「君」

「……ってうわ最あ、じゃないこんにちはアルケイン将軍!いつもご苦労様です私もしがない一兵として出撃して参りますそれでは」

「そんなに焦らなくても、ルスランの紋章ははっきり見えているよ」

「目の錯覚です」

「この状況でよくそんな大嘘を断言出来るな」

「え、あーいやだってこの身に恥じる点は一点もありませんし」

「それなら、僕もネクロスに生きる者として君を斬るのを躊躇う理由は一つも無いね?」

「ありますよ多分。探す前から決め付けるのは駄目ですよ」

「言い残した事はそれだけか?」

「ストップ!ありますいっぱいあります山のようにあります。とりあえず剣を仕舞ってください落ち着いて」

「残念だけど僕は将軍だからね、そうはいかないな」

「いや、グラス出すならそっちは仕舞いましょうよ。ネクロスの方々は皆ワイン飲みながらバトるんですか?」

「これしき慣れれば普通の事だよ」

「わー飲み始めたよこの人」

「君も飲むかい?」

「遠慮しておきます。まだ若いので」

「ふうん。何歳だ?」

「十九です」

「若いな」

「若いです。ぴっちぴちです」

「年の割には、剣の腕は秀でているようだが」

「あら見ていらっしゃったんですが恥ずかしい」

「ランカーか」

「違います」

「嘘だな」

「なぜバレた」

「ルスランで若い女剣士が成り上がったと風の噂で聞いていたものでね」

「きゃー私ったら有名。最初ネクロス兵のフリしていたのが超恥ずかしい」

「確かに筋は良い」

「お褒めに預かり光栄の至りですみたいな」

「そこで、だ。君も、後々邪魔になりそうな芽は早い内に摘んでおくべきだと思わないか?」

「思いません。若き芽の成長を見守るのが先駆者の定めですよ」

「仕方ないな。それなら、さあ、かかって来れば良い」

「命を懸けての剣術指南ですか。有難過ぎて泣けてきました」

「君はまだ若いから知らないのかもしれないが、死ぬのは手間のかかる事だからね。僕が終わらせてやろう」

「逃げます」

「待て」

「悪いけど私は死にません」

「敵に背中を向けるなんて、君の上司が何よりも嫌っていそうな行為じゃないか」

「そのレオニール様に、生きて帰って来いと言われたので」

「その為に逃げる、と」

「それがあの方のご命令ですから。私の帰るべき場所に、何が何でも帰ってみせますよ」

「……ふうん」

「もし良かったら、見逃してくれません?」

「君、ネクロスに来る気はないか?」

「今の流れでどうしてそうなったんですか。ちょっと私びっくりしちゃいましたよ」

「ネクロスも、君の帰る場所と成り得るだろう」

「……いえ、私はあの方の元に帰ります」

「そうか」

「見逃してくれます?」

「気が変わった。また会える事を祈っているよ」

「……えー」

「君、名前は?」

「え、あ、名前です」

「名前、か。いつでもネクロスに来れば良い、歓迎しよう」

「……そりゃどうも。じゃあ、貴方の気が変わらない内に行きます」

「また戦場で会おう。ワインを飲めるようになったらね」





「あ」






何暢気に名乗ってるんだ、私。







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