きっと。
……それにしても、相変わらず鈍い。
全部女の名前な辺りで、何かしら気付いても良さそうなのに。(まあ、鋭い若王子っていうのはちょっと嫌だけど)そんな鈍王子に事実を伝えるべきか一瞬悩んだが、なんとなくやめておいた。

「それで、教える?」

その代わりに聞くと、若王子は返事をせず目を伏せた。

……鈍いのは変わらないけど、前に比べれば表情は段々豊かになってきている気がする。
最初に会った時には、表情筋が無いんじゃないかと疑う程だったのに。

そんな事を考えていると、若王子がふっと目を上げた。

「苗字さんは、どうしたら良いと思う?」

「ん、え、私?」

唐突な質問に返事が遅れた。
なぜこのタイミングで私に意見を求める。

「うん。どっちの方が良いかな」

「……いや、教えたいなら教えれば良いんじゃ?もしかしたら良いお友達になれるかもよ」

私の言葉に若王子が瞬いて、小さく首を傾げた。

「友達って、苗字さんみたいに?」

「まあ、私は若王子君のお友達なつもりだけど」

そうじゃなかったら何なんだ。知り合い以上友達未満とかだったら若干虚しいんだけど。

「いや、苗字さんみたいな人は他にもいるのかな」

「それは喧嘩売ってるんですか」

「や、そういう事じゃなくて。僕にとって友達っていうのは苗字さんの事だから。他の人がどうなるのかは、よく分からない」


若王子の何気ない言葉に、返答の言葉を失った。


――確かに、若王子は私以外とあまり話をしない。
表情が豊かになっているのも、見たところ私相手だけのようだし。傍から見れば、ひたすらに無表情の顔が良い青年といった感じか。

それにしても。
私みたいな人ということは、感情を表に出せる存在が私以外にも欲しいんだろうか。


「……んー、私みたいなっていうのは難しいかもね。彼女等の方が私より性格良いかもしれないし」

私の軽口に、若王子は曖昧な笑みを浮かべた。
そして、小さく息を吐く。

「……まあ、良いかな」

「良いって?」

「その人達に連絡先教えるの、今回はやめてもらっても大丈夫?」


僅かに、目を見開く。
それを見た若王子が、困ったように眉を下げた。

「や、何か問題があるなら……」

「いやない。ないよ。ちょっと驚いただけ。え、何、教えなくて良いの?」

「その人達の事、僕はよく知らないし。
 ……それに」

一旦言葉を止めて、自然な口調のまま続けた。


「今の僕の友達は、苗字さんだけで良いって思うから」



一瞬、息が止まった。

思わず若王子の顔を見る。
冗談を言っている口調でも表情でもない。どこまでも自然で、真面目な言葉。

言葉を失ったのは、嬉しさや呆れなんてものを感じたからじゃない。
得体の知れないものを前にした時のような、漠然とした恐怖心。

だって、私だけだなんて。
どう考えたって、そんなのはおかしいじゃないか。



若王子君。
それは、友達なんてものじゃないよ。


本当は、そう言わなきゃいけないんだろうけど。



「……じゃあ、適当に断っておくね」


それでも、私の口から出たのは肯定の言葉だった。
別にあの人等は若王子と友達になりたい訳ではないだろうと、内心で誰かに言い訳をする。

「うん、よろしく。迷惑かけちゃってすいません」

「別に大丈夫だよ」

そう返事をしながら、浮かびそうになる苦笑をなんとか押し隠した。
本当、私は何を考えているんだろう。

私だけに見せる表情、笑顔とか、そういうもの。
彼の信頼を、こんな形で返したいんじゃないのに。


「私と若王子君は、友達だからね」





それを独占したいと願ってしまうのは、何でなんだろうか。







昔上げていたけどあまりの捏造ぶりに耐え切れず下げていたのを思い出したのでこちらに。
若はどうやって教職の免許を取ったんだろう、という妄想の果てに生まれた大学若設定。
夢主にしか感情を晒さない若とそれに安堵してしまう夢主のぬるま湯共依存とか!萌える!!
というだけの話でした。誰得俺得。



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